第153話 狙撃

 今日は冒険者バトルの日。

 さて、今日はどんな手加減をするかな。


「両者構えて、始め!」


 どこか遠くで銃声みたいな物が聞こえた。

 みると対戦相手が腹から血を流して倒れ込んでいる。


【おっさん、勝てないからってスナイパーはないだろ】

【ついにキレて犯罪者か】

【こんな見え見えの狙撃はしない。俺はおっさんを信じてる。刑務所への差し入れは殺し屋漫画を差し入れてやろう】

【事件の目撃者っての。それに初めてなった。警察とかが話を聞きにくるのかな】

【おっさんともお別れか】


 俺じゃない。

 ここでみっともなく俺じゃないなんて言っても誰も信じないだろう。

 取れる手としては。


「おい、意識はあるか。あるなら俺の寄生スキルを受け入れろ」

「ぐあっ」


 寄生できた感触があった。

 男は急に痛みがなくなったので立ち上がって傷口を確かめている。

 致命傷だったな。

 感謝しろよ。


【どういうこと】

【サクラだよ。血糊がどばっと出る奴。撮影なんかに使うだろ】

【なんだ。まいど八百長判定されるんで、ドッキリを仕掛けたのか】

【騙されたよ】


「八百長により両者反則負け」


【結局こうなるのか】

【いや今回のはわざとだろう】

【俺、騙されたよ】


 狙撃した奴は誰だ。

 俺は会場から離れると、カメラを仕舞い、ファントムになった。

 そして、銃声が聞こえた方角のビルを目指す。

 会場にいるモチにも来てもらった。


 ビルの屋上に上がると。


「火薬臭いにゃ」


 とモチが言い、薬莢を見つけ出した。


「追えるか?」

「火薬の匂いは独特にゃ。追えると思うにゃ」


 俺とモチは追跡を始めた。

 くっ、車に乗られたようだ。

 ビルの前で、匂いが薄くなったようだ。


 モチを肩車して軽く走る。

 モチが手で行先を示す。

 そして、ついに犯人に追いついた。


 犯人はコンビニで買い物している。


「決まりか」

「服に火薬の匂いがべったりにゃ」


「おい、お前、来てもらうぞ」

「なんだ」

「その肩に掛けたギタースーツ、ライフルが入っているんだろ。ファントムアイにはお見通しだ」

「くっ」


 男はナイフを抜いた。

 俺は軽く男の手首を叩く。

 ボキっと折れる音がした。


「ぐぁぁぁ」

「抵抗するからだ」


 ええとコンビニの防犯カメラにナイフを抜く所が映ってるから正当防衛だよな。

 でも聴取は不味い。

 モチにこの後の手筈を説明した。


「モチ、大手柄だ」


 そう言って後はモチに任せた。

 手を叩くのが早くて見えてなければ良いが。

 まあ、例によってファントムはいない。

 男には呪いも付与してやったから、取引に応じるだろう。


 さて、ファントム争奪戦だ。

 今回は骨のある奴がいるといいな。


 炎を出しながら走り、いつも通り会場入り。


 トランペットや太鼓、笛などが鳴らされる。

 今回の技は、ティレックスファングスパーク。

 両手から電撃魔法を放ち、手でガブっとやる動作をする。

 電撃魔法は演出だ。

 ただのアイアンクロー。


 さて一回戦だ。


「構えて、始め! ファイ!」


「ティレックスファングスパーク」


 俺は相手の頭を挟み込んだ。


「痛たたたた。ギブ」


「降参により澄水とうすいの勝ち」


 銅鑼などがけたたましく鳴り響く。

 決勝戦まで大した奴はいなかった。

 決勝の相手はムキムキのマッチョでいかにも強そう。


「構えて、始め! ファイ!」


「ティレックスファングスパーク」


 俺は相手の頭を挟み込んだ。


「せいっ」


 相手は俺の胸に正拳突きを放った。

 これで手を捻ったら首の骨が折れるよな。

 正拳突きはダメージではないし、どうしたものか。

 ギブアップしてくれないかな。


 あまり我慢すると頭蓋骨にひびが入ると思うんだけど。

 俺は右手で掴んでる頭をしっかり固定。

 左手は顎の下にやって、くすぐり始めた。


「ぐひゃひゃ。おま、卑怯だぞ」

「ティレックスファングテイックル」


「ギブギブ」

「降参により澄水とうすいの勝ち」


「防衛、3.5回おめでとうございます」

「3.5回とは?」

「エキシビションが0.5回とカウントされてます。では今回はどうでしたか」

「うむ。歯ごたえがないな。強者よ、もっと掛かって来い」

「冒険者の皆さん、冒険者協会では、ファントム戦の挑戦者を広く募集してます」


「ちょっと悪いが、ファントムさんよう」


 刑事らしき人が現れた。


「何かな」

「事件を解決してくれたことには礼を言うが、偽証教唆はいけないな」

「ほう、何か証拠でも」

「ないが、あまりお痛が過ぎると、ファントムとはいえしょっ引くぞ」

「逮捕状を持ってくるのだな。ではさらばだ」


 俺はおっさんになった。


「刑事さん、俺が犯人を捕まえたんだよ。モチは俺の部下だ」


【配信がないんで経過が分からない】

【何の犯人?】


「何か知ってるのか」

「狙撃事件の犯人だろ。俺の力をもってすれば、狙撃ポイントの犯人の顔がくっきり見える」

「嘘を言って貰ったら困る。警察はファントムが解決したと見てる」


【ファントムの功績を横取りか】

【またしてもか。懲りないな】


「ファントムはいない。あの場にいたのは俺だ」

「防犯カメラにもファントムが映ってる」

「事件を解決したのは俺なんだ」


【相手にされてないな】

【狙撃はヤラセじゃなかったのか】

【別の狙撃事件じゃね】

【ああ、狙撃事件を目撃して、あの冒険者バトルを自演した】

【そうか。全てはファントムの功績を奪うため】

【せこいな】

【クズっぷりが凄い】


 うん、なんかしっくりこない終わりになったな。

 もうちょっと大物の悪役感が出せたら良いけど、今後の課題だ。

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