第14話 黒雷


 ボス部屋の扉を開け中へ入ると、フォレノワールのボス部屋と同じくらいの広さ、高さがある部屋が広がっていた。そして待ち構える2つの巨体……

 牛の頭に茶色い巨体、両手で巨大なハンマーを持っているBランク上位の牛頭鬼ごずきと、

 馬の頭に筋肉質の青黒い身体、その身の丈に合う巨大なサイズの鉄塊のような片刃剣を持ったBランク上位の馬頭鬼めずき


「Bランク上位が2体ってのは厄介だな。一匹ずつやるしかないか……」


 一歩踏み出すと牛頭鬼と馬頭鬼はゆっくりと武器を構え動き出した。


「キヌ、サポートに回ってくれ。1体ずつ倒す」


『クォーン!』


 どちらから優先して倒すべきかを頭の中で考えながら、マジックバッグから赤鬼の金棒を取り出す。


「まずは馬頭の方から仕留める。牛頭を魔法で牽制してくれ」


 キヌにそう伝えると、牛頭鬼に向かってエネルギーボールが即座に放たれる。俺も【電玉】で牛頭鬼の動きを鈍らせつつ、馬頭鬼に向かって走った。


 一撃目は様子見のつもりで左わき腹を狙うが避けられてしまう。敵の動きが思ったよりも速い。

 俺はバックステップで少し距離を離すと、馬頭鬼はすぐさま切りかかってきた。

 避けることはできるスピードだが、武器の破壊を狙い、巨大片刃剣に赤鬼の金棒を叩きつける。武器ごと身体も吹き飛ばすつもりで殴ったが、両者の力は拮抗していた。


 ……違和感を覚えた。

 この馬頭鬼1体だけで見ても、同ランクのはずのレッドオーガよりも遥かに格上だ。


「まさか、こいつら……特殊個体か!?」


――ドゴォォォン!!


 その直後、後方から轟音ごうおんが聞こえた。

 すぐさま赤鬼の金棒をマジックバッグに収納し、バランスを崩した馬頭鬼の腹を蹴り飛ばして振り返ると、キヌが壁際で倒れ込んでいた……


 俺は急いで駆け寄りステータスを確認する。

 HPは残り210、状態は『気絶』となっている。急いでマジックバッグからポーションを取り出し、キヌに振りかけるが、気絶は治っていない。


 最悪の状況が頭によぎり、一瞬血の気が引いたが、ステータスを見る限り大丈夫そうだ。


 立ち上がって振り返り、2体の敵に向かって歩いていく。



 …………怒りがこみ上げてくる。


 キヌをこんな状態にした敵に対してもそうだが、何より『敵の強さを見誤り』さらに『様子見』なんて事をした自分自身に対して、猛烈に腹が立った。


「【装電】、【迅雷】」


 そう呟くと俺の周囲に黒い電気がほとばしり、俺の中で何かがキレた気がした……


「綺麗に死ねると思うなよ……家畜共がぁぁぁぁ!!」


 牛頭鬼に向かい全速で駆け、俺の姿を完全に見失っている牛頭鬼の頬に右の拳を捻じ込む。

 その巨体が吹っ飛んでいくが、それよりも速く回り込み、飛んできた牛頭鬼の背中を蹴り上げ、さらに電玉3発を浮いた身体目掛けて投げつけた。そして高く飛び上がり牛頭鬼のさらに上へと移動、空中でマジックバッグから赤鬼の金棒を取り出しそのまま腹部に叩きこむ。

 地面が大きく抉れるほどの力で叩き付けられた牛頭鬼は、腹部がえぐれ口から血を吐き、大きく痙攣した後に絶命した。



 牛頭鬼を叩き落とした直後、俺は【空踏】を発動し、空中から一瞬で馬頭鬼の真横に移動していた。

 着地と同時に赤鬼の金棒を両手で持ち、フルスイングを胸部に当てる。

 馬頭鬼は吹っ飛び、壁に叩きつけられてグッタリしていくが、俺は構わず最速で肉薄し、その勢いのまま鼻頭に飛び膝蹴りをぶち込んだ。


 壁と膝で挟まれた頭部が砕け、鼻が潰れ、目や耳から血が噴き出して馬頭鬼は倒れ込み……そのまま二度と動き出すことはなかった。


 2体のボスを倒し終え、スキルを解除し振り向くと、キヌが立ち上がりゆっくりとこちらへと歩いてきていた。


「キヌ! 大丈夫か!」


 すぐに駆け寄ると嬉しそうに尻尾を振っている。とにかく大丈夫そうで良かった。

 キヌのステータスを確認すると、ヒーリングで回復したのかHPは510まで回復していた。


 そして……レベルが30になっていることに気付く。


「キヌ、おまえ進化……」


『コンッ』


 一鳴きするとゆっくりと目を閉じ、力を抜いた。するとキヌの身体が光り出す。


(まさか、俺を心配させないように……ちゃんと確認して安心できるまで、進化の痛みを我慢してた……)


 キヌの優しさが分かった途端、自分の不甲斐なさと、こんな俺を一番に考えてくれている嬉しさで、鼻の奥がツンッとした。


 俺は、キヌを優しく撫でながら、涙をグッと堪えていた。


(ダメだ、絶対こらえろ! キヌが目を開けたときに、安心させてあげられるように……)


 光が収まると、綺麗な金の毛色がさらに美しくなり、尻尾が5本に増えたキヌが目を開けていた。



 ……多分笑えていたと思う。

 ……ちゃんと笑顔は作れていたはずだ。



 キヌは立ち上がると、そっと俺に顔を近づけ、頬に伝った涙を拭ってくれた。


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