第二章 スタンピード編
第10話 運命の出会い
~フォレノワールダンジョンコアルーム 阿吽視点~
「う……ん……ここは? あー、そうだ。ダンジョンコア食って、寝てたんだった」
目覚めて大きく伸びをすると、白く長い指に少し尖った爪が見える。
「夢じゃなかったんだな。あ、そういえば夢の中でもゾンビ先輩が親指立てて微笑んでた……」
「寝坊助、起きたのじゃな」
「アルスか。俺はどれだけ寝てた?」
「軽く3日は寝ておったな。どうじゃ? 居心地は良いじゃろ?」
「そうだな、不思議と安心する場所だ。この部屋はアルスが作ったのか?」
「そうじゃよ? コアルームの横に小部屋を作っておいたのじゃ。マスターが眠りやすいようにな。おかげでダンジョンポイントはもう空じゃ」
「そうか、ありがとな。あと、そのマスターってのむず痒いからやめてくれよ。アウンでいい」
「わかったのじゃ! それでアウンは別のダンジョンに行くんじゃったか?」
「そうだな。ってかアルスとしては俺が他のダンジョン攻略しに行くってどうなんだ? その……大丈夫なのか?」
「何も問題ないのじゃよ? ダンジョンはコアが破壊されれば、また別のところにダンジョンができるだけじゃし、わらわと同じように取り込めばそのダンジョンもアウンがマスターじゃ」
「そうか。なら問題ないな! よし、早速行ってくるわ。何かあったら念話で会話できるんだったな。あと、帰ってくるときは迷宮帰還」
「バッチリじゃな。外へ出るための転移魔法陣はコアルームに作ってあるからそれを使うとよいのじゃ。気を付けて行ってくるのじゃよ」
「おう!」
コアルームの端に外への魔法陣を発見し、手をかざす。すると視界は急変し、常闇の森の中にある川のほとりに転送された。
転送先に魔法陣はなく、出口は一方通行になっているようだ。
「この川は……俺が流された近くか? 外への道は……うん、分かるな。誰かに見られてもいいようにフードは被っておこう。目指すは蒼緑平原!」
森の魔物は全部無視しながら走ると、数分で蒼緑平原にたどり着いた。
「ここからは適当に魔物を狩りながら行きますかねっと」
まっすぐに平原にあるダンジョンの入口がある方向へ歩いていく。途中向かってきた一角兎やゴブリンは一撃で仕留めた。
「ん? あれは、グレーウルフの群れか。相手は……狐の魔獣?」
1匹の魔獣が6匹のグレーウルフに囲まれ血まみれになっていた。
しかし、狐も必死に反撃し威嚇している。
「あいつ小さい身体なのにめっちゃ根性据わってるな。格上を複数相手にしても諦めてねぇ……気に入った!」
俊敏を発動させて一瞬で移動し、グレーウルフと狐の間に立つ。
「よぉ、助けはいるか?」
『キューン……』
驚いた様子を見せているが、敵ではないと分かっているようだ。こいつ頭がいいな。
振り向きグレーウルフの群れを見据える。
「悪いな、狩りの最中に。敵対しないなら見逃すけど……どうする?」
『グルルル……』
『ヴォン! ヴォン!』
グレーウルフが一斉に襲い掛かってくるが、動きは遅い。俺はマジックバッグから赤鬼の金棒を取り出し横薙ぎに一振りする。
……瞬殺だった。
もともと素手でも力の差は歴然だったが「赤武器の威力も試してみたいなー」と思い、軽い気持ちで使ってみたは良いものの、6体のグレーウルフは全て身体が弾け飛んでいた。正直……ちょっと引いた。
「剛腕使ってないのにコレか。予想以上にヤバい攻撃力だな、この武器……。ん?」
『キューン』
足元を見ると狐の魔獣が俺の足に頭を押し付け、嬉しそうにしている。
よく見ると尻尾が2本あった。
「珍しいな、お前二尾か。あ、そうだ、マジックバッグに回復のポーションが……あった!」
ポーションを狐の魔獣に振りかけると傷が癒えていく。血も洗い流されていき、毛が薄い金色に反射している。
ブルブルッと水分を払っている姿がカワイイ……
「見たところお前一匹のようだけど、一緒に来るか? 俺の仲間になれよ」
わずかに目元をピクつかせ驚いた様子を見せていたが、二尾の狐はこくっと頷き『コンッ!』と一鳴きすると、少し光り俺との間に繋がりができた気がした。
「お、繋がったような気がする。初めてだから分かんなかったけど、これでできてるみたいだな。よろしくな! えっとー、名前なんだ?」
『キィン……』
「ん? 無いのか? んじゃー……【キヌ】だ! 爺ちゃんの故郷に、お前の毛色みたいに綺麗な布があるって聞いたことがある。鳴き声の響きとも似てるし、いいよな?」
『コン!』
「よし、じゃあキヌ、行くか! まずはお前のレベル上げからだな!」
そこからしばらくは、蒼緑の平原で一角兎やゴブリン、ミドルラットなどをキヌが倒していった。思っていたよりも強い。グレーウルフもあんだけの群れじゃなかったら倒せていたかもしれない。
