第3話 化け物と出会った日

Side:笠幡かさはた留美るみ


 私達は失敗した。

 Aランクダンジョン95階層、フィールド名ダイヤの洞窟に討伐に行った私達はダイヤドラゴンに出くわしてしまった。

 ダイヤドラゴンはラスボスでもおかしくないわ。

 それがなんでフィールドに。


「ギャォォォォン」


 ダイヤドラゴンが吠える。


「戦闘態勢。後衛は魔法で頭を。前衛は武器で足を。尻尾に気を付けろ」


 リーダーから指示が飛ぶ。


「出し惜しみはなしよ。獄炎」


 魔力を注ぎ込まれこれでもかと高温になった火の玉がダイヤドラゴンの頭に向かっていく。

 隣ではやはりパーティメンバーの魔法使いが火の玉を撃っていた。


 ダイヤドラゴンはそれらを避けるそぶりも見せなかった。

 魔法は当たり、火の粉を散らしただけに終わった。


「くっ、ダイヤモンドで出来ているなら、燃えなさいよ」


 頭に魔法が着弾したタイミングで前衛が仕掛けたが、足で蹴られ吹っ飛ばされて転がった。

 回復役が駆け寄り、手当する。


 戦闘は進み、私の魔法でも傷一つ付かないダイヤドラゴン。


 とうぜん前衛の攻撃にも無傷だった。

 5本あるエリクサーも全部使い果たし、リーダーが撤退の合図をした。


 逃げられるかしらね。

 私の人生も終わりかな。

 逃げるために振り返ったら、場違いな人物が呆けて立っていた。

 色褪せた作業服に両手には軍手。

 武器は鉄パイプのようね。

 Aランクダンジョンにこの格好はあり得ないわ。


 私は彼を追い越して、そして彼がどうなるかと思って振り返った。

 彼は恐怖のあまりしゃがんでいるようだった。

 可哀想だけど助けられない。

 彼の犠牲が無駄じゃないことを祈るわ。


 その時彼がすくっと立ち上がって鉄パイプを振りかぶった。

 逃げればいいのに。


 そして驚くべき光景を見た。

 鉄パイプの一撃で粉々になるダイヤドラゴン。

 ちょっと、どう言うこと。

 理解が追い付かない。

 あんな武器で一撃。

 Sランク冒険者が初心者のふりをしてた?


 ちぐはぐね。

 何もかもがちぐはぐ。


 彼は謝ってきた。

 なんの冗談よ。

 連絡先を交換する。

 これだけ強いのだから、お近づきになっておくのは利点しかないわ。

 交渉役の役目を果たさないと。


 冒険者協会まで彼を送る。

 とりあえずの謝礼を渡そうとしたら、断ってきた。

 仕方ないわね。

 借りということにした。


 格上の冒険者なら無体なことは言ってこないでしょう。

 彼と別れてから、彼の名前で検索を掛ける。

 驚いたことにそれらしき情報がヒットしない。

 偽名かしら。


 謎の人物ね。

 わくわくして来たわ。

 正体を突き止めてやる。


 彼の配信チャンネルの一番古い『初めてのスライム討伐』という動画を見る。

 内容は初心者のスライム狩りだった。

 鉄パイプでスライムに殴りかかったらノーダメージでスライムに逃げられた。

 ええと、これが彼の討伐の初めなのね。


 日付を見ると15年前。

 何となく納得した。

 15年も冒険者をやっていれば、才能次第ではSランクはあり得るわよね。


 次の動画は。

 それから1年後。

 初めてのスライム討伐成功。


 スライムを滅多打ちにして討伐に成功した。

 えっ、ここまで1年も掛かっているの。

 冗談でしょ。

 大器晩成型かしら。


 次の動画は初めてのゴブリン討伐成功。

 ここまでさらに2年掛かってた。

 分かったこれは嘘の動画。

 何か事情があってフェイクを載せているのだわ。


 プチウルフの討伐成功にさらに4年。

 大トカゲの討伐成功にさらに8年。

 嘘みたいな動画。

 なんのためにこんなことを。


 お遊びの副アカウントかな。

 なんとしても彼の情報を探さないと。


 今の彼のチャンネル登録者数は1万を超えている。

 目立つのが不本意だったとしたら、メールアドレスと電話番号も変えて、アカウントを作り直すかも。

 このチャンス逃がすものですか。


 チャンネルのプロフィール欄を見る。

 ええと、中学の時に両親が他界。

 それからアルバイトをしながら高校を卒業。

 自宅の庭にFランクダンジョンができる。

 そのダンジョンで鉄鉱石を掘る毎日。

 何これ?


 まるっきり底辺ね。

 経済力も、冒険者の実力も、底辺だわ。

 徹底的に隠蔽するつもりのようね。


 うちのチャンネルのダイヤドラゴン討伐配信に映ってた彼の顔を切り抜いて、興信所に依頼する。

 絶対にSランクだと思うから情報が上がってくるはず。


「リーダー、埼京さいきょうとよしみを通ずるべきです。あのパワーの源を知りたい」

「うちのパーティ、最近伸び悩んでいるからな」

「ええ、秘訣が分かるのなら100億円積んでも惜しくないと思います」


 私のスマホに電話が掛かって来た。

 番号は彼からだったけど、相手は若い女性。

 交渉するなら今後は私とお願いますと言ってきた。

 やっぱりね。

 Sランク冒険者ですもの、交渉役はいるわよね。


 手強い交渉になるでしょうね。

 まずはなんと言ってみましょうか。

 お金は断られたし、一緒にパーティを組みたいが良いかもしれないわね。

 100万円ぽっちじゃ見向きもされないのは分かる。


 今回の討伐で1億円のエリクサーを5本使ったから、ダイヤドラゴンの素材をなるべく高く売らないと。

 ダイヤドラゴンの素材は全てダイヤモンドだから、おそらく何百億になるわ。


 ただ、一度に市場に出すと値下がりしてしまう。

 それにダイヤの洞窟のモンスター素材は細かい不純物が入っていて宝飾品には向かない。

 もっぱら工業用ね。

 一度に売れないのがもどかしい。


 とにかく1億ぐらいの報酬でパーティを組まないか誘ってみましょう。


 頑張って交渉しないと。

 さあ忙しくなるわよ。

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