第212話 校外学習
今日は校外学習だ。
行くところはシステム開発会社。
「こんにちは!」
挨拶して部屋に入る。
中はわりかし清潔だな。
個人ブースになっていて、キーボードを叩く音しか聞こえない。
みんな音楽をヘッドフォンで聞いている。
オフィスは明るい感じだ。
だが働いている人は俺達のことなんか目にも入ってない感じだ。
【ソフトウェア会社か。こんなのは違う】
【これがまともな会社なんだよ】
【ブラックな所はゴミ溜めだ】
「えー、今のプログラマーの環境はこんな感じですが、昔はタバコの煙でもうもうとしてました。簡易ベッドと寝袋。それにカップラーメンとエナジードリンクの容器が散乱してました」
案内役の年配の社員がそう言った。
【そうそう、ブラックな所はそんな感じ】
【ブラックな所に勤めている人はこれを見て絶望するのか】
【そういうのを分かっててブラックな所にいるんだよ】
【まともな会社に入社するのは難しい】
「はい、質問良いですか?」
生徒のひとりが手を上げて質問する。
「どうぞ」
「デスマーチという物があると聞いてます。どれぐらい大変ですか」
「昔は3日間寝ないで作業とかざらだったのですが、寝ないと効率が落ちます。忙しい時でも交代で6時間は眠らせるようにしてます。では次は仮眠室に行ってみましょう」
【デスマーチで6時間も寝れるなんてホワイトだな】
【6時間睡眠でもブラックに近いと思うがな】
【忙しい時はしゃあない】
オフィスから仮眠室に場を移した。
仮眠室はホテルみたいになっていた。
不潔な感じなどない。
【仮眠室がホテル並みだ】
【これなら仕事さぼって寝てられるな】
【納期がなけりゃな】
【納期という厳しい現実があるから、さぼれない】
【首は怖いからな】
「うわー」
「うちの会社の自慢の仮眠室です。昔は寝袋で床に寝てましたね。会議室の机の上や、椅子を並べてその上で寝てた社員もいました。次は遊戯室です」
【確かに自慢できる仮眠室だ】
【福利厚生がしっかりしている会社に入りたい】
【ここならぐっすり眠れそう】
遊戯室は卓球台とビリヤード台が置かれていた。
だが遊んでいる社員はいない。
【遊戯室か。羨ましいな】
【ニートには関係ない】
【俺は仕事の合間にこの配信を見ているがな】
【ストレスが溜まるような職場だと見た】
「質問良いですか?」
「どうぞ」
「どういう時にここで遊びますか?」
「昼休みやクライアントからの返事待ちなどの時に遊びます。次は会議室です」
【クライアント待ちなんてほとんどない】
【クローズしたら、書類仕事がどっさりあるからな】
【そうなん。エンジニアって大変そうだな】
【仕様書書きはつらい】
なるほどな。
だが、ほとんど遊べないとみた。
使い込んだ感がないからな。
会議室はテーブルと椅子があるだけ、大会議室ひとつと、小会議室が三つだ。
大会議室は12人ぐらい座れる。
小会議室は6人だ。
会議室にはホワイトボードと、プロジェクターが設置してあった。
【会議室はどこもこんな感じだな】
【まあな】
【うちはミネラルウォーターが設置してあったな】
【コーヒーメイカーとかもあると嬉しい】
次は社長室だ。
社長室は大きい机と、革張りの椅子があり、本棚があってファイルがぎっしりと入っていた。
社長室の雰囲気はどこもそんなに変わりないな。
うちの社長室はこれに応接セットが付いているのが違いなぐらいだ。
【社長室の机と椅子はどこも立派】
【賞状とかトロフィーがないな】
【社訓とかもな】
【生産性が上がらないのは飾らないという方針なのだろうな】
【効率主義か。だから、ブラックではないのな】
【こういう会社は厳しいぞ。実力がないとすぐに首になる】
会社の名前入りボールペンを貰って、校外学習は終わった。
【底辺おっさんとは合わなそうな会社だな】
【だよな】
「うちの会社の福利厚生をこの会社並みにするぞ」
【ダンジョンの仕事に納期はないから、仮眠室も会議室も要らないじゃん】
【遊戯室もね】
【肉体労働だから、マッサージ機とか良いかもな】
【そこまでやるなら、サウナとか温泉とかやれよ】
「採用。マッサージ機と入浴施設を作る」
【金持っているからな。羨ましい】
【ドリンク飲み放題も付けたれや】
【仕事終わりのビール飲み放題とか良いな。そんな会社に入りたい】
「飲み放題。採用」
校外学習も役に立つな。
俺みたいな馬鹿でもこういう分かり易いのは良い。
金なんか腐るほどある。
【飲兵衛が集まるなら、出勤時のアルコール検査もやらないと】
採用だ。
アルコール検査もする。
安全のためにな。
今回は有意義だった。
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