第168話 先輩の大冒険③
~名もなき元ゾンビ視点~
はい、まいど! ゾンビのおっちゃんやで! もうゾンビちゃうけどなっ!
『初心忘るべからず』って言うやろ? どういう意味かよう分からんけど……まぁ、とにかく自分がゾンビやったって事を忘れたらアカンって事や。
ラヴァワイバーンのラヴァンと火山島を脱出したワイは、適当に空の旅を楽しんどるところや。
んで、これからどこへ向かおうかって考えてるんやけど……、自由になったはええのに“自由過ぎて”どこ行ったらええか分からんのやわ。
なんせ今までは流されるままに生きてたやろ? よう考えてみると、自分の意思で行先決めた事なんかなかったんや。
ダンジョンから出たのもゴーレム君が暴走したからやし、火山島に来たんもワイバーンに捕まえられて来たわけやし。
うーん、どないしよ……。
まぁええわ! 行先なんか決めへんでも、このまま直進し続けてたらどっかには辿り着くやろ。カッコエエ言い方すると『行先は風まかせ』ってヤツやわ。
(ってことでラヴァン、このまま真っ直ぐや!! せっかくやし、最高速度で行くでっ!)
と心の中で伝えてみると、それに応えるようにスピードを上げていくラヴァン。テイムした時から思っとったけど、やっぱりワイの考えてる事伝わってるんやな。
ん? てことは何か? ワイのこの一人喋りも全部聞かれてるっちゅう……こと?
キャーー!! 恥ずかしー!! えっちー!!
……まっ、今更か!
って、ちょ……は、はやっ!! ラヴァン速過ぎるわ!
あかん、さすがに怖……
……い?
おぉ?
あれ? 怖くない。
それどころか、めちゃくちゃ気持ちエエで!?
このどこまでも広がる大空を支配したような全能感と、イケないことをしているような背徳感。
それに、命の危険を感じるほどの速度が絶妙なスパイスになって、気が付くと今まで感じた事がないほどの高揚感に包まれとる!!
股間のあたりが若干キュンキュンするけど、それもご愛敬や。
「ピュイィーーーー!!」
お! ラヴァンも気持ちエエか! んなら、このまま行こうか! ピリオドの向こうへっ!!
◇ ◇ ◇ ◇
そっから数時間すると、海と空の青色が絶妙なコントラストを生み出している景色の先に、薄茶色の砂浜が見えだした。
風を感じるスピード感と空から見る絶景にテンションもバチバチに上がりっぱなしや。
そういやぁ
それよりも陸地を見てたら何か腹減ってきたわ。かれこれ2年間もなんも食っとらんからな!
ん? あれ?……ワイ2年も飲まず食わずで生きてたんか!? いや、アンデッドやから死んでるけど! そんなんやったらゾンビの時に木の皮なんか食わんでも生きてこられたんちゃうか?
いやいや、でもあん時は抗えんほどの飢餓感で、何でもええから胃の中にブチ込みたかったからな……。いつからあの飢餓感は無くなったんやろ。んー、色々必死過ぎてあんま覚えとらんな。
火龍はんに燃やされて骨だけになってしまったからやろか? 胃袋が無くなってしもたから食うてもしゃあないしな、ハッハッハーッ!
って笑い事ちゃうねん!!
まぁ、ええか。別に何か異常があるわけでもないしな。ポジティブに考えよ!!
ラッキーや、ラッキー!!
あっ、でもあれや。ワイはええけどラヴァンはそうはいかんやろ。とりあえず見つけた魔物でも狩って食料にせなあかんな!
おっ、ちょうどええところに魔物が居るな。なんやあれ? 緑色のちっさい人間みたいな魔物……ゴブリンってヤツやろか?
とりあえず、あれ食料に……って、なんやラヴァン?
「ギルルゥウ!」
え? 嫌なん? あれ、不味いって? 贅沢やな! んじゃあ何がええねん?
「ギャギャイッ!!」
あっち? って向こうは砂漠やないか。食料なんかありそうにないけどな。まぁ、とりあえず行ってみるけども。
あれは……人間? ラヴァン、お前人間食いたいんか? いやまぁ、ゴブリンよりはうまそうやけどな。もっと肉のある魔物の方が食べ甲斐があるやろうに……。
そんなこと考えながら上空から人間観察してると、砂漠を走り回って
ん!? なんや? 地響きが……
…………!?
(ヤバッ! 退避ぃぃぃ!!!)
――ゴゴゴゴッ、バクッ!
あ、あぶなぁぁぁぁ!!!
地面から出てきた巨大なワームが
いや、それにしてもあのワームデカすぎるやろ……全長何十メートルあんねん。これまで見てきた中で一番デカかった火龍と比べても圧倒的にワームの方がデカいで? ……とはいっても火龍ほど強くはないやろうけどな。
てかワイらの飯、クソデカ芋虫に食われてのうなってしまったやないか!
……ちょっとムカついたわ。もう代わりにあのワーム食うたろ!
「ギュェェ……」
そう嫌そうな顔せんといてや。食ってみたら案外美味いかもしれへんよ? それに好き嫌いしてたら大きくなれへんで?
まったく最近の若い子は……、ワイの若いころなんか、食いたくても木の皮しか食えんかったんやぞ? 何なら食いすぎて今では香りで樹齢何年物か大体分かるくらいやわ。もう『木皮ソムリエ』って名乗ったろかと……え? ワイが弱すぎてそれ以外食えんかったんやろって? やかましぃわ!!
そんなことよりもアレや。あのクソデカ芋虫どうやってシバいたろか。見た目プニプニしてたから普通に斬る事はできそうやけど、
てか、アイツどうやって索敵してるんや? 砂の中におったら眼もみえんやろうし、考えられるんは匂い……それか音や振動を察知してるって感じか? 人間みたいなそない大きくもない動物の走る振動で分るって事は……、
……っ! 閃いたっ!! さすがワイの熟成脳みそや!
フッフッフ、これはおもろくなりそうやで!!
あのクソ芋虫、キッチリ食料に変えたるわっ!!
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