第73話 オークの蒐場《ぬたば》

 シロガネに使う魔鉄製の檻が庭に置かれた。

 ただこれはジェスチャー。

 実際は使わない。

 今まで通りダンジョンで放し飼いする予定。


 役所の人が来てチェックする。

 飼育許可は下りた。


 シロガネの首輪はミスリル製。

 リードは魔鉄製のワイヤーロープだ。

 武器工房のおっさんにはまた無理を言った。


 さっそくシロガネを連れて次のダンジョンに行く。

 オークの蒐場ぬたばというダンジョン。


「よしよし」


 シロガネのリードを外し、撫でてやる。


「わふぅ」


【オークの蒐場ぬたばはCランクダンジョン。ラスボスは厳しいぜ】

【おっさんなら何とかするよ】

【おい、子供の件を忘れてないぞ。謝罪して配信を辞めろ】


「訴えられれば、警察でも、裁判所へでも、どこにでも行く。逃げも隠れもしない。お前はなんだ。人を裁く権利があるのか」


【くっ、道義的におかしいだろ】

【いや血が噴き出るほど噛みつかれたら、手で叩いて振りほどくだろう。おっさんのパワーだと本気を出せばあの世行きだ】

【お前らは許せるのか】

【許すも何もそれを判断するのは警察と裁判所だろ】

【そうだそうだ。逮捕すらされてないのに有罪だと喚く奴がどうかしている】


「アンチの奴はストレスで一杯なんだ。生暖かく見守ってやれよ。寄生してほしいならいつでもいいぞ」


【お前らどうかしてる】

【ここにいる連中に言ってもしゃあない】

【だろうな。おっさんの心にも刺さらないし】

【アンチは負け犬の遠吠えに聞こえる】

【状況が分かったのに、何時までも引きずるのは、陰謀論者だな】


「よし、そろそろ行くぞ」


 ダンジョンの奥へ進んでいく。

 シロガネが力強く短く吠えた。


 オークのお出ましのようだ。

 3体のオークが洞窟の角から現れた。


 シロガネがやりたそうだな。


「よし、シロガネ行け。ゴー!」


 シロガネがオークに飛び掛かり首筋に噛みついた。

 血しぶきが上がりシロガネが飛び退く。

 オークは倒れ、シロガネは残った2体のうち1体に飛びついた。

 さっきの再現だ。


 そして最後に残ったオークのふくらはぎに噛みついて引きずってきた。

 猫じゃないんだから生きている奴を連れて来るなよ。


「キナコ、止めだ」

「はいですわん」


 キナコからボウガンの矢が発射され、オークの額を貫いた。


「よしよし」


 シロガネを褒めた。

 血で染まった舌でペロペロするなよ。

 生臭くて敵わん。


【おっさんの顔がよだれと血で凄い事になっている】

【ふふっ、名誉の負傷だよ】

【お前らおっさんの顔をどうやって見たんだ】

【ヤエチャンネルを知らないのか】

【サンクス】


「酷い目に遭った。シロガネ、好きなのをひとつ食っていいぞ」


 シロガネがオークを貪り喰らう。


【野生だな】

【モンスターだからな】

【寄生虫が心配】


「動物病院に一度行かせるか」


 シロガネが怯えた様子を見せた。

 動物病院が何か分かっているのか。


【うちの犬も病院という言葉を言うと逃げる】

【不思議だよな。言葉が分かっている】


 たぶん、コボルトとケットシーの動物病院に対する愚痴を聞いたのだろう。

 注射が好きな人間はほとんどいない。


「シロガネ、安心しろ。騙して連れて行ったりしない」

「わん」


 連れて行く時はたぶん力ずく。

 俺のパワーとどっちが強いか比べるいい機会だ。


 オークは大したことがないな。

 ボウガンでも仕留められる。

 現れるオークは弥衣やえ達が討ち取った。


【ボウガンが強いんじゃないぞ。ヤエちゃん達の腕が良いからだ】

【魔鉄使ったボウガンは普通のよりパワーがあると思われる】

【ミスリルメッキの矢じりもな】

【簡単そうに見えるけど大変なのな】


 この階層に俺の出番はないな。

 ボス部屋まであっさり辿り着いた。

 ボスはハイオーク。

 少しでかいだけだ。


 シロガネが足を噛んで引きずり倒す。

 弥衣やえ達がボウガンで討ち取った。


 シロガネをリードに繋いだ。

 そしてトラックの荷台に乗せる。

 トラックは動物病院に着いた。

 シロガネが匂いを嗅いで事態を悟ったのだろう。

 トラックの荷台から逃亡をはかった。

 俺はリードをしっかり持って踏ん張った。

 アスファルトに足が埋まる。


「ふんっ」


 俺がリードを引くとシロガネが宙を舞った。

 シロガネは宙で身をよじると足から着地した。


「わん」

「今から動物病院に連れて行く拒否権はない」

「わうん」

「情けなさそうな顔をしてもだめだ」


 俺はシロガネをだっこした。

 そして動物病院の自動ドアをぐくった。

 シロガネの顔が虚無感に彩られる。

 大した検査はしないのに。

 少し血を採られたりするだけだ。

 診察はスムーズに進んだ。

 詳しく調べないといけないが、今のところ寄生虫はいないらしい。

 ノミなどもいない。

 健康そうでよかった。

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