レベルが上がったからかビクッと身体を震わせている。ってか、もう進化か? もしかしたら、元々もう少しで進化するくらいのレベルはあったのかもしれない。
「俺が周りを見てるから大丈夫だぞ。力抜いて少し休んでろ」
キヌは眼をゆっくりと閉じると、少しずつ身体が変化していく。さっきまでは一角兎と同じくらいの体躯だったが少しずつ大きくなり、グレーウルフくらいのサイズになっている。尻尾は三本に増え、毛色は少し金色が濃くなっている気がする。
『キューン!』
「無事進化できたようだな! キヌ動けるか?」
キヌは立ち上がり、こくっと頷く。
「よし、じゃあレベル上げの続きしながら目的地に向かうか!」
そこからキヌが魔物を殲滅する速度は一気に上がった。なんと魔法を使いだしたのだ。
俺の顔くらいある半透明な玉を空中に作り出し、魔物に向かって飛ばす。
当たった魔物は動かなくなる。戦闘終了。
え? 強くね? ズルい……俺も魔法使いたい。人間の時は少し水を出すくらいなら使えていたが、今試してみてもそれはできていない。
羨ましそうにキヌを見ていると嬉しそうに『コンッ!』と鳴いている。……うん、カワイイ。
そうこうしながら、魔物を一方的に殲滅していると、前方から馬車が近付いてきた。どうやら行商人の馬車のようだ。
「いやー、遠くから見ていましたが、お強いですね! テイマーの方ですか? あ、申し遅れました。私は行商人をしております、バルバルと申します」
馬から降りて挨拶してきたのは、男の獣人だった。頭からモフモフの耳が生えている。身体的特徴からは……何の動物だ?
「あ、気になりますか? 私はレッサーパンダの獣人です。というかあまり驚かれないのですね?」
「すまん……俺まじまじと見てたか? 獣人には会った事もあるからな。そんで、何か用か?」
「お察しが良いですね! 実は先ほど倒していた一角兎の肉を買い取らせていただきたいのです」
「肉? 毛皮とか角とかじゃないのか?」
「あー、それはですね、ここから南東に進んだ所に『ニャハル村』という私の故郷があるのですが、今年は村の周りに強い魔物が出現するようになりまして、狩りがあまりできず食糧が不足しているそうなんです。それで、少しでも多くの食料を運びたくて……少し相場より高く買い取ります。いかがでしょうか?」
「そうか、そういうことならタダでいい。困ってるんだろ? その代わり、今度俺が困っていたら助けてくれよ。な?」
「うぅ……なんて優しい方なんだ!! 必ずお約束します! お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「アウンだ。よろしくな!」
『ハウゥン!』
横を見るとキヌが“アウン”と言おうとしている。そういえばキヌにも俺の名前を伝え忘れてた……ごめん。ってか、やっぱりなんとなく会話分かってるんだな。本当に頭がいい。そしてカワイイ。モフモフしたい……。
「アウン様ですね。よろしくお願いします! この御恩と約束は忘れません!」
「アウンでいいよ。一角兎は荷車に積めばいいか?」
「あ、はい! お願いします! あと呼び捨てはできませんので、アウンさんとお呼びしてもよろしいですか?」
「うん。まぁ、それくらいなら……」
そう言いながら15匹の一角兎をマジックバッグから取り出した。
バルバルは驚いていたが、たぶんマジックバッグの容量に対してだろう。「内緒にしてくれよな」と言うと首を激しく上下に振っている。
「ありがとうございました! それではまた! アウンさんも道中お気をつけて!」
「またな!」
別れの挨拶をして、バルバルは馬車を走らせていった。
「さて、俺たちも行くか!」
『コンッ!』
一人と一匹は、また魔物を蹂躙しながら平原を進んでいくのだった。
〈ステータス〉
【名前】百目鬼 阿吽
【種族】鬼人
【状態】—
【レベル】28
【HP(体力)】1000/1000
【MP(魔力)】610/610
【STR(筋力)】47
【VIT(耐久)】20
【DEX(器用)】10
【INT(知力)】61
【AGI(敏捷)】74
【LUK(幸運)】35
【称号】迷宮の支配者
【スキル】
・鉄之胃袋
・痛覚耐性
・体術(Lv.2)
・大食漢
・剛腕
・俊敏
・品評眼
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〈装備品〉
・赤鬼の金棒
・迷宮探索者のシャツ
・ブラックバイソンのレザーパンツ
・暗殺者のクローク
・ダークコンバットブーツ
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