第167話 ギガンテックセンティピード
ギガンテックセンティピードの召喚に伴い、まずは35階層のボスフロアから作成することとした。というのも、既にフロアの構想は決まっているのだ。
結論から言うと、その巨体が自由に動けるだけの広さを考慮しつつ、冒険者たちが不利になるような環境である山岳エリアだ。
元々の生息域もナクヴァ山脈という高い山々が連なる地域であり、上手く斜面を利用しなければギガンテックセンティピードが一方的に攻撃をし続けられる。さらにダンジョン内であっても高地であることを再現できるため、空気も平地より薄くなる。となれば長期戦になるとそれだけ冒険者に不利な条件を押し付けることもできるわけだ。
これは高い防御力を持ち、その硬い外骨格と強靭な顎で地面や岩盤を削って潜ることもできるギガンテックセンティピードにかなり有利な地形と言える。
イルスの方に目をやると、手慣れたように地形や植物の配置など様々な設定をこなしていっている。
「できたでござるよ! ナクヴァ山脈がどんなところか分からなかったでござるが、戦いにくい足場と勾配、それに酸素濃度を平地の80%に設定したでござる」
「よし、オッケーだ! となれば、次は魔物の召喚だな。一応、万が一を考えてイルスはコアルームで観察しててくれ」
「分かったでござる。では気を付けるでござるよー!」
ブンブンと尻尾や短い手を振っているイルスを送り出し、フゥーと一息つく。
これから行うのはSランク上位の魔物召喚。もし襲われても今の俺なら勝てる自信はあるが、アークキメラと同格の魔物となると多少緊張もする。
「っし、やるか」
気合いを入れ、魔物の召喚のための各種設定を行っていく。今回は666,000,000DPを使用。これはSランク上位の中でもポイントを多く使う部類だ。さらにレベルは60で変異していない通常個体。いわゆる“即戦力”としての召喚だ。
「オッケー、これで決定っと!」
少しするとフロア内に黒い
黒光りする光沢のある身体の所々に奇抜な赤い色の模様が描かれている。その全長は一体何メートルあるのか、パッと見では全く分からないほど巨大だ。
そして最後には口元に巨木ほどの大きさがある尖った両顎が形成された。
魔物召喚を行う時はいつも思うが、コイツらはどこからどうやって生み出されたものなのだろうか……。アルスたちコアの説明では『この星を巡っている魔素や魂がDPという対価と引き換えに魔物の召喚に応じる』というなんともよく分からない回答が返ってきたが、「まぁ、そういうもんだろう」と理解はしきれずも納得している。
「無事召喚できたみたいだな!」
『ギシャァァァーー!!』
「おぅ……予想はしてたけど随分と反抗的だな」
召喚されてすぐダンジョンマスターである俺を攻撃してきやがった。そんな事をすれば最悪その場で消されることもあるというのは分かっているはずなのに。
ただ、事前に2重バフをしておきステータスを底上げしていた俺は、両手でその顎を抑え込む。
『キチキチキチキチッ……』
「まぁ落ち着けって。俺はお前の
俺がそう言うとギガンテックセンティピードは押し込んでいた力を緩め、ゆっくり頭を低く下げた。
「よしよし、いい子だ。今日からここがお前の家だ。色々混乱してるとは思うが、とりあえずここに入ってきた侵入者たちを全て撃退してくれ」
『キシャーッ!!』
うーん、何を言ってるのかは分からんが、なんとなく伝わった気がする。
「よし、なら俺はコアルームに戻るからお前はこのフロア好きに使ってくれていいぞー。じゃあなー」
そう言ってコアルームへと迷宮内転移で移動し、モニターでギガンテックセンティピードの様子を確認する。
「大丈夫だったでござるか!? 正直、拙者はかなり焦ったでござるよ!」
「ハハッ、でも大丈夫だっただろ?」
「笑いごとではないでござる!」
「まぁ大丈夫だって。召喚されてすぐだったから混乱してただけだろうしな」
「それにしても……こやつは何をしているのでござろうか?」
モニターを見るとギガンテックセンティピードは地面に大きな穴を掘り、その中に潜り込もうとしているところだった。
「うーん、多分巣穴でも作ってるんじゃね?」
「ふむふむ。この巨体となると、この山岳地帯の至る所にこんな大穴ができるという事でござるな?」
「ここは思った以上に難攻不落のエリアになりそうだな……。っと、そういえばまだ31階層から34階層までの通常エリアができていなかったよな?」
「そうでござる。ギガンテックセンティピードの召喚があったからあまりDPは残っていないでござるが……」
「まぁ、ある分だけ使っちまえ。どうせまた貯まるだろ?」
「また貯め直しでござるな……、頑張るでござるよ」
「おっし、なら31階層より上は山岳エリアってことにして、ポイントが貯まり次第少しずつ魔物は増やしていくことにしよう」
「承知したでござる。魔物のランクや種族はどうするでござるか?」
「ランクはC~Aランクくらいで大丈夫だ。あと、バルバルが階層制作やダンジョンの防衛に興味があるらしいから種族は二人で相談しながら決めてみてくれ。そのついでにダンジョンでできる事を説明しておいてもらえると助かる」
「分かったでござる!」
この1か月後、山岳エリアを順当に踏破していっていた【シードル】だったが、35階層のボスエリアでギガンテックセンティピードに阻まれ帰還を余儀なくされる。圧倒的な防御力の前にほとんどの攻撃は極わずかしかダメージを与える事ができていなかったのを見ると、コイツが突破されるのは相当先になりそうだと少し安心した。
バルバルに関しては街関係の仕事を文官たちに移行し、時間的余裕を作った後、俺と一緒にダンジョン運営も行うことになった。これは俺達がウィスロダンジョンの攻略を行う際、数カ月単位でプレンヌヴェルトに戻れないことを考えての事も含まれている。
バルバルであればダンジョンの運営もある程度任せる事ができるし、どうしようもなくなる前に俺に連絡をくれるだろう。
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