第11話 約束と決断


 獣人行商人のバルバルと別れてから数十分後、狩りをしながら進んでいると、いつの間にか目的のダンジョンの入口付近に到着していた。


 マーダスたちに殺される少し前、このダンジョンを見つけたのは本当に偶然だった。蒼緑の平原でのクエストを終え、レクリアへ帰っている最中、岩に寄りかかり休憩をしていると、その岩が少しだけ動いた気がしたのだ。

 確認するために動いた方向へ思いっきり押してみると岩の下に小さな魔法陣があった。


 その時と同じように岩を動かしていくと、地面に光る魔法陣が現れた。


「ダンジョンに入る前に、なんとかキヌのステータス確認したいんだけどな……アルスに聞いてみるか」


≪アルス、聞こえるか?≫


≪おぉ、聞こえておるぞ? どうしたのじゃ?≫


≪実はキヌという魔獣と従属契約をしたんだけど、キヌのステータスをなんとかして見れないか?≫


≪契約をしたのは知っておるぞ? ダンジョンの機能の一部じゃからな。従属者のステータスを見るときは、従属者の身体の一部に触れながらステータス確認をすれば見ることができるのじゃよ≫


≪マジか! 助かった、ありがとな!≫


≪うむ! では頑張るのじゃ!≫


 さすがアルスだ。一瞬で問題解決しやがった。あいつめちゃくちゃ優秀なんじゃ? あ、でも寝ててレッドオーガ召喚しちゃったんだったか……


「キヌ、ちょっとステータスってのを確認したいから、頭に触れるけどいいか?」


 するとキヌは『コォン!』と一鳴きし、顔を摺り寄せてくる。はぁ、カワイイ……モフりたい……

 おっと、危ない。本題を忘れるところだった。

 俺は軽くキヌの頭を撫でながらステータスを確認した。


〈ステータス〉

【名前】絹(キヌ)

【種族】智狐

【状態】—

【レベル】15

【HP(体力)】553/1100

【MP(魔力)】210/350

【STR(筋力)】10

【VIT(耐久)】15

【DEX(器用)】5

【INT(知力)】35

【AGI(敏捷)】15

【LUK(幸運)】10

【称号】迷宮従属者

【スキル】

 ・エネルギーボール:無属性攻撃魔法(MP消費5)

 ・ヒーリング:無属性回復魔法(MP消費20)

 ・エネルギーウェイブ:無属性範囲攻撃魔法(MP消費20)


「おー、見えた……うわぉ! これは、とんでもないステータスとスキルだな」


『コォン?』


「いやいや、良い意味でだよ。そうか、グレーウルフに囲まれて耐えることができたのも納得できた。もともと耐久と体力が高かったんだな! それに知力がずば抜けている。普通に攻撃するより魔法の方が敵を早く倒せたのはこのステータスだからか。スキルも凄いな……キヌは前衛でも戦える魔法職って感じだ。何それ、ズルい」


『キューン?』


「いや、褒めてるんだって。全然ダメじゃない! むしろ最高! それで、キヌはこれから、できるだけ“知力を上げたい”って考えてみてくれ。もっと良くなっていくかもしれない」


 できるか分からないが、従属者になったんだし俺みたいにステータスの伸びが変わる可能性もある。やっておいて損はないだろう。


「あと、自分に向けてヒーリングって魔法使ってみてくれないか?」


『コォン!』


 おー、光った! HPはどんだけ回復したかなーっと…………1回で200近く回復してる!?

 もしかして知力で回復量も変化するのか?

 いやいやいや、さすがにそれは……でも、そうだとしたら今後進化していったら伝説級の魔物になっちゃうかもしれない。


 すげー!! キヌすげぇぇぇ!!


「キヌ、凄いぞ! 俺と一緒に伝説級を目指そう! 誰にも負けないくらい強くなろう!」


『コォォォン!!』


 俺とキヌ、二人での目標も決まりだな!


