第201話 爆弾解体


~ルザルク視点~


 切り替わった視界の先には、キヌさんの言っていた通りにシンクさんが姿勢を正して待っていた。ということは、ここはアルラインダンジョンのコアルームで間違いないのだろう。


 ダンジョンへの帰還転移は今までに数度やった事があったけど、どんな原理でこれが行えているのかを完全に理解ができているわけではない。恐らく称号にある『従属者』がダンジョン関係のスキルを使用できる“鍵”のようなものだと考察している。

 阿吽達はそういった事を何も考えず使っているのだろうが、僕を含めた魔導具作成を生業なりわいとしている者はどのような原理でその現象が起きているのかというのをどうしても考えてしまう。


「お待ちしておりました、ルザルク殿下。早速ですが爆弾が仕掛けられている闘技場の地下までご案内いたします」


「あぁ。よろしく頼むよ」


「何があってもわたくしが守りますので安心して付いてきてください。……ただ少し急ぎますので、道中多少の手荒な場面は目を瞑っていただけると幸いです」


「……分かってる。今は緊急事態だからね。それ・・は仕方がない事だと割り切っているよ」


 フェルナンドの目的としては、僕を捕縛または殺害することだと断定して良いだろう。となると、アルラインで僕の姿が敵兵に見つかることになれば、その後の展開はこちらが大きく不利に傾いてしまう。

 ならば、僕を見つけた敵兵をどうするのか……、選択肢は多くない。


「一応この装備を付けてください。認識阻害などの特別な効果はありませんが、何も対策しないより良いはずです」


「あぁ、すまないね。これも阿吽が用意してくれたものなのかな?」


「その通りでございます。ここアルラインダンジョンのコアであるウルス様に阿吽様が指示し、準備させた装備でございます」


 そう言って渡されたのは全身を覆うことができるフード付きのマント。確かにこれなら深くフードを被れば、正体がバレにくくはなる。というか当たり前のように装備を準備されているが、普通そんな事をこの短時間で行えるものではない。改めて“ダンジョンマスター”という存在の規格外さを実感させられる。


 そうしてシンクさんに付いて移動すること20分。本当に安全にキヌさん達の待つ闘技場の地下一階フロアに到着することができた。

 道中で数人の見回り兵に出くわしたが、全てこちらを認識する前にシンクさんが敵を気絶させていた。僕が見つかってしまうような心配は全くなかったようだ。

 シンクさんと言えばイブルディア帝国の侵攻時に敵兵を大虐殺していた印象が強く残っているが、あの時はドレイク君がケガを負わされたことや戦争という場面であったことが大きな要因であり、普段は今回のように理性の利くタイプなのだろう。怒らせると恐い事には変わりはないのだが……。

 っと、そんなことよりも今は爆弾だ。


「おかえり、シンク。それにルザルク殿下、待ってた」


「あぁ。さっそくで悪いが、現時点までで分かっている爆弾の情報を教えて欲しい」


「それは私から説明しよう。まず、爆弾は見ての通り巨大貯水槽に設置されている。形状は魔導具を組み合わせて作られたものなのだろうが、そのあたりの詳しい事は私では分からない。ただ、時限式というわけではないのは分かっている。取り外すのも形状を弄るのも、ルザルク殿下が来るまではやめておこうと思って設置された状態から変えてはいない」


「うん。下手に触るより設置されたまま残してくれているのはありがたいね。じゃあ色々と確認させてもらうとしよう。見た限りでは、すぐに爆発するようなことはなさそうだからその辺は心配しなくても良さそうだね」


 一つずつ魔導具の種類と組み合わせを確認する。

 まずは着火の魔導具。これは一般的な家庭で使われているものと大差ない。これ自体は特に変な所は見つからないが……いや、これはダミーか。奥に見えているもう一つの着火魔導具が本命。ダミーを外そうとするとそちらが作動する仕組みだな。ネルフィーさんは下手に触らなくて正解だったね。でなければもう爆発していてもおかしくはなかった。


 次は爆弾の本体部分。これは単純な魔導具というわけではなく、火薬も使用されているハイブリッド型。もし魔導具の解体をしたとしても火薬の方に着火してしまえば、この貯水槽を破壊できるだけの火力は十分にありそうだ。

 ふむふむ、なかなか興味深い……。こんな単純な仕掛けの組み合わせでここまで解除が困難な仕掛けを作るなんて、兄は本当に有能なのだな。それにしても、本当にパズルのような形状だ。全て綺麗に解体しようとするならば結構時間がかかってしまうだろう。


「大体の形状は分かった。ここから解体作業に取り掛かるよ」


「ん。何かあったら教えて。ルザルクが集中できるように周囲の警戒をしておく」


「助かるよ。ただ、補助に一人欲しいんだけど……」


「ならば私が補助を担当しよう。トラップの解体などで他の者よりは慣れている事もあるだろう」


「うん。ネルフィーさんなら色々任せられそうだね」


 そうして解体していくが、これがなかなか難しい。同時に二つの魔導具を取り外す必要がある部分や、魔導具を無効化する順番を間違えるとスイッチが入るような仕掛けが随所に仕掛けられている。

 ここまで1時間ほどの時間をかけて半分ほどの解体を終える事ができたのだが、そこでふと違和感に気付いた。


「これは……爆発の威力を上げる事よりも、解体を困難にする機構が多く取り付けられている……?」


「どういうことだ?」


「いや、何て言うか……この爆弾は爆発させる事よりも、解体させる事と解体しきるまでの時間を引き延ばす事を目的とされているような……。っ! これは……!? くそっ! そう言う事か!」


 無駄に大きな着火用魔導具を取り外すと、後ろに隠された別の小さな魔導具を見つけた。それと同時に違和感が核心に変わる。そして、その小さな魔導具を爆弾から取り外し、即座に踏み付けて破壊した。


「ルザルク殿下、どういうことか説明してくれるとありがたい」


「盗聴用の魔導具だ! フェルナンドの目的は、僕を王都におびき寄せる事と、こちらの情報を正確に把握することだった!」

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