第79話 雪山登山

 翌朝、ドレイクは竜人族の里の皆に囲まれていた。

 老若男女問わず笑顔で話しかけられているドレイクを見ると、追放されたというのが噓のようだ。

 ドレイクの人柄の良さ故なのだろう。


 俺は通信型魔導具でルザルクに経緯を伝え、できるだけ早く竜人族の里へ戻ることを条件に快諾をもらった。


 里長のリンドヴルムから教えられたルートとしては、赤の渓谷、モルフィアの森を越え、レクリアの街を通過。蒼緑平原を突っ切り、旧ニャハル村を経由。そこからは南下をしていくと荒野、雪原となっていくそうだ。

 そして、そのまま雪原を南下し続けていくと雪山へ到着するのだが、そこから先は常時吹雪となっており、飛んで行くのは困難であるとの事。その雪山を上っていくとアスタラス銀嶺と呼ばれる地域になっていき、頂上付近に氷の封印があるそうだ。


 リンドヴルムにはそのルートで行くことを伝えはしたが、俺達はショートカットと防寒対策の為に一度プレンヌヴェルトダンジョンに帰還転移。イルスに防寒装備をポイントで人数分制作してもらってから、一気に雪山までドレイクに乗って飛んで行くことにした。


「兄貴、我侭わがまま言ってすみませんでした!」


「気にすんな。ってか、我侭なんかじゃねぇよ。

 俺たちの最終的な目標は世界最強だ。ドレイクが進化できるチャンスをみすみす逃すわけないだろ」


「ん。みんなで強くなる。ドレイクが進化すれば帝国をやっつけるのも簡単になる」


「兄貴、ねぇさん方ありがとうございます! 絶対試練を突破してみせます!」


 その後、防寒装備に着替え、蒼緑平原から竜化したドレイクに乗って雪原まで飛んで行ったが、途中吹雪が強くなってきたため、そこから先へは歩いて行くこととなった。


 雪原に着陸すると、キヌが少しソワソワしている。

 あっ! もしかして、この辺りってキヌの仲間が居る場所に近いのか?


「キヌ、寄りたいところがあるなら少しなら時間はあるぞ?」


「……ん。この先に行くと、私が群れから追い出されたところ。

 もし……昔の仲間たちが居たら、少しでいいから時間が欲しい……」


「わかった。時間はとれるんだぞ? 少しで良いのか?」


「ん。伝えたい事があるだけ。ちょっとで大丈夫」


 そうして歩いて行くと、10匹の狐の魔物が遠くからこちらを見ているのを見つけた。


「キヌ、行ってこい」


 俺がそう言うと、キヌは狐型に戻り群れの方へ向かって歩いて行く。

 キヌは『金狐』に進化してから、さらに毛並みの金色が濃くなり、体も大きくなっている。

 全長は6mほどあるだろうか。竜化したドレイクと同じくらいの大きさ。

 一方狐の群れは出会った頃のキヌより少し大きいくらいのサイズだ。こうして対比するとキヌは強くなったなぁと感慨深くなる。


 キヌは、狐の群れに自分の姿がハッキリと相手に見える位置で立ち止まり、


『クォオォォォォン!』


 一鳴きするとクルっと向きをこちらに変え、【人化】をしながら戻ってきた。


「キ……キヌ様っ!」


 他種族言語のスキルを持っているシンクは意味が理解できたようだ。

 笑顔で戻ってきたキヌは、スッキリとした表情をしているようにも見える。


「なぁ、キヌなんて言ったんだ?」


「“私は、幸せになりました”って報告しただけ……」


「そっか」


 それ以上は聞かなくても表情を見れば分かった。ちゃんと過去と決別ができたのだろう。

 狐の群れの姿は既に無くなっていたが、遠くの方から狐達の遠吠えが聞こえてきた。




 その後1時間ほど進むと山の麓へとたどり着いた。

 今のところ魔物との遭遇は、狐の群れとしかしていない。

 しかし、少しずつ風が強くなってきており、視界も悪くなってきている。雪も深くなってきており歩くだけでも体力を消耗しそうだ。

 それに、防寒対策はしているものの、ネルフィーはかなり辛そうにしていた。


「ネルフィー大丈夫か?」


「すまない。こんなに寒さに弱いとは自分でも思わなかった。耐える事はできそうだが、戦闘まではできないかもしれない……」


 確かに温暖な森の中を住処としているダークエルフにとって、この気候はかなり辛いものがあるのかもしれない。

 ネルフィー以外のメンバーは問題なさそうではあるが、どうしたものか……


「ネルフィー、私が狐型になる。乗って……」


 確かに狐型のキヌは暖かそうな毛皮に覆われている。背中にしがみついていれば寒さ対策にもなりそうだ。


 ……あー、なんか俺も寒くなってきたなー。自分で歩けないかもなー。

 あ、嘘です。大丈夫です。


「阿吽は、ダンジョンに戻ってから……モフモフして?」


 そう言うとキヌは狐型に再び姿を変え、ネルフィーを背中に乗せ歩き出した。


 やっぱり見透かされていたな……。

 しかも、モフるのが好きなのもバレてた……恥ずかしい。


「お、おう。ネルフィー、それなら大丈夫か?」


「うむ。凄く温かい。キヌ迷惑をかけるが、よろしく頼む」


 それからは『スノーマン』という雪でできたCランクの魔物や『イエティ』という真っ白な毛皮のBランク魔獣、アイスロックという氷の塊のようなBランクの魔物が出現した。特にイエティは魔法攻撃と物理攻撃を使いこなし、移動速度も速い。格下ではあるのだが結構厄介な相手だった。

 ダンジョンに雪山エリアを作った時は、イエティを採用する事にしよう。


 戦闘に関しては、ドレイクは試練の為に体力や魔力を温存するため、俺とシンクの二人で殲滅していったのだが、雪に足がとられて上手く攻撃ができない。できる限り魔法で倒していったのだが、やはり時間はかかってしまう。

 途中からキヌもフレイムランスで攻撃をしだすと、属性相性もあり大概の魔物を2~3発で沈めていくことができたため、移動も早くなっていった。


 しかし雪山の頂上はまだ遠く、吹雪が強くなるタイミングでは視界がほぼ見えなくなってしまうため、途中で洞窟を発見し、吹雪が弱まるまで2日ほど足止めを食うこととなった。

 こんな事もあろうかとマジックバッグに食料や薪に使える木材などを入れておいて良かった。


 吹雪が弱まったタイミングを見て移動を再開してからおよそ10時間。数回の魔物の襲撃にはあったものの、俺達は無事に氷壁があるアスタラス銀嶺に辿り着くことができたのだった。

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