第13話 蒼緑平原ダンジョンの中ボス
3階層に上がると一気に視界が開けた。
ダンジョンの中であるはずだが、そこには草原や岩場が広がっている。空を見上げてみると雲まで浮かんでいる。しかし太陽はどこを探しても見当たらない。
明るいのに光源が無いという不思議な光景だが、それがダンジョンの中であることを示しているようでもあった。
「これは次の階層を見つけるの苦労しそうだな。まぁこんだけ広ければ暴れやすいか」
次は俺もスキルを検証してみよう。
「お、さっそく岩場の陰からブラックウルフがこちらを見てるな! キヌ、次は俺に試させてくれ」
『コォン』
よし、了承も得られたことでやっちゃいますか!
ブラックウルフはDランクの魔物だから検証はしやすそうだ。岩場の方へ歩いていくと、岩の陰から3匹のブラックウルフが姿を見せた。
「電玉」
こぶし大の黄色く光る電気の球が3つ現れビリビリと俺の近くで停滞している。
狙いを定め電気の球が飛んでいくイメージをすると高速で電玉が飛んでいく。
それぞれ1発ずつ命中するが、これだけでは倒し切れていない。威力に関しては弱めだが、電玉に当たったウルフは身体が思うように動かせていない様子だ。
「もしかして状態異常効果? となると、かなり有用なスキルだな」
正直なところ火力はバフ発動して赤鬼の金棒で殴れば楽に出せる。相手の動きを遅くさせることができるスキルとなると俺の長所をさらに伸ばす事が期待できた。
ただ同時に現状の俺の欠点も見えてくる。
「範囲攻撃がないんだよなー。同格の敵が複数体出現した場合を想定すると、範囲攻撃も欲しいな」
そんなことを考えているとブラックウルフの動きが戻ってきている。
「さて、仕留めるか」
【迅雷】を発動させると、俊敏を発動した時よりもさらに周囲がゆっくりとなったのが分かる。
試しに全速力で移動し、1発ずつブラックウルフたちを素手で殴って頭を粉砕した。振り向いてキヌの方を見ているとキョトンとした顔をしている。正直、キヌにカッコいいところを見せたかったのは内緒だ。
歩いてキヌの所へと戻っていくと、4本の尻尾をブンブン振り回して目を輝かせている。ドヤっ!!
「お前の相棒は強ぇだろ?」
『クォン!!』
この調子なら装電・迅雷のコンボはボスまでお預けかな。
その後はまた数時間キヌのレベル上げを行いながら平原を歩き回った。Dランクの魔物相手でもキヌなら全く問題はなく、出会った魔物はキヌが全て倒していた。
ダンジョンだからか、全然夜になる気配はない。俺は魔物になってからはあまり眠らなくても大丈夫にはなったが、キヌは大丈夫なのだろうか?
「キヌ、疲れてないか? 眠くなったりしてたら休憩するぞ?」
『クオォン?』
横に首を振っているから大丈夫って事なんだろう。キヌのMPも自然回復をしており少し減ってはいるが、連続での戦闘がない限りは問題なさそうだ。
「んじゃ一気にこのダンジョン攻略しちまおう!」
そう話をしていると遠くの方に建造物が見えてきた。
よく見ると大きな扉があり、ボス部屋のようだ。しかし、その前に陣取っているのはCランクの魔物が6体。トロールが3体とグレーターウルフが3体だ。
トロールに関しては肉体の再生能力があるため、中途半端な攻撃では再生速度に負けてジリ貧になってしまう。
「グレーターウルフの方は任せるぞ」
『クォン!』
俺とキヌは左右に分かれ、それぞれの魔物を誘導していく。俺に関しては挑発なのだが……
「おいデカブツども、3体まとめてこいや。1分持ち堪えたら尻尾巻いてダンジョンから出ていってやんよ」
俺がそう言うとトロールは叫びながら3体同時に攻撃を仕掛けてくる。意味分かってるのかな? と考えつつも【装電】を発動し、赤鬼の金棒をマジックバッグから取り出し先頭の1体を思い切り殴ってみた。
一匹目のトロールは右肩が弾け飛ぶがそのまま左手に持っている
「早く再生しないと1分持たねぇぞ?」
右手に持っている赤鬼の金棒は、重さを全く感じず、妙に手に馴染む感じがする。
トロールの武器目掛けて右手で持った金棒を振り上げる。カトラスを一撃で粉砕し、その勢いのまま回し蹴りを顔面にぶち込む。続けて左の拳を脇腹にめり込ませると1体目は絶命していた。
2体目のトロールも棍棒での攻撃を躱し、後ろから後頭部を金棒で思いっきり殴る。そのまま頭が吹き飛んで回復もしない。
3体目は金棒をマジックバッグに収納し、4発程度殴ったら動かなくなってしまった。
「3体で12秒か。もう少し粘るかと思ったんだけどなー」
キヌの方を見ると、2体のグレーターウルフをエネルギーウェイブで牽制しつつ、他の2体と分断された1体に対し集中してエネルギーボールを連射し仕留め終えていた。容赦ない……。
残りの2体が同時に攻撃を仕掛けてくると、受けるダメージを無視して1体に標的を絞り体当たりをする。もう一匹のグレーターウルフに背中を嚙まれながらも、倒れている個体にエネルギーボールを連射する。途中で自己にヒーリングを挟んでおりHP管理はしっかりと行なっている。
2体目を仕留め終えると攻撃の合間を見計らい、後ろ足で蹴り上げて距離を空け、エネルギーボールの連射で決着をつけていた。
終わってしまえば1対3でも圧勝していたし、キヌにしかできない戦い方だが、噛みつかれたときはドキッとして助けに向かおうとした。
ただ、この先の事を考え「過保護になりすぎないようにしなければ」と我慢したが、俺の手のひらには爪が食い込み地面に血が滴り落ちていた。
『クオーーン!』と大きく
一応手のひらの傷はバレないようにポーションで治療しておいた。
「キヌ、お疲れ。凄い戦い方だったな」
『クゥン』
「さてと、ボス戦だが、少し休んでMP回復してから行くか。ん?」
扉に目を移すと宝箱が出現している。色はついていないノーマルなタイプのものだ。罠を警戒しキヌには少し離れてもらってから開けてみるが、罠はなく中には装飾品のようなものが入っていた。品評眼で鑑定してみると、
≪秘匿のピアス:鑑定からステータスを秘匿できる。高位の鑑定は防ぐことができない≫
「おぉ! これは当たりだ!」
街に入るにしてもこのアイテムがあるのとないのでは安心感も違う。レアリティは青となかなかレアな装飾品だ。
「キヌ、これ俺が使ってもいいか?」
そう聞くと首を縦に振っている。ありがたく使わせてもらおう!
秘匿のピアスを左耳に着け1時間ほど扉の前で休憩した。
新たな魔物は現れず、キヌのMPも8割ほどまで回復したため、気合を入れ直しボス部屋への扉を開いた。
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