第55話 救済
ノアフォロをダンジョンに入れた。
レベルが上がれば体力もつくだろうという計算。
コボルトとケットシーがボウガンを装填して手渡す。
そして彼らはアイアンオークの目を矢で貫いた。
必中スキルを伝授してあるからね。
「命を奪うことにためらいはないのか?」
俺は彼らに聞いた。
「所詮いつかは死ぬ身です。何と言うか死を覚悟したら、全てがどうでもよくなって。このオークの睾丸で薬が作られるのでしょう?」
「まあな」
「助かる命があるならオークの死も無駄ではないです」
「そういう考えもあるか」
【癌はどうなった? 完治したのか】
「病気はどう?」
「癌は縮小し始めているそうです」
【なにが作用しているのだろう】
【1000人分の寄生スキルは多岐にわたると思われる。相互作用じゃね】
【一瞬で完治はしないか】
「とりあえず良かったな」
「ええ、レベル上げ頑張らないと、何だかレベルが上がるとさらに調子が良くなっている気がします」
ノアフォロとコボルトとケットシーの軍団がダンジョンを我が物顔に歩く。
倒して良いモンスターを狩りすぎて、数がほとんどいなくなった。
だがどこからか補充されるから心配は要らない。
採った素材の半分は狩った人間に渡すことにしている。
一億稼ぐ剛の者も出た。
ノアフォロの入会者は増える一方だ。
子供が来ると居た堪れない。
ノアフォロの入会資格は癌であること、これだけだ。
将来的には他の病気の患者にも手を広げるらしい。
【素晴らしい】
【おっさんの事業を応援します】
【ノアフォロの助かった人って、コボルトとケットシーからパワーを分けて貰っているんだよな】
【まあな】
【コボルトとケットシーを受け入れてやろうぜ。難民認定が通るように国に圧力を掛けよう】
【俺ノアフォロのメンバーだけど、署名活動しよう】
【いいね。やろうぜ】
何か歯車が動いたような気がした。
俺が回そうとしていたガンとして動かない歯車が。
署名活動が始まった。
ノアフォロのメンバーとその家族が街頭に立ち署名を求める。
俺は目頭が熱くなった。
「良かったね」
「だが、まだまだこれからだ。ひとつの歯車が動き始めたに過ぎない」
「どんどん加速するわよ。誰だって死にたくないもの」
電話が掛かって来た。
前に助けた
「もしもし」
『面白れぇことしてるじゃないか。俺も手伝ってやろう』
「何を?」
『署名だよ。それと署名を手渡す場を作ってやる。総理大臣に手渡せるようにしてやろう』
「ありがと」
『気にするな。おいぼれの気まぐれだ』
マスコミもコボルトとケットシーのことを伝えるようになった。
それも正しい知識をだ。
「みんなありがとうじゃない。俺の下僕となって働いたことを褒めてやろう。これからもこの調子だ」
【待ってた】
【ノアフォロだけど、物凄く稼いでる。貯金が1000万を超えた。治療費でアップアップだったのに】
【俺も寄生されたい】
【若さを吸い取られた奴がいたのを忘れたのか】
【あいつらどうなった?】
「エリクサーが出ることを期待して真面目に働いている」
【おっさんが凄いのは、のべつ幕なしにやってない】
【俺ならコボルトとケットシーの全てを吸い取って神になっているかも】
【そんな可哀想なことはできないよ。コボルトとケットシーは可愛い】
【あいつらはそれだけのことをした。何でも溶ける酸を撒かれたら一大事になるところだった】
【きっと売りさばくつもりだったんじゃないか】
【兵器転用されたら、とんでもないことになるぞ】
【あいつらのことはもういい】
「俺は奴隷には優しい男だ。その証拠に億万長者になった奴もいる」
【オーク美味し過ぎる。あと蜘蛛も。カマキリも】
【素材が出回って、おっさんの裏が取れた】
【アンチ消えたな】
【赤い顔しているに違いない】
【ずばり次の目標は?】
「難民認定が取れたら、ダンジョンをビシバシ攻略していく」
【寄生する人は増やさないの?】
「ノアフォロ経由以外は今のところやるつもりはないな」
【そんな、おっさんのダンジョン入りたいのに】
「入るには寄生が条件だ」
【寄生を軽く考えたらいけない。人生を預ける行為に等しい】
【だな、寄生される方もする方も責任が付きまとう】
「難しいことは分からないが、なんとなく投げやりになっている奴をみると放っておけない。言えるのはそれだけだ」
【人生を捨てているやつの救済か】
【立派です】
【愛してます♡】
そうか、昔の俺みたいなのがいると救いたくなる。
ある意味過去がトラウマになっているのかもな。
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