第78話 ドレイクの帰郷
黒竜へと【竜化】したドレイクは、俺達を乗せて夜の空を斬り裂くように飛んでいく。
「ドレイク、大丈夫か?」
「正直、思う事は色々あるっすけど……何より古郷がこのまま蹂躙されるのは、我慢ならないっす」
追放されたことは、少し引きずっているが、大分吹っ切れてはいるようだ。
初めて会った時から比べると、驚くほどの変化だが、もともとドレイクは素直で、色々な事を吸収できる柔軟な思考を持っていたのだろう。
「あとどれくらいで着きそうだ?」
「赤の渓谷が見えてきたんで、もうすぐっす!」
ドレイクの言う通り、月に照らされた周囲は赤茶色の岩肌が見え始めている。
そして、奥に見える山岳地帯に竜人族の村があるのだろう。
その後、赤の渓谷を飛び越え、山岳地帯を飛んで行くと、15分程で頂上付近に村が見えてきた。
あれがドレイクの故郷か……
「この辺で降りるっす。多分もう俺が帰ってきたってバレてると思うっすけど、敵意が無いと示したいんで」
「わかった。ここからは歩いて行こう」
村の入口に着くと住民が集まりだしてきていた。
手に武器は持っていないが、警戒はされている様子だ。
「俺だ! ドレイクだ! 里長に急ぎ伝えたい事がある! 敵意はないから通してくれ!」
ドレイクが大声で叫ぶとすぐに一人の男性がこちらへと進んできた。
「ファヴ兄……」
「ドレイクの兄ちゃんか。ってことは、次期里長って事だな?」
「そうっすね。冷静な人ではあるんっすけど、規律には厳しいっす。さすがに戦闘にはならないと思いますが……」
近付いてきたファーヴニルは、立ち止まると俺達に深々と頭を下げ、ドレイクの方を向く。
「ドレイク、おかえり……」
「あ……た、ただいま!」
戸惑いながらも、しっかりと顔を見てドレイクは返事を返している。
それを見たファーヴニルは、少し微笑むと俺達の方に向き直った。
「ドレイクのお仲間の方々ですね。里長がお待ちです。どうぞお入りください」
「通してくれるみたいだな、行こうか」
ドレイクは、少しばつが悪そうにしているが、何となく安堵しているようだ。
ファーヴニルの案内で里の最奥にある大きな家に通されると、家の中で壮年の男性が待っていた。
「ドレイクとそのお仲間の方々、ようこそ竜人族の里へ。
私からもお話ししたいことがありますが、まずはそちらの話を聞かせてください」
「俺はSランク冒険者パーティー【黒の霹靂】の阿吽、ドレイクの仲間です」
「里長のリンドヴルムです」
「急な訪問にも関わらず、丁寧に対応してくれて感謝します。
まずは、俺達が来た理由ですが……イブルディア帝国が、複数の魔導飛空戦艇でこの里を壊滅するための侵攻を考えているという話があります。
急な事で信じられないかもしれないですが、どうか俺達を信用して避難をしてください」
「……そうですか。
あなたの話は、本当の事なのでしょう。わざわざ私たちに嘘をつく必要などありませんからね。
それに顔を見ていれば分かります。
……しかし、私たちは避難をすることはありません。
本当に攻めてくるようであれば、最後の一人になろうと戦います」
「親父っ! 相手は攻撃用魔導具を装着している戦艇だ!
勝てたとしても、この里もタダでは済まなくなる!
それに、里の皆が死ぬ可能性だってあるんだ!」
「ドレイク、竜人族はどんな相手からも逃げない。それは良く知っているだろう」
何か事情がありそうだな……
「リンドヴルムさん、あなたが話そうとした事を聞かせてもらえませんか?」
リンドヴルムは軽く目を閉じ深呼吸を挟むと、ゆっくりと話し始めた。
「まず、ドレイクに謝らなければならないことがある。怒る気持ちは分かるが、最後まで聞いてほしい」
「わかった……」
「試合の前に弱体の薬を飲ませたのは私だ。それに関しては、理由はともあれドレイクには謝罪の言葉しかない。すまなかった……」
「……何となく分かってた。でも理由が分からない。俺を里から追放することが目的だったのか?」
「そうだな……ドレイク、お前には話していなかったが、竜人族はごく限られた者のみ進化ができる。ただし、その条件はハッキリとは分かっていない。
唯一伝えられている事は、スフィン大陸の最南端、雪原を越えたところにある雪山『アスタラス銀嶺』。
そこに居る伝説の
竜人族は進化しないとドレイクから聞いていたが……リンドヴルムの話し方だと、ドレイクも知らなかった感じか。
それにしても、それと追放がどういう関係があるのだろうか。
「どういう事だ? 進化の事は分かったが、俺に薬を飲ませたことや追放された事に何の関係がある……」
「氷竜の居場所には、通常の方法では到底辿り着くことができないのだ。
私もドレイクぐらいの歳の頃、次期里長となった時に更なる力を求めて行ってはみたが、氷壁の中に入る事ができなかった。
それは、氷竜による氷の結界が成されていたためだ。
その後、里長になった時に聞いたのだが、この結界を通るには、竜人族の他に3つの種族が同伴して氷壁まで到達する事が必須条件となっているらしい。
この里に居るだけでは、その仲間と会うこともできず、進化する事もできないのだ……」
「それで、追放したと……」
「もうひとつ、理由がある。ドレイクがその進化に適応できる数少ない竜人族だということだ」
竜人族の中でもドレイクが特別って事か?
「ドレイクが単属性しか持っていないという事が一つ目の特殊性だ。
“氷竜の試練”を乗り越え、特殊属性である氷属性を得るための余力といったところなのだろう」
氷属性? 初めて聞いた属性だな。
そういえば、雷属性も俺以外が使っているのを見たことはないが……
「もう一つの理由は、ドレイクが黒竜であるという事だ。そして竜人族には、里長にのみ伝えられる伝承がある。
“再び戦禍が訪れる時、黒き竜が氷を纏い、光を導く”というものだ。
伝承の通りであるとすれば、この里で唯一黒竜に【竜化】できるドレイクは、2000年前の人魔大戦のような戦禍に備えるために“氷竜の試練”を乗り越える必要があるということになる」
確かにその伝承通りなら、ドレイクは相当特殊な個体であるという事になるんだろうな。
……だが、大切なのはドレイクの気持ちだ。
「ドレイク、この件に関してはお前が決めていい。俺達4人は、お前の決めた事を全力でサポートする」
ドレイクを見ると、戸惑っている様子ではあるが、何かを決心した表情を浮かべていた。
「兄貴、ルナ皇女殿下は帝国が攻めてくるまで1か月って言ったっすよね?」
「あぁ、どれだけ早くても3週間は時間があるだろう」
「親父、ファヴ兄。追放される前に……その話が聞きたかった。
でも、何か
それに追放されたおかげで、俺は最高の仲間に囲まれてる」
ふっ切れた顔してるな。
そんなら俺達は全力でドレイクを支えるだけだ。
「俺は“氷竜の試練”を受けてくる。もし攻め込まれたとしても、帰ってくるまで絶対誰も死なないでくれ」
「当たり前だ。竜人族の強さを帝国に見せつけてやろう!」
ドレイクの言葉にファーヴニルが答える。弟想いな兄ちゃんのようだな。
そこからは翌日に出発することが決まり、雪原や大まかなアスタラス銀嶺の場所、ルートなどの確認を済ませていった。
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