第12話 雷鬼と空狐
光が収まるとグレーウルフを倒し終えたキヌが心配そうに駆け寄ってきた。
「ふぅ……大丈夫だ。今回は思ったより痛みは無かった。少し視界が高くなった気がするが、見た目の変化は……キヌ、俺変わったか?」
『キューン!』
「角? おぉ……長くなってる。もう人間に未練はないし、見た目の変化は正直どうでもいいんだけどな。さて、ステータス確認するか。キヌ、もう数分だけ周囲の警戒を頼む。ステータス!」
〈ステータス〉
【名前】百目鬼 阿吽
【種族】雷鬼
【状態】—
【レベル】30
【属性】雷・闇
【HP(体力)】1700/1700
【MP(魔力)】780/780
【STR(筋力)】68
【VIT(耐久)】20
【DEX(器用)】10
【INT(知力)】78
【AGI(敏捷)】95
【LUK(幸運)】35
【称号】迷宮の支配者
【スキル】
・鉄之胃袋
・痛覚耐性
・体術(Lv.2)
・大食漢
・品評眼
・剛腕、俊敏→迅雷:5分間STRとAGIが100%アップ(MP消費50)
・電玉:雷属性攻撃魔法、同時展開上限3(MP消費15×展開数)
・装電:INT値の30%をSTRとAGIに加算、攻撃に雷属性付与(MP消費30)
・空踏:高い俊敏性と筋力を使い、空中でもう一段跳ぶことができる。
「つっよ……れ、冷静に情報を整理しよう。できる事を知っておくことは最重要だ」
ステータスは【STR(筋力)】、【INT(知力)】、【AGI(敏捷)】が爆増した。身体が少し大きくなったのはステータスの変化も関係していそうだ。いや、それよりもだ……スキルがとんでもない。
まず、【空踏】だが、空中で体勢を変えたり、もう一段ジャンプすることができる優秀スキルだ。人間でも稀にこのスキルを持っているが、身体能力の高い者ばかりだった。
次に【電玉】。これを見たときはめちゃくちゃ嬉しかった。ついに魔法を使えるようになったのだ。後で使ってみよう。
最後はステータス強化系スキル、通称バフスキル。剛腕と俊敏が【迅雷】というスキルに統合され、5分間STRとAGIが100%向上というものだが……要するに『2倍』。これだけでも既にヤバい。【迅雷】を発動してゴブリンにデコピンしたら多分頭が弾け飛ぶだろう。
【装電】はINT値の30%をSTRとAGIに加算し、攻撃に雷属性付与するというものだ。【迅雷】を見た後にこの数値を見ると正直少なく感じる。ただ、このスキル2つの“組み合わせ”が強すぎるのだ。もっと言えば、使う“順番”でとんでもない事になってしまう。
「これ【装電】使ってから【迅雷】を使ったら……エグい数値になるんじゃ」
で、計算をしてみると筋力値は68から182に、敏捷値は95から236に跳ね上がる。
筋力に関しては基礎値の『約2.7倍』、敏捷に関しては『約2.5倍』になってしまうのだ。
「強すぎんか? ……いや、逆だな。まだこんなもんじゃ足りん! 俺たちが目指してるのは人間の中での最強じゃない。全ての生物の中での最強だ! 世界は広いからな。伝説のドラゴンや神話の中で出てくる神獣なんかもこの世界のどこかに居るかもしれない。出会ったときに後悔なんか絶対したくない! もっと強くならなきゃな!」
それに多分、爺ちゃんは今の俺よりも強かったんじゃないか? と考えつつキヌに話しかける。
「キヌ、確認できた。ありがとな! 広い場所に出たらいろいろ試してみる。とりあえず2階層を目指そう」
『コンッ!』
その後2時間ほど迷いながら歩いたら2階への階段を見つけた。
ゆっくりと上っていくと、そこは10m四方の広めの部屋、湧き部屋であった。中にいるのは20匹程度。ゴブリン、グレーウルフ、ゴブリンファイター、ゴブリンランサーなどのEランクの魔物。
今の俺からすれば雑魚だ。肩慣らしにもならない。
「キヌ、危なくなったらすぐ助けるから好きに暴れてこい」
『クォーーン!』
一鳴きすると壁際に向かって走っていく。何か考えがあるようだ。
集団の端に到着すると、魔物に向かってエネルギーウェイブを連射する。4発程度で敵の半数が動かなくなっていた。
「範囲魔法か! あえて魔物を引き付けて一気に殲滅、やるなぁ」
半数となったゴブリン達は距離をとりながらキヌを囲むが、連携は取れておらずバラバラに攻撃を仕掛けている。キヌは丁寧に一匹ずつエネルギーボールや爪、牙での攻撃でしとめていきながら相手を壁際に誘導していく。最後は3匹のゴブリンランサーをまとめてエネルギーウェイブで倒した。
「この数の集団相手にほぼ無傷。しかも効率を考えて戦闘を組み立てるなんて、さすがキヌだな!」
『コン!』
少し誇らしげにしているキヌだが、ビクッと身体を震わせ出した。
「まさか、もう進化か!? 大丈夫だ。今度は俺が守ってる。安心しろ」
軽く背中を撫でると、安心したように目を閉じた。次はどうなるんだろ? と期待しつつキヌの変化が終わるまで優しく背中を撫で続けていた。
キヌの変化はすぐに終わった。また身体が一回り大きくなり、もう俺を乗せて走れそうなサイズだ。そして尻尾が4本に増えている。目を開けたキヌは嬉しそうに身体を寄せてきた。ハァ、カワイイ……
「キヌ、ステータス見させてくれ」
コクと首を縦に振ったキヌの頭を撫でながらステータスを確認する。
えーっと、変化したところはっと……種族が【空狐】で、ステータスは耐久と器用さと知力が主に向上している。
スキルは【
「キヌ、【明哲】っていうスキルを獲得してる。次の戦闘からはこれを使ってから魔法攻撃をしてくれ。あ、あとこれからは自分でステータスを確認して、どうやったら戦闘が有利に進められるか事前に考えるようにしてみよう。確認の仕方は分かるか?」
多分キヌなら、俺がどうこう言うより自分の力を把握し上手く使いこなしていけるだろう。時々確認させてもらうし、モフモフさせていただくが。これは俺の癒しと活力のために必須な行為だ! ……うん。
『クォン!』
キヌはコクっと頷き部屋の奥を見る。3階層への階段だ。早く闘ってみたいのか? 成長した自分を試してみたい気持ちはよく分かる。
俺も早く試したい! あー! ボスはまだか!!
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