第4話 ダンジョン発見
レベルアップでの残ポイントは攻撃力を上げるために【STR(筋力)】に全て振り分け、再び森を駆け回った。しかし魔物との遭遇は少なく、倒したのはスケルトン数体。しかも探し回っているうちに結構奥深いところまで来てしまっている。
「それにしても腹が減った。ゾンビになってから木の皮しか食ってないからな……」
この森に生息している動物は少なく、魔物に関してはほとんどがアンデッドだ。さすがにアンデッドの魔物は食べたくない。そう考えるとまだ腐った肉や骨を食おうと思えるほど魔物の思考に染まってはいないようだ。
一応キノコも生えてはいるがほとんどが毒キノコだ。魔物を探しつつ食料も探してはいたが、安全に食べられそうなものは見つけられず、危険ではあるが、最後の手段としてマジックバッグにアンミンダケを大量に入れておいた。
俺の場合、一応スキル【鉄之胃袋】でおなかを壊す事はないが、状態異常にはなる。アンミンダケは少量であれば睡眠導入薬として使用されたりもするが、許容量を超えれば睡眠の状態異常にかかってしまう……これがゴミスキルと言われていた
(あー、腹が減り過ぎてだんだんイライラしてきた。ついさっきまで進化したことで気分も良くなってたのに! ってか、そもそも何で俺がこんな苦痛に耐えながら苦労をしなければならないんだ……)
騙された俺が悪いと言ってしまえばそれまでなのだが、これは理屈ではない。
魔物になった今でも【赤銀の月】の3人の
(くそっ! 絶対に生き残ってやる。【赤銀の月】よりも、【嵐の雲脚】よりも、他の誰よりも強くなって、何者にも俺を害されないように、もう二度と大切なものを奪われないように……ん? この音は、川か! ってことは、魚が食える!)
耐えがたい空腹も相まって、どす黒い負の感情に支配されそうになっていたが、聞こえてきた水音で我に返る。
そして急いで音の方へと走っていき、川にたどり着くと魚が泳いでいるのが見えた。
「やっと食料を見つけた! それに、この爪なら魚も突き刺して捕まえられそうだ!」
ザブザブと川に入っていき魚を取ろうとするが、意外と魚は素早くなかなか捕まらない。徐々にムキになり、魚を追いかけていくうち、太ももが浸かる水深まできていた。
「この! 捕まれ、俺の飯!!!」
――ツルっ ゴスッ!! ザバーン
「おぶっ、ゴホッ……ゴボボボボボ……」
(やばい、溺れる! ぬお!? 急に川の流れが速く……うわぁぁぁぁー!)
水中の石で足を滑らせ流された俺は、なすすべもなく激流に吞まれ滝壺へと飲み込まれていった。
◇ ◇ ◇ ◇
気が付くと洞窟のような場所にいた。背後を見ると滝が流れ、轟音を響かせている。
「危なかった。運が悪かったら死んでたな……流石に2度目の奇跡は無いだろうし、気を付けよう。とりあえず洞窟の奥に進むか」
洞窟の中は暗闇だった。ぼんやりと周囲が見える程度だ。
「ん? あの光は?」
しばらく進むと、地面にうっすらと光る魔法陣を見つけた。そして、この魔法陣は以前にも見たことがあるものだった。
「ダンジョンか! 中がどうなっているかは分からないが、もしかしたら食える魔物もいるかもしれない……」
ダンジョンは危険な場所だということは分かっていたが、飢餓感には抗えず魔法陣に触れる。すると、突然景色が急変した。ダンジョンの中に転移させられたようだ。
目に映るのは、遺跡のように規則正しく切り出された壁や天井。床には石畳の隙間から生えるコケや花が光りを放ち、辺りを照らしている。通路は大人が4人くらいなら並んで歩けそうな広さだ。
自分のHPを確認すると幸いにも半分程度は残っている。
「戻ってもどうせ滝壺だし、進むしかないな」
ダンジョン内を歩き出してから5分ほど経った頃、唸り声と共に魔物が現れた。でっぷりと太った体躯で二足歩行。全身に毛が生えている。イノシシの顔に巨大な牙。
「オークか。Eランクの魔物……」
魔物は、強さや賢さで討伐の難易度が大きく変わる。そのため、800年前の冒険者ギルドが創設された際に、魔物の種類をランクで分類し、新種や変異種は発見され次第ランクを付けられた。
その膨大な資料は図画と解説付きで種類ごとに編集・製本され、各街にある冒険者ギルドに保管されている。この通称"魔物図鑑”が俺は大好きで、暇さえあればギルドの書物室で閲覧し自分ならばどう戦うかをイメージしていた。
魔物のランクは、F~
