第188話 因縁


「え、ブライド!? マジっすか? まるで別人っすけど……」


「鑑定したから間違いないな。それにしても……ここまでやるのか、フェルナンド……」


 ブライドは地下牢に幽閉されていたはず。その罪状から鑑みると、そうそう簡単に出られないエリアに居たはずだ。それに、スキルや魔法を封じるために魔力を封じる枷をかけられているとルザルクからは聞いていた。……となると自力での脱獄はまず不可能。


 だが、ネルフィーからの情報にあった“血濡れのジョセフ”との遭遇を併せて考えれば、ブライドを解放したのがフェルナンドであると想像は付く。しかもブライドの装備……【鑑定眼】によると、それらはすべて呪われた装備だ。

 目に見えて、全身から黒色のもやを立ち上らせているだけでなく、右腕は魔剣と一体化しており、魔剣フラムがドレイクに刺さっていた時のような様相を呈している。また、その防具は所々がブライドの身体にめり込んでおり、特にブーツから伸びたいばらは両太ももにまで絡まって血が滴り落ちている。

 この装備は恐らくフェルナンドが用意したものなんだろう。王城を占拠した今、フェルナンドにとって宝物庫を漁るのなんか造作もないこと。そのなかで呪われた武具は他と見分けがつくように保管されていたはずだ。それらを持ちだしブライドに無理やり装備させたんだろうな。


「アイツのステータス、なんかすんげぇ事になってるわ……」


「どんなんっすか? めちゃ気になるんっすけど」


「レベルは俺より低いのに、ほとんどのステータス値が俺の1.5倍くらいある」


「マ、マジっすか……」


 恐らく呪いの装備で大幅にステータスを無理やり底上げさせているんだろう。俺の鑑定眼ではその呪いの効果やデメリットまでは判別がつかなかったが、序列戦の時に鑑定できた一部のステータスからと比べると相当な上昇率だ。それだけにデメリットも大きいに違いない。だが、おかしなところはステータスだけではない。


【スキル】

 ・魔人化:蜈ィ縺ヲ縺ョ繧ケ繝??繧ソ繧ケ縺?80??い繝??縺鈴」幄。悟庄閭ス縺ィ縺ェ繧九?


 コレに関してはもう意味が分からん。鑑定できているのにその内容が全く理解できねぇ。

 魔人化というスキル自体が鑑定してもこうなるのか、呪いとの組み合わせでこうなってしまっているのか……。

 序列戦の時を思い返せば、肉体が大きく変貌し背中から飛行できる程の翼まで生えていた。さらにステータスも大幅に向上したことを考えれば、特殊な強化バフスキルの部類なのだろう。


「うがぁぁぁぁ!! ウアァ……う、アウンンンンッ!!!」


「兄貴、めっちゃ恨まれてるみたいっすね……」


「あぁ、ヤツの標的は俺ってわけだ」


 ブライドをしっかりと観察すると、フルフェイスのヘルムから覗かせる目は眼球が上転し、もう自我を保てず狂っているのは鑑定しなくても分かる程だが、鑑定の情報からも尋常ではない数の状態異常にかかっているのが見て取れる。

 ヤツの動作や仕草からも、ほとんど感情に任せて動いているような状態に感じる。


 ってか、まだ魔物の方が理性的なんじゃねぇのか? でも、だからこそ今この場でアイツを放置してはおけねぇ。それに、俺はブライドとのこれまでの因縁に、この場で決着を付けたいという気持ちになっている。


「なぁドレイク。せっかくご指名もらったなら、タイマンで受けなきゃダセェよな?」


「ハハッ、そうっすね! というか、なんかテンション上がってるのが声から分かるっすよ?」


「アイツとはガキの頃からの因縁があるからな。わりぃけど、アイツとは俺一人でやらせてくれ」


「そりゃもちろん良いっすよ! なら俺は一足先に王城に乗り込んでくるっすね!」


「おう! 何かあったら念話入れてくれ」


「うっす! ……あっ! ってか呪いの装備相手にするならコレ・・が必要っすよね? 一旦兄貴に預けとくっす!」


 ドレイクはそう言うとマジックバッグから『赤鬼の金棒』を取り出し手渡してきた。

 俺がまだ鬼人に進化したばかりの頃からドレイクに渡すまで愛用していた武器だ。数カ月ぶりに持つが、手に馴染む感覚がある。確かに呪いの武具を付けた敵と対峙するなら、この武器があれば相当有利に立ち回れる。

 久しぶりに使うし、もう一度鑑定をしておくか。


≪赤鬼の金棒:攻撃力15。武器・防具破壊効果≫


 初めて鑑定した時は驚きすぎて呆けちまったんだったな。そう考えると本当に懐かしい。

 それにしても本当に良い武器だ。攻撃力が高いことも勿論だが、 “武器・防具破壊”という効果は今まで鑑定してきた武器ではコイツが唯一無二だ。


「サンキューな。ってかドレイクは武器無しで大丈夫か?」


「余裕っすよ! あ、でもこの戦いが終わったら返してくださいね!」


「あぁ、もちろんだ!」


「それじゃあ、行ってくるっす!」


 冗談めかして言うドレイクに、俺も自然と笑顔で答える。

 ミラルダの宿屋でドレイクにこの武器を渡した時、「俺より使いこなしてみせろ」と言ったが、今では【破壊帝】の代名詞のような武器ともなっているほどだ。

 そんなドレイクは、笑顔のまま王城へと視線を移し、屋根伝いに走り出していった。俺が負ける未来なんか1ミリも想像していないのだろう。


 一旦預かった赤鬼の金棒をマジックバッグに収納し、少し落ち着く為にフゥっと一度深く息を吐く。

 ネルフィーとも約束したが、俺の役割は目立つこと。俺が目立てば目立つほどネルフィー達は陰で動きやすくなる。

 それに、今回は相手が相手だ。ステータスを見る限りでは中途半端な攻撃では傷をつけるのも難しいだろうし、手加減なんかするつもりは毛頭ない。

 イブルディアで戦った魔族のブラキルズのように逃げられてしまうのなんか論外だ。昔からの因縁を断ち切るためにも、この場で確実に仕留め切る。


「さてっと。んじゃ、派手にぶちかましてやっか!!」

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