第220話 植木鉢

Side:皮口かわぐち


 埼京さいきょうがタバコを禁止した。

 冒険部の全員はそれを守っている。

 でないと股間に蹴りが飛んで来るからだ。

 アイスホッケーで使う、股間ガードプロテクターを使っても駄目だった。

 それを使うとより一層激しい蹴りが飛んで来る。


 どうやら、冒険部は埼京さいきょうに屈した形になった。

 やっぱりなと思う。

 得体の知れない埼京さいきょうがいつまでも黙っていると思わなかったからだ。

 でも、相変わらず態度は友達に接するようだ。


「なあ、リーダー。埼京さいきょうにガツンとやらないか。ポーション野郎にいつまでも負けてられない」


 喜多本きたもとがそう言ったが、あれは本当にポーションなのか。

 少なくても俺は埼京さいきょうがポーションを飲んでいる所をみたことない。


「あの頑丈さを突破できるのか?」

「武器を使えば良いじゃないか」


「通用しなかったらどうする。ケツバットは駄目だったのを忘れたか」

「ケツは急所じゃないからな」


「確実に仕留める自信がないなら手を出さないことだ」


 やいのやいのと、冒険者部のメンバーが話し始めた。

 こいつら、埼京さいきょうの不気味さを知らないんだ。

 だが、そんなことを言うとビビッていると思われるんだろうな。


「じゃ、植木鉢を落とすのはどうだ」


 見矢原みやはらが恐ろしいことを言い始めた。

 だが、俺は止めないでおいた。


 埼京さいきょうが下を通る瞬間に、見矢原みやはらが植木鉢を落とす。

 見矢原みやはらは射手なので、見事埼京さいきょうの頭に直撃するかと思われた。

 だが、埼京さいきょうは片手で植木鉢を受け止めた。

 そして何事もないように植木鉢を抱えて歩き始めた。


 上を見ることもしないなんて。

 俺の心臓はみっともないぐらいバクバクいっている。

 叫びだしたいぐらいだ。

 あれがもしポーションのせいでないとしたら、とんだ化け物だ。


埼京さいきょうの奴、第六感ポーションでも飲んでいるのか」

「そういうのもあるんじゃね」


 ねーよ、そんなポーション聞いたこともない。

 部室に戻ると埼京さいきょうが植木鉢を抱えて入ってきた。

 もしかしてばれたのか?

 俺はやりたくなかったんだ。


「魚が降って来る怪奇現象があるって知ってた? 俺なんか植木鉢が降ってきたんだぜ。台風でよく植木鉢が飛ぶって聞いたけど本当だな」


 能天気な台詞。

 いかにも植木鉢が自然現象で飛んだと信じているようだ。


「なあ、埼京さいきょう、植木鉢が飛んできたんだよな。で受け止めたのか」

「うん、割れると植物が可哀想だからね」

「植木鉢が落ちてくるとどうして分かった?」

「音で」


 ほら、ポーションじゃなかった。

 じゃあ、後ろから襲い掛かっても音でばれる。


「吹かしこくなよ。そんなの達人じゃないか」


 余野よのの指摘はもっともだ。


「ああ、そう、耳、耳が良くなるポーションを飲んでたんだ。新製品で、テストを兼ねてやっている。老人は耳が悪いだろう」


 台詞が棒読みになった。


「ほらな、ポーションだった。俺の言う通りだろう」


 馬鹿、それを言ったら植木鉢を落とした犯人が俺達だってばれるだろう。


「うんうん、そういうポーション」


 埼京さいきょうは何も感づいてはいないようだ。


「植木鉢は置いといて、ダンジョン行こうぜ」


 俺は話題を変えたいのと、モヤモヤした感情を振り払いたくてそう言った。


「よし、行こう。いつものダンジョンで良いな。埼京さいきょう、上手くゴブリンを釣り出せよな。1匹ずつだぞ」

「うん」


 ダンジョンで埼京さいきょうは斥候役だったが、だんだんとおかしいことに気づいた。

 釣り出されてくるゴブリンが1匹なのだ。

 3回ぐらいなら偶然だろう。

 だが10回も続くとさすがにおかしい。


 気配を消せても、ゴブリンを1匹にすることはできない。

 それとも1匹のゴブリンを選んでいる?

 いいや、そうなると遠い範囲の場所を探さないといけないし。

 ここに戻ってくる途中で別のゴブリンに出くわすこともあるはずだ。


 そんな都合のいい話はない。

 やはり得体の知れない奴だ。


 この不気味さを誰かに話したい。

 冒険部の奴は駄目だ。

 先生も駄目だろうな。

 埼京さいきょうが人間じゃないかもなんて話はできないし、信じて貰えない。

 誰か俺の話を聞いてくれ。

 スクールカウンセラーが良いかもな。

 今度相談してみよう。

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貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~ 喰寝丸太 @455834

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