第139話 ヒールハートビートサンダー

 巨人のダンジョンに向かう途中にスタンピード。

 ファントムの出番だぜ。


 俺はカメラを弥衣やえに渡すと仮面を被って着替えた。


【おっさん、スタンピードが起こるとカメラをヤエちゃんに渡すな】

【自分の行動を見せたくないらしい】

【今も姿を消している】

【ファントムがやって来たぞ】


「お嬢様方、避難するのだ」


「チアフルの平治には連絡してくれたの? 連絡がないのだけど」

「確かに連絡した」


 やべぇ、綺羅々きららになんて言おう。

 彼は忙しい、駄目だ。

 メールぐらい送れる。

 綺羅々きららのSNSは調べればすぐに判る。


 怪我をして療養中。

 こういう嘘は良くない。


 遠い所に行ってしまったのだよ。

 うん、死んだみたいだ。

 追及されるに違いない。


「実は彼は、パーティメンバーの一重と婚約した。浮かれているのだ。許せ」

「そんな感じだったものね。ちょっと悔しいわ。私のことなんて眼中にないと言われているようで」

「諦めろ」

「あなたは恋人いるの?」


 何で俺。

 あー、恋人はいないは弥衣やえが怒る。


「恋人はいる。おお、スタンピードによる被害者の声が聞こえる。さらばだ」


 うん、色々と不味い。

 一度ファントムのバックボーンをちゃんと作らないとな。

 そんなことを思いながらバールでモンスターを叩きまくる。


【おっさん逃げたか】

【ヤエちゃんが持っているカメラには映ってないな】

【ファントム恰好良かった。恋人がいるんだな】

【いるだろ。マッチョはもてる】

【俺も体を鍛えよう】


 弥衣やえ達も順調にモンスターを討伐してる。

 俺の配信映像で確認した。


 綺羅々きららは俺の一人二役に気づいていないのか。

 チアフルの平治を入れれば三役だ。


 おっと、炎を纏った巨人がいた。

 ファイヤージャイアントか。

 握られた冒険者が一瞬で灰になる。


 俺はファイヤージャイアントを連打した。

 アダマンバールを瞬時に溶かすほどの温度ではないらしい。

 ファイヤージャイアントは死に纏った炎が消える。


 歓声が上がった。

 俺は片手を上げて応えた。

 そしてまた走り出す。


 次も巨人か。

 こっちは吹雪を纏ってる。

 フロストジャイアントだな。

 フロストジャイアントの周りは凍り付いてる。

 斬りかかった冒険者の剣が凍り付き。

 腕が凍り、体全体が凍り、砕け散った。


 熱くなれ連打だ。

 バールを俺は素振りした。

 バールの速度は上がっていき、バールは炎をまき散らし熱を帯びた。

 もちろん火魔法で温めている。

 素振りは演出だ。


「バーンストライク!」


 俺の灼熱のバールがフロストジャイアントを打ち据え、フロストジャイアントは爆発した。


 歓声が上がる。

 俺は全力で次の場所に向かった。

 次は、蔦を全身から生やしている巨人だった。

 アイビージャイアントだな。

 蔦に絡めとられた人達が苦しそうにもがいてる。


「バールソウ」


 バールで蔦を斬りまくった。

 そしてアイビージャイアントを連打。

 難なく仕留めた。


 歓声が上がる。

 蔦で締められた人たちの何人かは呼吸がないようだ。

 心臓マッサージをしてる。


 よし、ちょっと本気を出そうか。


「離れていたまえ」


 心臓マッサージしてる人達が離れる。


「電撃プラス回復魔法。ヒールサンダー」


 何人かは息を吹き返した。

 息を吹き返さない人達に俺は手を合わせた。


「そんな。あなたに見棄てられたら」


 うん、回復魔法と電撃、あと組み合わせるとしてたら毒だな。

 心臓の動きを早くする毒魔法がある。

 モチの話では暗殺に使われるらしい。

 病死を装えるからだ。

 何となく必要かなと思って覚えておいた。


「電撃プラス回復魔法プラス毒魔法。ヒールハートビートサンダー」


 全員が息を吹き返した。

 救急隊員が敬礼。

 俺も敬礼を返す。


「ありがとうございました。主人が助かりました」

「お父さんを助けてくれてありがとう」


 出たとこ任せだったんだがな。

 もし、責任を追及されたら、ファントムを消すつもりだった。

 俺が卑怯な手で葬るという筋書きだ。

 だが、ファントムの死骸は残らない。

 それでうやむやになる予定だった。

 ならないか。

 ならないような気がする。


 まあ、責任を追及されたら金の力でなんとかしよう。

 その方が俺らしいな。


 今回の大物は巨人が多かった。

 あのダンジョンの討伐を急がないといけないようだ。

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