第72話 祭りの終わり

 賠償金を踏み倒す奴がいるようだ。

 書き留めを出しても駄目、証明書付き郵便を出しても駄目。

 どうしてやろう。

 くっくっくっ、良い事思いついた。


 そいつが住んでいるアパートに行き、壁に手を当てた。

 部屋ごと呪われろ。


 部屋の扉から黒いオーラが立ち昇った。

 男が飛び出して来た。


「呪いを解いて欲しければ、賠償金を払うんだな。払えなければ俺の所で働け」

「くそう。傷害罪で訴えてやる」


「呪いを訴えたければそうするが良い。呪術師なんて存在はモンスターでなければいない。知ってるだろ。色んな配信見ているから」

「なんて悪辣なんだ。負けないぞ解呪師に頼めばいいんだ」


「神の呪いが一般の解呪師に解ければ良いがな」

「くそう」


 さあ次行くぞ。

 そして、日帰りできる近隣は回った。

 地方に行くのはめんどくさいな。

 俺はカメラのスイッチを入れた。


「賠償金を払わない奴は呪われるかもな」


【かもなじゃない。呪われて力が出ない】

【傷害罪で訴えるんだ】

【警察には行ったさ。取り合ってくれなかった。どこかでモンスターと接触しましたかと言われて終わり】

【解呪も出来ないんだ。助けてくれ】

【解呪できない呪いなんてあるのか】

【神の呪いらしい】

【そりゃ跳ね返すのも容易じゃないな】


「俺は賠償金を回収に家を訪ねる。震えて眠れ」


【呪いを使うと完全犯罪が出来るな】

【法律の抜け穴って奴か】

【モンスターしか使えない能力をなんで使えるんだ】

【魔王なんじゃね】

【そんなわけあるか】

【俺は賠償金を払う。こんなの耐えられない】



 続々と賠償金が振り込まれた。

 俺はそいつらに寄生して呪いを吸い取ってやった。

 部屋の呪いは解除した。

 部屋と同様で人も解除できるがそれは言わない。


 寄生しとけば何かと便利だからだ。

 地方の出張は5箇所で済んだ。

 そいつも扉の前で呪われるかもと言ったら飛び出てきた。

 金がないんだと口々に言うが、許したりはしない。

 寄生して、上京させて、うちのダンジョンに放り込む。

 年収1000万円も軽いのだから、感謝してほしい。


「ふぅ、賠償金未払い野郎がいなくなってすっきり」


【ダンジョンの仕事いい。1時間働いただけで食っていけるどころかエリート並みの高給。グラトニーの体採取なんて簡単すぎてこれでいいのかと思う】

【ステマ乙】

【くそう。おっさんの思うつぼじゃないか】

【勇者はいないのか】

【その勇者が軒並みやられていまの状況がある】

【人生を棒には振れない】

【賠償金払うのはちょっとな】

【意気地なしばっかりだ】

【子供を殴った件の続報はないのか】

【あれな。虐めてた子供が黒幕だった。配信で謝罪してた】


「誰にでもやり直す権利がある」


【えっ、黒幕?】

【虐めでダンジョンに入ったというCMあったろう。あれは正確じゃなかった。子供が制止された時噛みついたんだ。それで殴られた】

【どこ情報よ?】

【おっさんが子供を殴った動画の発信元。完全版を配信してる】


「ふっ、過ぎたことだ。子供のプライバシーにくれぐれも配慮してくれ」


【動画みてきた。噛みつかれて血が凄い量出てる】

【あれはしゃあないな】

【おっさんのこと悪く言ってごめん】

【俺は信じない。捏造だ】

【祭りも終わりか】

【すっきりしないな】


「もうこの件は忘れろ。でないと呪われるかもな」


【おい、殴られた子供の両親がコメントを出したぞ】

【見てきた。息子を虐めから救ってくれてありがとうだってさ】

【埼京さんには感謝の言葉もありませんか】

【おりょ、アンチが来ない】

【敗北を知って撤退したな】

【やつら叩けるターゲットさえあればいいからな】

【やっと配信が普通に戻る】

【おっさんも悪い。真実を話さないからだ】


「忘れろ! いいな!」


【はい】


 さて、久しぶりにうちの庭ダンジョンに行くか。

 ダンジョンに入るとシロガネが飛びついてきた。


「ごめん。寂しかったか」


 シロガネのこわごわした針のような毛を撫でる。


「わふん」


「よし、取って来い」


 アイアンオークの骨を投げた。


「はっはっはっ」


 シロガネが喜んで骨を取って来る。

 そういう遊びを繰り返した。


【シロガネが可愛い】

【モンスターだぞ】

【お犬様は至高】

【コボルトの幼児は食べちゃいたいぐらい可愛い】

【コボルトは確かに可愛いな。二足歩行している所がなんとも言えん】

【シロガネも可愛いぞ】

【飼うなら、プチアイアンウルフだな】

【あっちはお手頃サイズだからな】

【うふ、プールつきの家で、大型犬と暮らす。憧れ♡】

【このダンジョンが制覇されたら、シロガネはどうなっちゃうんだろ】


「心配するな。別のダンジョンに移してでも助ける」


 そろそろ、シロガネをダンジョンから出す手続きをするか。

 檻では飼いたくないが、あんなの書類が整っていればいい。

 普段はダンジョンで飼う方がいいだろうな。

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