第42話 力の腕輪

 アイアンタイガーを乱獲する。

 肉食のモンスターがいなくなったのが安全だと思ったのか、ウサギが目につくようになってきた。

 襲ってこないなら別に良いけど。


 討伐の最中にこれ見よがしに岩が草原に生えているを見つけた。

 どうやら採取ポイントのようだ。

 サンプルとしていくつか採っておく。


 今日の討伐はこんな感じか。

 アイアンタイガー30頭。


 買取場に行くとおっちゃんがホクホク顔で迎えてくれた。


「アイアンタイガー持って来たんだろ」

「待ちきれないようだな」

「ああ」


 アイアンタイガーの死骸を並べる。

 アイアンタイガー討伐の稼ぎは7億を超えた。

 俺は残高が何十億にもなっている預金通帳をカメラに映した。


【これはさすがにCGだろうと思ったが、プリンターで印刷して作ったかもな】

【おい、底辺おっさん検証チームがCG加工の跡なしと言っているぞ】

【嘘だ。信じない】

【じゃあ証拠見つけるまで来るな】

【もう二度と来ねぇよ】

【住所教えて、全裸エプロンで飛んで行くから】

【痴女がいる】

【宝くじで当たった金を株とかで増やしたんじゃね】

【そういう解釈が妥当だな】

【まだそんなことを言っている奴がいる】

【冒険者協会の暴露記事に底辺おっさんの所の素材の話があるのにな】


 俺は採取した鉱石を見せた。


「ちょっと待て、分析してみるよ。お前さんのおかげでこの部門の売り上げが物凄く上がって、分析機器を買ったんだ」


 少し待たされた。


「出たぞ。ミスリルを含んでる。ただし100キロで1グラムだ」


 ええと、電卓パチパチと、鉱石1キロで約1000円ね。


【しょっぱい】

【アイアンタイガーとの兼ね合いでそう設定したと思われ】

【まだ設定とか言っている奴がいる】

【採取ポイントでウハウハじゃ、狩りの醍醐味が減るからな】

【でもアルバイトとしては美味しいぞ。一時間で10キロぐらいは簡単に採取できそうだ。時給1万円を超える】

【おっさんのダンジョンは規格外なんだよ】

【知ってる。暴露記事読んだ】

【ここにいるアンチは情弱だと思われ】

【ぷくくっ。今頃、顔真っ赤にしているぞ】


「採取はコボルトとケットシー達に任せる予定だ」


【ちょっとこのダンジョンに入りたくなった】

【だな、入らせろ】


「許可は出来ないな。もし入場料を取るなら100万円だ」


【くっ、凸できない】

【抗議の電話はできるだろ】

【入りたいんだよ】

【盾持って、弾を1回受け止めれば、50万だったな】

【それは行かなきゃな】

【弾丸2回で元が取れる。だがそこまでどうやって辿り着くかが問題だ】

【おっさん達だから出来る芸当】

【だな】


 家では弥衣やえが待っていた。


「私、足手まといかな。アイアンタイガーの砲弾を受け止められない」


【いきなりのシリアス展開】

【普通砲弾は受け止められないから。キャノンタイガーでも無理】

【ヤエちゃん、めげなくて良い。それが普通】

【砲丸の玉だって盾で受けるのは難しい】


弥衣やえは凄いじゃないか。頭が良くて俺の何倍も立派な人だ」

「武器強化スキルもあんまり役に立ってない」

「でもキナコとモチが砲弾を受け止められたのは弥衣やえがスキルを掛けたからだ」

「どれぐらい貢献しているのか分からないの」


【夜、抱き寄せて、慰めてやるぜとか言いそうだな】

【くそう底辺おっさんと代わりたい】


 弥衣やえは役立たずスパイラルに入ったな。

 自分が役に立たないと思い込んで色々とするが裏目に出て大抵は失敗する。

 バイトでの俺がそうだった。

 仕事で褒められたことなど一度もない。

 で頑張ったんだ。

 でも結果は首だ。

 自分は何の価値もないと思い込んだ。


 でもそうじゃなかった。

 人は取り柄が決まっている。

 長所に目を向けるべきで、短所は無視しても良い。

 だが、今の弥衣やえにそれを言っても聞かないだろうな。


 役立たずスパイラルに入った事のある先輩としてこの問題は俺が解決してやろう。

 俺は最近覚えた検索で筋力を付けるにはで検索した。

 多種多様なトレーニング方法が出た。

 だがその中に異彩を放つ方法があった。

 力の腕輪を装備するというものだ。

 お値段1000万円超え。

 オークションでしか手に入らないらしい。


 俺は買取場に行った。


「力の腕輪が欲しい」

「おう、ギルドにも在庫はあるはずだ。ただし1200万ほどするがな」

「買う」


【金で解決するのか。豪快でおっさんらしい】

【金で解決は頭のいいやり方】

【貧乏人は労力とか時間を無駄にする】

【装備で補えるなら使わなきゃ】

【お金大好き】

【ここでコメントしてても貰えないぞ】


 俺は弥衣やえを呼び出した。


「これをあげる。非力をカバーできるはずだ。これを装備してバイアス思考は忘れろ」

「ありがと、でもそれを言うならマイナス思考でしょ。バイアスじゃ偏りになっちゃう」


【出たおっさんギャグ】

【1200万円をポンと渡して凄い】


「じゃあひと狩り行くか」


 弥衣やえがアイアンタイガーと対峙する。

 撃ち出された砲弾を弥衣やえが盾で受ける。


 弥衣やえは微塵も下がらなかった。

 そして、アイアンタイガーは弾切れになり逃げて行った。


【パワーアップ成功ね】

【ナイスだ】


「やったな」

「お金で解決できるなら、もっと早くやっておけばよかった。でも地道な筋力トレーニングも辞めないわ」


【ヤエちゃんにはゴリラになって欲しくないな】

【女性は鍛えても、そんなにマッチョにはならない。ボディビルダーは例外な】

【良かったね】


 力の腕輪は付与魔法より効果が落ちるそうだ。

 付与魔法を俺が掛けたのでは弥衣やえは納得しなかっただろうな。

 あくまで自分の力でやりたいんだよな。

 分かるよ。

 そこは立派だ。

 俺は堕落して、頼れるなら誰にでも頼りたい、すがりたいとなっていた。


 それが寄生スキルを産んだわけだ。

 弥衣やえの次のスキルも他人に分け与えられるスキルなんだろな。

 何となくそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る