第166話 プレンヌヴェルトの新しいボス


~阿吽視点~


 褒賞授与式から1カ月、俺はプレンヌヴェルトダンジョンの改築作業に追われていた。というのも、ダンジョン都市ウィスロから来た1組のパーティーが破竹の勢いでダンジョンを踏破しているためだ。


 パーティー名【シードル】、5人組Sランクパーティーらしい。こいつらは前衛職を担うアタッカーの魔剣士とタンクである重騎士2名、それに後衛の癒術師と魔術師という構成だ。モニターで見ているとタンク2名の連携やヘイト管理が上手く、最低限のダメージで敵の攻撃を防ぐことができているだけでなく、少しでもダメージを負うと癒術師がしっかりと回復。その隙に魔剣士と魔術師がダメージを入れるというシステムが確立していた。


 ただ、【シードル】の優れているところはその戦闘技術だけではない。むしろ徹底して危険な戦闘を避けるリスク管理にあった。事前に情報を揃え、情報が不足している時は様子見だけして撤退を決める判断も早い。


「やっぱウィスロから来たパーティーはダンジョン慣れしてやがんなー」


「そうでござるな。こやつらは低層階や中層階のほとんどを最短ルートで直行しているでござる。それがプレンヌヴェルト街で売られている“迷宮地図”のお陰であるのは分かっているでござるが……それにしても踏破速度が速いでござる」


「……これさ。ついにヒュドラも突破されかねんよな?」


 今までの冒険者達の最高到達階層は25階。要するにこれまではヒュドラが冒険者達をすべて追い返していた。圧倒的な防御力と回復能力に加え、毒の異常状態を引き起こすブレスを吐くヒュドラは、Sランク下位というランクに甘んじることなくその役割を十全に担ってくれている。ただ、【シードル】の構成や熟練度から見ると、そのヒュドラでさえも突破されてしまう可能性が高い。


「ってか、ヤオウを幻影城に移動させちまったから30階層にボスが居ないんだよなぁ。だから早急に30階層のボスを召喚する必要があるということになる……DPダンジョンポイントって少しは貯まってるか?」


「そんなに多くはないでござるが、クエレブレとヤオウが残してくれたポイントと合わせればSランク上位1体と5階層分くらいはできそうでござる!」


「うーん……とりあえず30階層は玃猿かくえんたちが森林エリアを改造しまくって罠だらけにしてるし下手に別のボスを配置するのも良くないよなぁ……。まぁ、ここはそのままにしとくか。代わりに31階層から35階層を新しく作って、35階層にボスを配置しておこう」


「それが良さそうでござるな。玃猿かくえんたちに任せておけば時間稼ぎはしてくれそうでござる」


「となると31階層からの新エリアだが、とりあえずボスから考えてみるか?」


「そう言われると思ってSランク上位の魔物で良さそうなのを見つけておいたでござるよ! ただ、ちょっとクセが強そうな魔物でござるが……」


「お? 仕事が早いな! それってどんな魔物なんだ?」


 イルスが提案してきたのは『ギガンテックセンティピード』という巨大なムカデの魔物だった。実はコイツ、かなり有名な魔物であり、当然魔物図鑑にも載っている。


 特徴は小さな個体でも全長50mを越える超巨大な身体と、その高すぎる防御力。さらに麻痺の状態異常を付与する噴射物を吐くなどの厄介さを持ち合わせている。

 その防御力は、似た特徴を持つヒュドラをも軽く凌ぎ、生半可な物理攻撃ではその硬い装甲で弾き返されてしまう。それだけでなく様々な属性の魔法に耐性があり魔法攻撃すら効きにくい。唯一効くのは火属性の魔法であるが、それも相当な火力を出さなければダメージを与える事は困難だろう。

 攻撃面で単調さはあるものの、その巨体から繰り出される質量攻撃はそれだけでAランクパーティーを軽々と壊滅させられるほどの破壊力を兼ね備えている。


 この魔物が有名な理由……、それは厄介な行動特性にある。

 その行動特性とは“縄張りテリトリー”。自分の縄張りに入ってきたモノは、たとえそれが同族であれ瞬時に殺害対象へと変わる。そして一度その対象になってしまうと自身の縄張りを大きく越えて追いかけ続けてくる場合もあるらしい。

 魔物図鑑には、ギガンテックセンティピードはアルト王国とオルディーラ国の境界に当たるナクヴァ山脈が生息域と書いてあったのだが……、ギガンテックセンティピードが生息している事が理由でこのナクヴァ山脈は危険地帯・・・・と呼ばれ、両国ともに立ち入り禁止区域指定をしている。

 『もし山脈にギガンテックセンティピードが生息していなければアルト王国とオルディーラ国の貿易が活発化しており、両国ともに更なる繁栄をしていただろう』と著名な学者が発表したこともあるらしい。


 そんな厄介な魔物もダンジョンのボスとして配置してしまえば、そこは鉄壁の要塞と化す。


「なかなかヤバい魔物をチョイスしたな……」


「扱いづらさはあるでござるが、悪くない選択肢でござろう?」


「そうだな! ってかもうギガンテックセンティピードで決定しちまおう」


「そ、そんな簡単に決めて良いのでござるか?」


「厄介な行動特性はあるが、ダンジョンの魔物である以上マスターである俺の指示は聞くだろう。それに何よりこの魔物とダンジョンの相性が良すぎる。となれば召喚しない手はないだろ?」


「ちょっと不安でござるが……拙者が提案した事でもあるし、反対はしないでござる!」


「よし! なら、とりあえず他の階層は後回しにしてギガンテックセンティピードと専用のボスエリアを作っちまうか!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<あとがき>

どうも、幸運ピエロです♪

ちょっと物語が停滞気味ではありますが、数話後「ゾンビ先輩の大冒険」の続編を挟んだ後、再びストーリーが進んでいきます。お楽しみに★


次話は5/12(金)投稿予定です♪

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