第170話 平穏な時間
~阿吽視点~
ギガンテックセンティピードを召喚してからおよそ1カ月が経過した。
これまでの期間は順調そのものだ。プレンヌヴェルトダンジョンの増改築にはバルバルも加わり、夢中になってダンジョンの仕組みや魔物の配置などを行ってもらっている。
バルバルは賢い。出会った時からそうだったが、少ない情報の中から正確な状況を読み取り、最善の選択肢を即座に選び決断することができていた。
ただ最近は“賢い”というレベルで収まらないようになってきている。街の政治では日々上がってくる様々な問題に対して、部下に的確な指示を出し解決をしていく。言い及ぶべきは、これが街の責任者になってから1年も経っていないというところだ。
幻影城を制作しだしてから趣味となったダンジョンの研究や増改築もイルスに構造や仕組みを学び、それをバルバルなりに嚙み砕いて理解、考察を発展させることができている。
自分の保身のために言うわけではないが、ダンジョン運営はそこまで簡単なことではない。
なるべく多くのダンジョンポイントを稼ぎ出すために冒険者達が自然とダンジョンに入りたくなるような魅力を適度に出しつつ、突発的な事故や死亡率を調整。中層階以降ではリスクとリターンの割合の計算もしていく必要がある。
俺の場合は勘でやってたり、適当に配置したり、ノリで造っちゃったフロアとかもあるが……。
まぁ要するに、色んなことを考えながら様々なバランスを調整する必要があるってことだ。
バルバルはこれらを全て同時に考え、爆速で並列処理している。近くで見ていて到底人間業とは思えないレベル。自然と鳥肌が立つほどだ。
にも関わらず、そのニコニコとした表情からはまだまだ余裕が感じられる。
本人曰く、同時に複数の事を考え処理することにそこまで疲労しなくなったのは、【高速演算】とか【並列処理】スキルを得てからだとのこと。
もう、プレンヌヴェルトはバルバルとイルスに任せておけば問題ないだろう。それはそれでちょっと寂しい気持ちもあるが、それ以上に頼もしいと感じているのは紛れもない事実だ。
「んじゃ、後は任せたぞー。俺はキヌと卵を見てくる」
「あ、もうそんな時間ですか? 楽しいことをしていると時間が過ぎるのが速いですね!」
「キヌはあれから毎日卵を温めているでござるか?」
「あぁ。最近はクランメンバー達が協力してくれてるからキヌの負担も減ってはいるんだけどな」
「最初の頃はずっと眠らずに卵を温め続けてましたからね……」
「んだな……。その気持ちは嬉しいし共感できるんだけど……あん時はさすがに疲労がたまり過ぎてたからな。みんなで協力して育てようって順番決めてからはキヌも納得して他のメンバーに任せるようになってくれたよ」
「それならば少しは安心できるでござるな」
「んだな! っし、んじゃ行ってくる」
そう言って迷宮間転移を行い幻影城第五階層へと移動。
すると、獣化して卵を温めていたキヌがこちらに気付き人型へと戻っていく。
「おかえり、阿吽」
「おう、ただいま! 卵はどうだ?」
「んー。よく分かんない。鑑定してみて」
「おう! ……っと、うん。確かに変化は見られないな。でも卵のサイズは召還した時と比べてめちゃくちゃデカくなってるんだよなー」
この1カ月、毎日卵を鑑定し続けているが、分かる情報は変わっていない。
ただ、卵のサイズに関しては、最初俺の頭ほどだったものが、今では俺の身長くらいに大きくなっている。
「マジでどんな魔物が出てくるんだ?」
「それは、生まれてからのお楽しみ。ただ、どんな魔物でも最大限の愛情を注いであげたい」
「んだな! 産まれてくる魔物は家族だ。みんなで大事に育てよう」
「ん。阿吽良いパパになりそう」
いつもの事だが、キヌはなんの恥ずかしげもなく俺の事を褒めてくれる。
俺のやりたいことを自由にやらせてくれて、さも当然のことのように裏では俺の事をフォローしてくれるのも知っている。
そんなこともあってか、周囲は夫婦のように扱ってくれだしていた。まぁそれは当事者である俺達も同様なのだが……。
そして今回、ランダム召喚で俺とキヌの魔力から“魔物の卵”が召喚されたことで、結果的に事実婚のようにもなっている。ともなれば落ち着いている今のうちに結婚式でも開き、キヌを喜ばしてやりたいところだ。
(やるからにはド派手にいきたいけど、そうなると準備に相応の時間がかかりそうだし……せっかくなら無事に卵が
生まれてくる魔物も正真正銘【星覇】の家族でもあり、俺とキヌの子供のような存在なのだ。『愛されて生まれてきた』という事を実感させてやりたい。
うーん、嬉しい悩みだな! まぁ魔王が復活するまで時間はまだある。急ぐことは無いのだし、ゆっくりと考えることにしよう。
ずっと、この平穏な日々が続くことを願いながら。
――――しかしこの数日後、アルト王国内の情勢は大きく変化することになる。
魔族襲撃により中途半端に終わったスフィン7ヶ国協議会の補填のため、7ヶ国首脳会議がイブルディア帝国で執り行われている最中……。
ルザルクがアルト王国に居ないタイミングを狙って、王都アルラインにてフェルナンド王子が主導するクーデターが勃発するのだった。
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