第10話 追放

埼京さいきょう貴様の振舞にはもう我慢ができない。今日限りで追放だ」


【おっ、仲間割れか】

【おっさんの言動は鼻につく。当たり前】

【ちょっと楽しくなってきた】

【これでおっさんは落ちぶれたりしてな】

【あり得るな。寄生スキルは前から持ってたんじゃね】

【弱体化か。ざまぁみろ】


「みんなの意見も同じなのか」

「ああ、うんざりだ。少し物理攻撃が得意だからって、でかい顔しやがって」

「私、後衛なのよ。魔力がもったいないから鉄パイプで叩けって、これじゃ何のためのスキルか分からない」

「私も回復役なのよ。それが筋肉痛になってどうするの」


留美るみも同じ意見か」

「金輪際、留美るみなんて呼ばないで、虫唾が走る。あなたの顔を見ているだけで鳥肌が立つわ」


「もう良い。あんなにレベル上げを手伝ってやったのにな」

「あれだって寄生されていると変わりない。俺達は一撃。貴様は止めを刺して経験値がっぽり、こんなの耐えられないんだよ」


「そうか」

「私もパーティを抜けるわ」

弥衣やえもか。だが、お前は許さん。もし俺について来ないのなら、エッチな写真をばら撒くぞ」


【クズがいる】

【負けるなヤエちゃん】


「くっ、仕方ないわ」


【クズの手からは逃れられないのか】

【脅迫罪だ。訴えてやる】


 俺はカメラを止めた。


「みんな約束の一ヶ月が終わったな。打ち上げに飲みに行こうぜ」


 俺はそう声を掛けた。


「名残惜しいよ。あと一ヶ月ぐらい延長してもいい」

「何かあったら駆け付けるよ。追放にはざまぁがお約束だからな。ピンチに駆け付けてあざ笑ってやるよ」

「ははは。しかし、みんな大根役者だったが、あんなのでいいのか」


「もちろん。いい具合に炎上してるよ」


 チャンネル登録者数がウサギ上りだ。


「私の寄生を解かなくてもいいのに」

「いいや、借りを解消しただけだ。約束だからな」

すぐる、あなた本当はSランクじゃないの」

「ん、正真正銘のFランクだぞ」

「そうなの。あなたが嘘を付いてないっていうのは分かるわ。あなたは自分にSランクの実力があるって気づいているでしょ」

「まあな。あんたらと比べたら、確かに俺は強い。でもトカゲには敵わない時もある。あのダンジョンはもっと奥がある。奥へ行くともっと強敵が現れるはずだ。俺なんかまだまだだよ。レベルやランクなんかは飾りだと思う」


 飲みに行っての帰り道。


弥衣やえは俺に付き合わなくてもいいのに」

「離しませんよ」


「こんなおっさんのどこが良いのか」

「高校1年の時、路地裏に引きずり込まれて、もう駄目かと思いました。同時に王子様が現れたらいいのになと。すぐるさんが現れて、不良を蹴散らしてくれました」

「あの時は自棄になっていたんだよ。不良に刺されて死んだら恰好良いかもとか考えて飛び込んだ」

「動機はどうだっていいです。あなたが私の王子様で運命の人です。びびっと来ました。乙女の勘です」


 さて、もっと炎上させてやろう。

 カメラのスイッチを入れて、俺は弥衣やえの肩を抱いて歩いた。

 そしてラブホテルの入口に入った。


【淫行条例で訴えてやる】

【くそっ、もう許さん】

【このおっさんの生き方を好きになってきた】

【悪としては潔い生き方だよな】

【俺も悪になりたい】

【暗黒面に落ちたらいけない】


「許さんと言ったな。冒険者になったら相手をしてやるぜ。相手になったらな」


【くそう見返してやる】

【おっさん所有のダンジョンの悪評を書き込んでやった】


「おっと、ここからは駄目だ」


【カメラ止めたら殺す】

【俺も見たい】

【お前ら下心満載だな】

【証拠を抑えねば】

【証拠がなきゃ訴えられない】

【通報しますた】

【俺も通報しますた】

【しますた】


「じゃあ、バリュー」


【バリュー?】

【なぜにハンバーガーチェーン店】

【ああ。カメラに手を伸ばしやがった】

【くそっ、止めるな】

【止めたら絶交だ】

【ああああ】


 カメラを止めた。

 声なき絶叫が聞こえた気がした。


弥衣やえ、出るぞ。さすがに恥ずかしい」

「私ならいいのに」

「せめて成人したらな。でも俺はおっさんだ。いずれもっと良い人が見つかるさ」


 俺の配信チャンネルとSNSは罵詈雑言で溢れかえった。

 くくっ、いい具合に炎上している。

 そして、警察から刑事がきた。

 あれはふりですよ、配信の話題作りですと言ったら、ラブホテルの監視カメラをチェックしやがった。

 とうぜん無罪なのでおとがめなしになった。

 通報する奴がいるんだな。


 善行するなら不良に絡まれている少女を救え。

 そうすれば仲良くなれるから。

 悪役ムーブしている間は言わないがな。

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