冒険者のランク付けも魔物と同じF~SSSで分けられており、同ランクの魔物を1パーティーの基本である4~5人で討伐できる強さが求められた。要するに、Cランクの魔物はCランクの冒険者4人分の強さがあるということだ。
ちなみに【グール】もEランクであり【オーク】と同格なのだが、腹が減りすぎているのか、感覚が魔物寄りになってきているのか、今の俺には旨そうな肉にしか見えない。
「おとなしく俺に食われろ、豚肉!」
『グゴォォォ!』
お互い勢いよく飛び出すとオークは大振りで殴りかかってきたが、それよりも速く俺の爪がオークの両目を切り裂く。視界を奪われたオークは、後ろによろめきながら両手を振り回している。こうなってしまえば、もう勝負はついていた。
しばらく様子を見ながらオークが暴れなくなるのを待つ。止まったタイミングを見計らい、腹部や顔面を3発殴ったところでオークは倒れて動かなくなった。
「さて、飯にありつけたわけなんだけど……」
マジックバッグから解体用のナイフを取り出し、絶命したオークを素早く解体していったものの、火を起こせそうな木材は、このダンジョンの中には無い。
「仕方ない、このまま食うか」
……結構美味しかった。
驚いたのは、オークまるまる1匹を5分程度で食べきってしまったことだ。骨付き肉もグールの歯であれば骨ごと噛み砕いて食えた。
「全然腹が満たされない。オークは飲み物……いや、これ以上は考えるのをやめよう」
1階の魔物は単体のオークしか出てこなかったため、遭遇次第すべて食料に変えていった。オークの相手に慣れ切った俺は、空腹も相まって最終的にマジックバッグからオーク肉を取り出し、食べながら探索するという暴挙を行っていた。
「お! 階段か。上に向かっていくタイプのダンジョンなんだな」
無警戒に階段を上ると、かなり広い部屋となっていた。部屋の奥にはオークや一回り大きな体躯のオークファイターが“大量に”居る。
そして、一斉に振り向いたオーク達の視線は、俺の右手に集中し…………釘付けになった。
「あー、その……お邪魔しました!」
『グゴォォォー!!』 『ブムォォォォ!』
少なく見積もっても20匹は居るであろうオーク達が一斉に叫びながら襲い掛かってくる。
咄嗟に右手に持っていた骨付き肉をマジックバッグに入れ、階段を駆け下りた。後ろを見るとオーク達も1匹ずつ順番に階段を下りてくる。
それを見た俺は身体を反転させ、拳を構えた。
「1匹ずつなら、食べ放題の食堂と変わらねぇんだよ!!」
先頭で降りてきたオークの腹に拳を捻じ込み、動きが止まったところで首筋を嚙み千切る! 絶命したオークを横にぶん投げ、次に襲い掛かってきたオークファイターの顔面にハイキックをぶち込む。その後即座にローキックで片足の骨をへし折り、顎に拳を叩きこむ!
階段からオークの集団が姿を現さなくなるまで、最速で殲滅できる方法を瞬時に考え実行し続けた。
「ふぅー、さすがに焦ったぁ!!」
オークの集団を全て肉塊にすると一息つく。
「集団を相手にするとなると攻撃力が足らないな。今後は筋力と敏捷のステータスを重点的に上げよう」
ステータスを確認すると、レベルが18まで上がっていた。残ポイントを全て【STR(筋力)】と【AGI(敏捷)】に振り分ける。
〈ステータス〉
【名前】百目鬼 阿吽
【種族】喰鬼グール
【状態】空腹
【レベル】18
【HP(体力)】170/400
【MP(魔力)】310/310
【STR(筋力)】29
【VIT(耐久)】10
【DEX(器用)】4
【INT(知力)】31
【AGI(敏捷)】37
【LUK(幸運)】35
【称号】—
【スキル】
・鉄之胃袋
・痛覚耐性
・空腹
・捕食(Lv.2):HP回復効果(小)追加
・体術(Lv.2):体術で与えるダメージと衝撃が強くなる(補正値向上)
「あれが噂の“湧き部屋”ってやつか。たしかにあの数の魔物が一斉に襲ってきたら、死人もでるわな……。経験値はめちゃくちゃおいしいけど。ん? スキルレベルも上がってる!! とりあえず……お肉食べよ」
オーク肉を胃袋に流し込んでいくと飢餓感は少しずつ軽減していく。しかし、ふと冷静になって考えると、魔物になってからの俺は明らかに人間の時と比べ思考が短絡的になっている。以前はもっと慎重に行動できていたはずだ……だが、不思議と「こんな自分でも良いか」と思えてくる。それに、そんな短絡的な思考に対しての嫌悪感は全くない。むしろ楽しいとさえ思えてくる。なんとも不思議な感覚だ。
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