第169話 先輩の大冒険④


~名もなき元ゾンビ視点~


 ワイ等の食料横取りにしたクソデカ芋虫を食料にしちゃう大作戦。

 この作戦はスピードが鍵や。それにはラヴァンの協力が必要やな。


(ラヴァン、とりあえずさっきの浜辺まで戻ってくれへんか?)


「キュアァ?」


(さっき活きの良さそうなゴブリンおったやろ? まずはアイツ捕まえるで!)


「ギュア!」


 海岸に戻ってすぐにゴブリンを見つけたラヴァンは滑空しながら首根っこを掴む。

 そしてそのまま再び砂漠へ。

 ゴブリンは手足バタつかせとるけど、そんなんでラヴァンの筋力には到底敵わん。


 さっきまでの地響きはもう聞こえへん。せやけど、あんなでっかい図体の魔物や。そない遠くまでは行けへんやろ。

 

 首を掴まれてジタバタしてるゴブリンを砂漠の中に放り投げる。するとどないなるか、そりゃゴブリンは必死に海岸へ逃げ帰ろうとするやろうな。

 ゴブリンが砂漠に入ろうとせんかったんは、きっとあのクソデカ芋虫が居るからや。

 捕食されそうになると本能が危険信号を出す。それは弱い魔物やったワイだからこそ手に取るように分かる思考。

 

 ここまではワイの立てた作戦通りや。あとはゴブリンの付近をラヴァンに飛び回ってもろて、餌に獲物が食いつくのを待つだけ。

 もしあの魔物が振動を感知してるなら、こんだけ必死にバタバタ走ってるゴブリンに反応せんわけがない。


 うん? あの芋虫が出てきたらどうするかって?

 そんなもん後は……あ、ヤバッ。その後の事考えとらんかった!! うわっ! そんなことしてたら地響きが聞こえだした!


 ……どないしよ。

 んーーー、うん。考えとっても埒が明かへんわ!

 もうあとは気合いと根性じゃぁぁ!!


(ラヴァン、まとめて食われんように気張って逃げるんやで!!)


「ギャギャィ!?」


 ……腹くくって集中してるからやろか、周囲の動きがゆっくりに感じるわ。

 開き直ってからは頭も冴えとる。なぜか今この瞬間がこれまでで一番調子がいいと確信が持てる。


 頭では客観的に自分を見つつ、自然と手に持った矛に魔力を流す。するとその刃先から炎が溢れ出してきた。


――ゴゴゴゴッ、バクッ!


(きた! ベストタイミングや!)


 自動的に身体が動くような不思議な感覚。上空を飛ぶラヴァンの背から飛び降りながらその勢いのまま両手で炎の矛を振り下ろす。


 手に伝わるプニプニとした柔らかい感触と肉を焼くような焦げた匂い、そしてブチまけられる緑色の体液。

 食われかけて上に吹き飛ばされてたゴブリンをついでに・・・・斬ったのが分かるほど、武器から手に伝わってくる感覚は鋭い。


 そのまま芋虫を縦に斬り裂きながら砂漠へと着地すると、数秒してからワイの背後にクソデカ芋虫が倒れ込み砂煙が上がった。


 ドヤっ!! 見たか!? ワイかてやればできるんや!

 まさに計算通りっ! ん? 「中途半端な作戦」って言うのはナシで頼むで!!

 それにしたって凄いやろ? 一撃や!

 んーーっ! 気持っちエエなぁ!!


「ガハッ、ゴホゴホ。一体何が……、確か俺はジャイアントワームに飲み込まれて……」


 なんや? 芋虫の中から人間出てきたで。

 あー、さっき食われてたヤツか。運良くまだ生きてたみたいやな。にしても全身体液まみれやないか……なんか臭そうやな。


「くそっ、砂煙がっ…………え? ジャイアントワームが……死んでいる? 待て待て、ジャイアントワームはSランクの魔物だぞ!! いったい誰が……」


 ハイッ! ワイです!

 この元ゾンビのおっちゃんがやりました! っても、声帯ないから声出んのやけどな!

