第189話 ブライドとの再戦①


 降りしきる雨の中、屋根から濡れた地面に飛び降り、改めてブライドをよく観察する。

 不自然に頭部をユラユラと揺らし、フルフェイスのヘルムからチラリと見える視線は、あらぬ方向を向いている。焦点が合っているかどうかも分からないような感じだが、さっきの反応からすると俺が誰であるかは認識した上で、異常な程の殺意を抱いているのが伝わってくる。


「ゴルゥワァァ!!!!」


 魂から叫んでいるような咆哮に合わせ、ブライドの左手から巨大な火球の魔法が打ち出される。狙いを定めているような素振りは見せないが、的確に俺の方に向けて飛ばしてきやがった。あのステータスから放たれる魔法がどれほどの威力かは分かりかねるが、さすがに食らってやる気はさらさら無い。

 マジックバッグから白鵺丸を取り出し、魔力を刀身に纏わせつつ向かってくる火球に合わせて抜刀すると、火球は真っ二つに割れ、俺の後方にある民家を次々に破壊し燃え上がらせていく。


「マジか。消し飛ばすくらいのつもりで斬ったんだけどな」


 思っていたよりも魔法の威力は高い。……が、それでもこれは想定の範囲内だ。もしキヌレベルの魔法が放たれていたとしたら、俺は魔法をこうも簡単に斬ることなどできはしない。精々方向を変えるために弾くのが関の山だろう。


「ガハッ、アガ、アウウンン!! ゴロスうぅ!!!」


 つい数秒前に自身が放った魔法が簡単に斬られたというのに、ブライドは再び同じ魔法を飛ばしてきた。

 今度は余裕を持って火球を4回斬り、消滅させる。


「お前さ、本当に思考力が無くなっちまっているんだな。ステータスがそんな高くたって、攻撃が単純すぎて当たる気がしねぇぞ」


 ワンパターンというか、なんというか。考えもなしに只々攻撃を仕掛けてくる様子は、ガキのグルグルパンチと大差ない。

 技術などなく、ただただ思いついた攻撃を繰り返すだけ……。正直、拍子抜けだ。


 ただ、装備している数々の呪われた武具。その中には、魔剣フラムのように手に持った途端に意識を乗っ取ろうとするものもあるかもしれない。装備の効果が分からない以上、念には念を入れて武具を破壊する必要がある。


「となると、やっぱコイツだな」


 マジックバッグに白鵺丸を収納し、代わりに赤鬼の金棒を引き抜く。そしてそのまま武器へと魔力を流すと赤鬼の金棒が帯電しだし、バチバチと放電音を轟かせだした。


 それを見たブライドは言葉にならない叫び声を張り上げ、全身から赤色のオーラを噴出させる。恐らく【燎原之火りょうげんのひ】という強化バフスキルだろう。確か効果は、STR筋力AGI敏捷INT知力が140%アップさせるというものだったはず。この強化率は呪いで底上げされているブライドのステータスをさらに強化する。

 それに加え、呪いの武具が赤鬼の金棒を危険視したのか、全身からカタカタと音を立てながら黒色の靄を濃くしていく。ブライドの周囲には赤と黒の二つのオーラが不気味に絡み合い、おどろおどろしい模様のように渦巻いている。


 ……だが、それだけだ。

 

「【雷鼓】、【疾風迅雷】」


 ブライドは倍率こそ高いが単体のバフスキルしか発動していない。俺が2重で強化バフスキルを発動してしまえば、ステータスの差は逆に縮まる。

 前回戦った序列戦から半年以上……、ブライドが地下牢に幽閉されている間に俺はレベルを上げ、進化を果たし、強敵と対峙した。

 その経験が呪いの武具なんかで埋められてたまるか。


「その装備……ひとつずつ、ブチ壊していってやんよ!!」


「ガルルラァァァ!!!」


 地を蹴ったのはほぼ同時。離れていた20mの距離は一瞬で縮まり、互いの武器が衝突した。

 俺の狙いは武具の破壊だが、ブライドの魔剣にも魔力は纏われており一筋縄ではいかなさそうだ。だが、それから数度ブライドは剣を振るが、その剣筋は単調なものであり攻撃を弾くの自体は造作もない。

 ただただ本能のままに振られる剣に、昔の面影はまったく無い。それを感じ取ると、なぜか寂しさや虚しさがこみ上げてくる。


「どうしたよブライド。お前こんな弱くなかったろ?」


「うぐぅ……ガァァ!!」


「マジで言葉も忘れちまったのか? それとも……その頭の装備が原因か?」


 振り上げられたブライドの剣を弾き、明確な隙を作る。

 その流れのままブライドの側頭部に思い切り赤鬼の金棒を叩きつけると、フルフェイスのヘルムが一部陥没するように凹みができた。

 しかし、それとほぼ同時。ブライドにまとわりついていた黒い靄が頭部に集中すると、数秒後には何事もなかったかのようにヘルムの凹みは無くなっていた。


「ハハッ、上等じゃねぇか。ぶっ壊れるまで殴ればいいだけだろが!」


 明確に頭部に的を絞り、ブライドの攻撃をいなしながら滅多打ちに殴り続けると、自然とブライドも頭部をガードしだす。ただ、防御に徹するということは、言い換えれば俺が一方的に殴る事ができるわけだ。それに、頭をガードすれば、胴体ががら空きになる。


「オラオラオラ!! どうしたよ! そのアホみたいなステータスは飾りかぁ!?」


「ガッ……あぁあぁああぁ!」


 今度はプレートアーマーで固められた腹部に連打を仕掛けながらも、ガードが下がってきたところで確実に頭部へと強打を与える。

 ブライドは何とか持ちこたえている感じだが、再び大振りに振り下ろされた魔剣を弾き頭部に三連撃を叩き込むと、何度も殴られて変形してきたファントムヘルムに大きな亀裂が入り、そこから黒色の靄が噴出。断末魔のようなブライドの叫び声とともに、ヘルムが割れてブライドの顔があらわになった。


「うっし! 残り五つ!!」

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