第199話 闘技場の爆弾②


~キヌ視点~


≪こちらネルフィーだ。闘技場の爆弾を発見した≫


 入ってきた念話で私とシンクはすぐに闘技場のリングから通路へと走り出し、念話に反応をする。


≪さすがネルフィー、思ってたより早く見つけてくれた≫


≪あぁ、だいたいの場所の予想は付いていたからな。それに、フェルナンドはあまり隠す気がなかったようだ≫


≪どういうこと??≫


≪爆弾は予想通り闘技場の基盤となる場所に設置されていた。だが、これだけ大きな建物だ。本気で隠そうと思えばもっと別の場所もあったはずだ。しかし、実際は見つけてくださいと言わんばかりの場所に設置されている。ただ、実際爆発すれば一番効率よく闘技場を破壊できる場所でもあるのだがな≫


≪ん。私たちもすぐに向かう。場所は?≫


≪地下だ。地下1階に雨水をためておく貯水槽が、地下2階に街中の地下を流れる下水路が通っている。爆弾は地下一階の貯水槽のフロアに設置されていた。≫


≪分かった。そこに行く順路を教えて≫


≪第三控室の横に通路があり、そこの一番奥に魔導具で施錠された扉がある。扉を開ければ地下へと続く階段に入れる。開錠のコードは【0325-0129-0803】だそうだ≫


≪わかった。すぐ向かう≫


≪私はキヌとシンクが来るまでの間に爆弾を調べてみよう≫


≪ん。気を付けてね≫


 この順路や扉の開錠コードをネルフィーに教えたのはマイケルだと思う。国王直属の配属であったマイケルは闘技場の事はおおよそ全て知っているはず。

 何にせよスムーズにネルフィーと合流できるのはありがたい。それにその扉を抜けさえすれば見回りの兵士も数が減るだろう。


 最短ルートで第三控室を抜け施錠された扉へと到着。開錠コードを入力すると、小さな魔法陣が浮かび上がりカチッっという音と共に扉が僅かに開かれた。

 シンクと共に地下へと進む階段へと侵入。扉を閉めると再び魔法陣が浮かび上がり自動で扉が施錠された。この魔導具は誰が作ったものなのだろう。確か闘技場の防御障壁を張る巨大魔導具はルザルクが作ったと阿吽から聞いていた。となると、この魔導具もルザルクが作ったものの可能性が高い。

 幼少期より算術や歴史学、帝王学、政治学や経済学まで修学しただけでなく、魔導具学に関してはこの国の最前線を走っているルザルクは本物の天才なのだろう。


 そんな事を考えていると、地下1階へと到着し視界が一気にひらけた。


「キヌ様、ネルフィーさん達はどこなのでしょう?」


「ん。たぶん、貯水槽の辺り」


「それは……なぜでしょうか?」


「ネルフィーは“分かりやすい場所”って言ってたでしょ? この地下にある貯水槽は相当巨大な物のはず。それに、そこで爆発が起きればその爆発の力に加えて大量の水が溢れて、この闘技場を支えている柱の多くが折られちゃう。そうなれば……」


「考えただけでゾッとしますね。私たちでさえタダでは済まないでしょう……」


「そういうこと。フェルナンドは、本当に賢い」


 戦力では勝てないと判断すると、徹底的に戦闘を回避しつつ私たちの足止めはしっかりと行う。 “人”ではなく、爆弾という“物”を使ったのも予測のズレを減らすためじゃないかなぁ……。

 フェルナンドは合理的で効率的、それに人を駒としか考えていない冷血さを持ち合わせている、そんな男だという事が行動からにじみ出てる。本当にルザルクと血が繋がっているのかと思うほどに性格が真逆。


 歩みを進めていくと、巨大な貯水槽の近くにネルフィーとマイケルの姿を発見した。


「おまたせ。ネルフィー、どう??」


「これは、私の手には負えない代物だな。単純な爆弾というわけではなく、魔導具を組み合わせて作られたものだ」


「この貯水槽から取り外す事も難しそ?」


「この手の物は下手に弄らないほうが良い。触るにしても魔導具の専門家が必要だな……」


 ……となると、自然と選択肢は限られてしまう。

 私たちの仲間や知り合いで魔導具に精通している人物はルザルクのみ。これから別の人物を探すのも困難だし、その人を信頼して爆弾を触らせられるかと言ったらそれは無理だし……。その点ルザルクであればこの国でもトップクラスの魔導具知識と技術があり、信用もできる人物だ。

 ただ、これは阿吽に相談してから動く方が良いだろう。


「ん、わかった。ちょっと阿吽にも意見を聞きたい。念話繋ぐね」


「了解した」


 阿吽やドレイクと別れてから30分程は経過している。あっちが戦闘中でなければいいけど……。ん-、まぁ阿吽達なら大丈夫か。


≪阿吽、今良い?≫


≪おう! 今はブライド倒してドレイクと合流するところだぞー。そっちは何か進展あったか?≫


≪さすが阿吽。こっちはネルフィーが爆弾を発見した。でもこれを解体するには魔導具に精通した人じゃないと無理みたい≫


≪となると、ルザルクか……≫


≪ん。どう思う?≫


≪正直なところ、ルザルクをこのタイミングで王都に呼ぶのは避けたいけどな……。でもそれ以外の選択肢はねぇし……≫


≪私も同じこと考えてた≫


≪もし爆発したら、被害予想はどれくらいになる?≫


≪設置された場所を考えると、多分この闘技場は崩壊する。今からここに居る人たちを避難させる場所も無いし、それだけの時間があるとも限らない。被害は想像できないレベルで大きそう≫


≪そうだよな……、となると仕方ねぇか。なら、今からルザルクにも念話繋ぐぞ≫


 きっと念話を繋いだ時点で、ルザルクがここに来るのは確定する。

 阿吽と従属契約をしているルザルクならアルラインダンジョンに帰還転移ができる事を考えると、シンクを迎えに行かせれば20分程度でここに到着するだろう。


 ただ私や阿吽が危惧しているのは、この混乱したタイミングでルザルクを王都に来させる事こそがフェルナンドの目的なのではないかという点。フェルナンドからすればルザルクを王都に呼び出すのは、今がベストのはず。そうであったとしたら、またしても一手先を許しちゃってることになるけど……でも、それ以外に選択肢が無い以上仕方がない。


 とりあえずシンクを一度アルラインダンジョンに帰還させて、ルザルクを安全にここまで連れてくるように頼んでおこう。



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年の瀬ですねぇ♪

来年もテンションぶち上げて執筆していくんで、読んで頂けたら嬉しいです★

次話は年明け1/5(金)投稿予定です♪

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