 てか、このクソ芋虫ってSランクなん? 一撃やったけど? 全然歯ごたえなかったし。

 ……もしかして、ワイって……結構強い??


「ど……髑髏の騎士……。しかも変異種のワイバーンまで……。ハハッ、俺は夢でも見てるのか?」


 何やコイツ、ずっと一人で喋っとるやん。頭イカれたか?

 まぁええわ。ラヴァンの餌が増えただけや。ゆーてもこの芋虫すらも食いきれんのやろうけど……。


(ラヴァン、人間コイツも食ってええよ)


「ギルルゥウ!」


 え? なんで嫌がるんよ……芋虫の体液まみれで汚いからか?

 せやから、そない好き嫌いしてたら……


「ま、待ってくれ! あのっ……言葉は通じるか? 高ランクの魔物なら俺の言っている事も分かるんじゃねぇか!?」


 まぁ分かるけども。せやかて生きて返すと後々めんどくさいことにもなりそうやろ。人間なんてもんはすぐ脅威を排除したがるからな。


「わ、分かるんだな! いや、何も言わなくて良い! その反応を見ていれば分かるんだ。もし俺を見逃してくれるなら、マジックバッグごと俺の持っているモン全部くれてやる! この中には今まで長年ダンジョンで集めてきたアイテムが入ってる! それに、このマジックバッグ自体もかなりの代物だぞ! ど、どうだ?」


 男はそうやってマジックバッグって言われてる鞄から装備品を出して見せてきた。

 確かにコイツが言う通り、その変な袋は今後めちゃくちゃ使えそうや。いろんなモンが次々に出てきよる。

 ワイのゴーレム君鎧に合いそうな金属製のグローブやブーツ、それに真っ赤な刺繍の入ったマントも……!?

 カ、カッコエエやないか……。


 よっしゃ! その取引乗ったわ!

 美味くもなさそうなおっさん食うより、アイテムいっぱい貰った方が圧倒的に得やしな。


 放っておいて面倒なことになる? そんなもん後々考えればええんや。

 それにワイとラヴァンは一箇所に留まるようなこともせーへんから、特別害になるような事もないやろ。


 そう思ってゆっくりと頷くと、男はマジックバッグを取り外しこちらに向かって投げてくる。地面に落ちたマジックバッグを拾い上げ中身を確認すると、中に何が入っているかも自然と理解できた。

 これで譲渡されたってことやろか?

 ってか、殺して奪っても良かったんちゃうんか?


「や、約束だからな? 俺を見逃してくれよ?」


 思ってたことが雰囲気に出てしまっていたのか、後退りしながらへっぴり腰で両手を前に必死に懇願する男を見ると、どうもワイ等は信用されてへんようにも感じる。

 いやいや、ワイは約束を守るナイスガイやで!? 一度決めた事は曲げへんよ!


 もう一度ゆっくりと頷くと、男は急に振り向き走って逃げていった。あっちの方角に街でもあるんやろか? まぁそんなことはどうでもええわ。

 これからワイにはクソデカ芋虫をラヴァンが食えるくらいの大きさにカットせなあかん大仕事が待っとるんや。


 その前にマジックバッグって鞄に入ってるアイテム装備してっと……

 おぉ! やっぱりワイの睨んでた通りや! 全身揃えると相当に重厚感があってカッコエエな!

 顔だけは隠せてないから頭蓋骨丸見えやけど……

 これ、傍目に見たらどないな感じに見えとるんやろか? きっとダンディズム漂う雰囲気が溢れ出しとるんやろなっ!


 さてと、んじゃさっそくこの芋虫調理しにかかろかなー。

 ん? その後の予定? 

 ……せやな、まぁ風にでも聞いてくれ!


(決まったで! これは背中で語るカッコエエおっちゃんに近付いていけとるやろ!)


「ギュェェ……」


 あっ、ラヴァンに聞かれてしもてたわぁ……。

 まぁええか! ラヴァンも一緒に、気ままに楽しんでいこうや!

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