第200話 改める認識


~ルザルク視点~


 イブルディア帝国でスフィン7ヶ国協議会の補填となる会議を終わらせた僕は、飛空艇へと乗り込み王都へと帰還しているところだ。かなり急がせてはいるが到着予定はおよそ6時間後。それまでにアルラインでのクーデターがどんな状況になっているのかは未知数だ。


 個室でレジェンダと状況の整理をしていると、阿吽とキヌさんからの念話が入ってきた。

 念話のこの感覚は何度味わっても不思議なものだ。

 遠距離間の意思疎通は魔導具でも可能だが、どうしても声を出す必要が出てくる。その点、念話であれば外部に声が漏れる心配もなく同時に何人もと情報共有が可能となる。もちろん魔導具には魔導具の利点はあり、一概にどちらが優れているとは言えないが……、今回はこの念話での情報共有がこちらにかなり有利に働く材料となるのは間違いない。


≪ルザルク、今時間あるか?≫


≪大丈夫だよ。そっちはどんな感じ?≫


≪こっちは少しずつフェルナンドの仕掛けてきている手を潰していってるところだ。ただ、王都に爆弾が2個仕掛けられてて、それの解除が俺達だけでは難しそうなんだ≫


≪それってどんなものなのかわかる?≫


≪ん。ネルフィーが発見した爆弾は、魔導具を組み合わせて作られたものらしい。自分では触ることもできないって言ってた≫


≪魔導具で爆弾……、確かに作ろうと思えばそんな難しくはないけど……≫


≪ってことは解除もルザルクから念話で指示をもらえば問題なさそうか?≫


≪いや、それは違うよ。解除や解体ともなれば、実際見てみないとどんな魔導具の組み合わせなのか分からないし、作るよりも難易度が跳ね上がるんだ≫


≪そうか、ならやっぱり早急にルザルクに来てもらう必要があるわけだな……≫


 ちょっと阿吽の歯切れの悪さが気になるが、魔導具関連となれば僕以外に適任は居ないだろう。阿吽たちもそう考えたから念話で僕に伝えてきているはずだ。それに不謹慎ではあるが、魔導具と聞くと好奇心が抑えられない。


≪そうなるね。こっちはレジェンダに頼めば誤魔化せると思うし、すぐに帰還転移でアルラインダンジョンに行くよ≫


≪あぁ、悪いな。フェルナンドの目的がルザルクの可能性もある。一人での行動は避けるようにして、十分気を付けてくれ≫


≪今、シンクがアルラインダンジョンに帰還転移した。道中の護衛と道案内は頼んである≫


≪それなら安心だね。なら僕もレジェンダに説明と指示をしたらすぐにアルラインダンジョンへ帰還転移するよ≫


 念話を切ってレジェンダに状況説明を行う。幸いなことにこの飛空艇は空の上、ここから僕が居なくなったとしてもレジェンダが「居室で休まれている」といえば梅雨払いも可能だし降りる際も何とか誤魔化してくれるだろう。

 

 それにしても、兄のフェルナンドがここまでやる人物だとは思ってもみなかった。

 派閥こそ巨大ではあったが、その貴族たちでさえ“傀儡”だと馬鹿にしていた。それが蓋を開けてみればその能力を隠し、計算され、印象操作をされたものだったとなれば、その異質さに背筋が冷たくなる。


 これまでに阿吽やバルバルたちから伝わってきた情報を総合的に考えれば、本当の兄の人物像は合理主義で効率主義。しかも軍事的な才能まで持ち合わせた切れ者だ。でなければ一晩でクーデターを成功させ王都を完全に手中に収めるなど、並の事ではない。やれと言われても僕には無理だと早々に諦めてしまうだろう。

 さらに魔導具を組み合わせた爆弾。作るのは簡単だと言ったが、それは魔導具の知識がある前提であり、“僕であれば”作るのが簡単だというだけの話だ。


 というか、そもそもこのクーデターはいつから仕組まれ、準備されたものなのだろう? 可能性として濃厚なのは序列戦の直後。だが、そうであったとしたら準備期間は半年程度という事になる……。

 しかも僕の耳に全く入ってきていないという事は多くても数人、もしかしたら兄一人で計画されたものである可能性すらある。


 いやいや……、さすがにそれはないか……。

 たった半年で王都を落とすための計画を立て、人を集め、各部隊への連絡手段を確立し、魔導具の知識を付けて実際に爆弾を作成したことになる。しかも周囲にバレないように水面下で全ての準備を整えたと……。冷静に考えてみるとそんなことできるはずがないのだ。


 ……だが、それをやってのけたというのならば、フェルナンド・アルトという男は、この世界でも屈指の頭脳と判断力と財力と胆力を持ち合わせているという裏付けになる。


 そこまで考えて、ふと思い出した。

 阿吽が言っていた「フェルナンドの目的がルザルクの可能性もある」という言葉と、阿吽の歯切れの悪さ。そして「少しずつフェルナンドの仕掛けてきている手を潰していってる」というセリフ。

 あの・・阿吽たちが後手に回り続けているとなれば――


「さすがに気合いを入れて立ち回らないと、食われるのは僕の方か……」


 これから僕が向かうのは、阿吽達に守られた安全な場所などではない。

 僕の持ちうる限りの能力を全て出して立ち向かわなければ、すぐに足元を掬われてしまうような強敵。


 兄……いや、フェルナンド・アルトという男の認識を自身の中で修正し、レジェンダに指示を伝える。

 そしてアルラインダンジョンに帰還転移を行うと、瞬間的に視界が切り替わった。

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