「んじゃあ、さっそくダンジョンに殴り込みに行くかぁ」


 俺はキヌの頭を片手で撫でたまま魔法陣に触れると視界が切り替わった。

 キヌも隣にちゃんと居る。少し混乱しているようだけど不安ではなさそうだ。


 前にも来たことがあったが、このダンジョンもフォレノワール迷宮と同様で1階は通路型のダンジョンだ。明かりは所々にトーチが設置されており、薄暗さはあるが探索に問題はない。

 まずはキヌに説明と確認しておくことがあるな。


「えっとな、ここはダンジョンって言って魔物がたくさん出る所だ。だからレベルを上げるのにも都合が良い。とりあえず出てきた魔物は全部倒していく。あと食えそうな魔物が居たら肉を食っていくけど、キヌも魔物の肉を食うのは大丈夫か?」


『コンッ!』


「よし、んじゃあ進むぞ」


 歩いてみて分かったが、ここはフォレノワール迷宮より、かなり複雑に入り組んでいる。

 そのため曲がり角が多く、急に魔物が出てくる可能性がある。さらに目印もなく、壁に傷をつけてもそのうち修復されるだろう。

 魔物の骨なんかを一応置いておくけど、これも吸収されてしまいそうだ。


 左壁に沿って行けば階段にたどり着ける可能性も高いため、なんとかなりそうだが……フロアの中央に階段があった場合、見つけるのに時間がかかる。思ったより厄介かもしれない。

 ただ、出てくる魔物はゴブリンやグレーウルフだ。俺もキヌも一撃で倒せるので今のところ問題はない。


 最初にグレーウルフが出てきたときはキヌが暴走して滅多打めったうちにしていた……やっぱりあの時は悔しかったんだな。


「そういえば、前はここに宝箱があったんだけど……今はないな。そして行き止まりか」


 ここで自分のステータスを確認してみると【レベル】が29となっていた。今まで進化したタイミングはレベル10でグール、20で鬼人だった。となると30レベルで次の進化がある可能性が高い。


「キヌ、言っていなかったんだが、実は俺も魔物なんだ。それでそろそろ進化する可能性がある。その時は数分動けなくなるだろうから、その時は頼んだ!」


『キューン!』


 “任せて!”って感じだな。頼もしい! やっぱりキヌと契約できてよかった。安心して進もう。


 その数分後、ゴブリンを数体倒すと身体が痺れる感覚に襲われた。前方からはグレーウルフの群れが来ているが、今のキヌならば問題ないだろう。


「っぐ……キヌ、進化がきた。あとは、任せた」


『コォン!』


 ゆっくりと目を閉じ、身体の力を抜く。……すると脳裏に情報が流れてきた。



≪自己の属性を選択してください。条件を満たしているため2属性選択が可能です≫

 ・水属性

 ・樹属性

 ・闇属性

 ・雷属性



 …………は? 進化じゃなくて属性選択!? 考えてなかった! 時間的な猶予はどれくらいある! ゆっくり考えたい!

 2属性って言ったか?

 えーい、もう直感だ!!


(雷と闇!)


≪確認しました。次に進化先を選択してください。条件を満たしているため特殊進化が可能です≫

 ・人間(特殊進化)

 ・鏡鬼きょうきドッペルンゲンガー

 ・雷鬼らいき(特殊進化)


 あかーーん! 情報量が多すぎる。冷静に考えられる気がしない!

 ってか【人間】!? は? 人間ってあの人間? ヒューマン??


 とりあえず【ドッペルンゲンガー】は除外! 魔物としては強いし厄介だが、魔物図鑑で見た感じだと能力が使いにくそうだ。

 うん、こうやって1つずつ考えよう!


 あとは【雷鬼】だが、これも鬼人同様やはり魔物図鑑には載っていない。

 あー、もう!!!


 …………いや、待て。そうだよ。俺は何を目指してる?

 俺は、“キヌと何を約束”したんだ!!

 あー、スッキリした! 最初から答えなんか出てるじゃないか。

 俺が選ぶのは……


「……雷鬼だ!!」


 目を開き答える。その視界にキヌを映しながら……


 直後、周囲は閃光で埋め尽くされた。


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