第56話 泉

 第3階層の探索を再開する。


【待ってた】

【ワクワク、どんな敵が現れるのか】


 トレントを倒しながら、森を進むと開けた所に出た。

 綺麗な澄んだ泉が湧いている。

 いくら俺でも、いきなり飲むようなことはしない。

 水を採取して今日の探索を終わった。


【もう終わり】

【トレントはもういいよ。別なのが見たい】

【無茶言うなよ】


 買取場で水を出す。


「この水を分析すれば良いんだな。ちょっと待て」


 待たされている間に解体の様子を見学する。

 アイアンオークの皮が綺麗にはがされたりする。

 アイアンウルフはいない。

 狩らないように通達を出しているからな。


「出たぞ。ミネラルとしてミスリルが含まれている。効能はお肌ツルツルすべすべだ」

「確かめたのか?」

「女性職員がな。100ミリリットル10万円の値段がついた」


【あの泉にそんな効能が】

【おっさんのダンジョンで普通の物など無い】

【猿とトレントはあの泉の水を飲んでいるのだろうか】


「病原菌は?」

「強烈な殺菌作用があるから心配要らないぞ。ちなみに飲んでも平気だ」


 残りは弥衣やえに進呈しよう。

 泉の水を使った弥衣やえは5割増し美人になった。


 俺は自慢したくて、高性能のカメラで弥衣やえを配信した。

 チャンネル登録者が爆発的に増えたとだけ言っておこう。


 コボルトとケットシーの支援団体から、1万人分の署名が届いた。

 彼らに感謝だ。


 ノワフォロの方も順調に署名を集めている。

 わらび権蔵ごんぞう議員からも10万人を超える署名が送られて来た。

 政治家のネームバリューと人脈は凄いな。


 目下の仕事は水汲みだ。

 あの泉がなんで肌にいいのかと言えば、ミスリルの同位体元素が含まれていて、これが肌を回復させるらしい。

 同位体元素、なんのこっちゃ。


 泉に着くと弥衣やえが水浴びしたいなどと言い始めた。


「えっとその水を化粧水に使っても良いの?」


【水浴び見たい】

【俺も】


「駄目だ」

「駄目なの。泉の外で洗面器を使って水を被るだけだけど」

「いや駄目なのは配信。泉の外で水を被るだけなら、許可しよう。配信は絶対にしないぞ」


【酷い】

【そうだ、そうだ】

【横暴だ】


「俺は悪党だからな」


【くそっ】

【血の涙を流せる自信がある】

【おっさんのダンジョンに凸しようぜ】


 弥衣やえが脱ぎ始めた。

 衣擦れの音が静まり返った森に聞こえる。

 もちろん俺達は後ろを向いた。

 見張りはシロガネだ。


「もういいよ」

「はへっ」


 振り返ったら肌色が見えたので、手で視界を隠した。

 指の隙間から、水着を着て水浴びしている弥衣やえが見える。


 何だ水着じゃないか。

 びっくりさせやがって。


【ヤエちゃんの水着姿いい】

【眼福】

【ものすごく髪とかがキラキラしている】

【肌も透き通るような感じだ】


 そうだな。

 全身エステ以上の効果があるのは間違いない。


 全身、泉の水に浸った弥衣やえはそりゃ美しかった。

 思わず絶句した。

 美の女神が現れたようだ。

 泉の水はヴィーナスウォーターと名付けよう。

 そしてこの泉はヴィーナスの泉だ。


「後ろ向いて」


 弥衣やえは水着から着替えるらしい。

 ハプニングは起こった。

 着替えの最中にアイアントレントが来たのだ。


 俺は慌てない。

 同調スキル発動。

 シロガネの目を通してアイアントレントを見た。

 そして、ボウガンを背中越しに撃つ。

 ボウガンの矢はアイアントレントの額を貫いた。

 シロガネの視線が弥衣やえに。

 もろに見てしまった。

 済まぬ。


 俺は同調を慌てて切った。


「あなたになら見られても平気だから」


 ばれてるよ。


「そうだな見飽きてるし」


 照れ隠しに嘘を言った。


【俺は見えなかった】

【やり直しを要求する】

【シロガネは見た】

【シロガネになりたい】


「次からはお風呂で水浴びするように」

「それじゃ爽快感がないの。この水って気持ちいいのよ」


「タオル濡らして拭くなら、500ミリリットルもあれば足りる」

「嫌よ。全身で浴びたいわ。サウナから出て水に浸かった感覚かしら」

「全身で浴びたい気持ちは分かるけどもな。5リットルぐらいで勘弁してくれ」

「分かったわ」


【一回500万円の水浴びか。贅沢だな】

【ヤエちゃんなら許せる】

【私も泉で水浴びしたい】

【俺は泳ぎたい】


 水浴び騒動が終わった。

 次からはコボルトとケットシーにヴィーナスウォーターの採取を頼もう。

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