第118話 テレビ

 スフィンクスの領域を俺達は進んだ。

 と言っても弥衣やえが謎に答えて、通してもらっている。

 別に良いけど、謎に答えられない人とかがノアフォロに出て来たら困ると思う。

 まあ俺より頭の悪い人はいなさそうだから大丈夫か。


 次の敵はゴーレムだった。

 砂鉄を鎧にするし、腕を切り離して攻撃するし、分裂するしで強敵だった。

 アダマン鉄パイプの連打の敵じゃなかったが。

 これを一般人が倒す方法を考えないといけないのか。

 何か思いつくだろう。


 ダンジョンから出て、家の前を見るとデモ隊がいた。

 今度は許可を取ったらしい。

 奴らのSNSにも許可を取ったから警察に捕まったりはしませんとある。


 マスコミも取材に来てた。

 テレビを点けるとちょうどそのことをやっている。


「ことの発端は埼京氏が真木きららさんを暴行したことから始まりました」

「警察は動かなかったのですか」


 コメンテーターがレポーターの説明にそう返した。


「被害届が出されなかったので動きはなかった模様です」

「おかしいですね。暴行は親告罪ではなかったのでは」

「ええ、そこは疑問が残るところです。埼京氏は資産家でして付託されたのではないかとデモの主催者は言ってました」

「由々しき事態ですね」


「そして、真木きららさんの性的暴行事件に発展しまして、これも警察が動いたという情報は入ってません」

「警察はどうしてしまったのでしょう」


 いや、最初の暴行映像が捏造だなんてテレビなら分かるだろ。


「ちょっと待って下さい」


 別のコメンテーターが待ったを掛けた。


「何か」

「最初の暴行動画ですが捏造の疑いがあります」

「そうなりますと、事件はまた別の側面を見せそうですね」


 アナウンサーがそう言って議論を進めさせた。


「ええ、マッチポンプの疑いがあります。動画配信は信用できないんですよ。やらせもありますし」


 うん、俺にとっては面白くない流れだ。

 まだネタばらしには早い。


「真木きららさんが入院してますし、真相は聞けませんね」

「私は事件はあったと考えます」


 いいぞ、その調子だ。


「根拠はなんですか?」

「過去、埼京氏と真木きららさんの接点がありません。これは真木きららさんの友達やご家族からも聞いてます」

「根拠としてはかなり弱いような気もします」

「それに埼京氏は何かと評判の悪い男ですので。ネット検索すると過去の悪行がずらずらと出てきます。こういう事件もあり得るかと」

「今は警察の捜査を待つ以外になさそうですね」


 うん、何か手を打たないと。

 そうだ。


 綺羅々きららと組手をやった映像がある。

 全て寸止めしたが、俺の鉄パイプの風圧が凄いのでノックバックしたようにも見える。

 俺は背中しか見せてないから仮面していることは分からない。


 その映像をデモ主催者のメールに送った。

 そしたらすぐに食いついた。

 新暴行動画として拡散されていく。


 今度の動画は捏造だとは言われないだろう。


「新暴行動画、あれは本物だ。あの人物は俺に間違いない」


【遂に罪の告白か】

【おっさんのことだから、ビニールの玩具とか言うんだろうな】

【通報しました】

【だが背景がなんで訓練場なんだ。訓練かも知れないだろ】

【その言い逃れは出来るな。裁判にならなきゃ分からない】

【おっさんに前科がつくのか】

【おっさんの犯罪の証拠集めてます。あれば『元底辺おっさん→いまうんこおっさん、被害者の会』まで】

【そのサイト生きてたんだな】

【久しぶりにその名前を聞いた】

【包囲網は着実に出来てるぞ。俺達の力が司法を動かすんだ】


 まだ弱いな。

 あと使えそうな映像は。

 綺羅々きららが倒れた時に担いでいたシーンがあるな。

 弥衣やえのカメラに映っている。

 拉致現場って事でどうだ。


 いいかも。

 気を失った綺羅々きららちゃんがおっさんに拉致されていくところとタイトルをつけた映像を送った。


 拉致犯罪の証拠として拡散して行った。

 映像の中の俺の声が、声紋分析で一致したから本物映像だと、デモの主催者は息巻いた。


「拉致映像、あれも本物だ。あのあと言えないことをした。綺羅々きららの衣服はハサミで切られたことを言っておく」


 救急のドラマで怪我人の衣服を切り裂いてたからそう言ってみた。


【おっさん、炎上商法だと分かるが嘘は言うなよ】

【見てて痛々しい】

【犯罪を本当にやったんだよ】

【そうだ。第三者の映像がある】

【いま気づいたんだが、映像は誰が撮ったんだよ】

【そんなことは関係ない。事実だけが全てだ】


 上手い具合に炎上し始めたぞ。

 この調子でいこう。

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