第九章 王都クーデター編

第171話 ダチのために


――平和な日々が崩れるのは、いつも突然だ。


≪阿吽さん! 今どこにいますか!?≫


 幻影城の5階層でキヌとまったりしていると、バルバルから念話が入ってきた。


≪どうした? 今キヌと幻影城の5階層にいるけど?≫


≪今すぐ【黒の霹靂】全員でプレンヌヴェルト街の行政区にある私の執務室に来てください! 一大事です!≫


≪バルバル、落ち着け。一体何があったんだ?≫


≪実はまだ詳しくは分かっていないんですが……。でももし情報が本当で、対応が遅れるとこの国がひっくり返るような事案なんです! 皆さんが来るまでにこっちで情報を集めておくのでとにかく来てください!≫


≪分かった。早急に集まるように伝えとく。多分1時間後には行けれるはずだ≫


≪ありがとうございます! 私もスパルズさんやステッドリウス伯爵に通話用魔導具で情報共有ができるようにお願いしておきますね! それでは1時間後に!≫


 バルバルの焦りようから察するに、相当ヤバい事が起きているのは分かる。

 それにレクリアのスパルズやステッドリウス伯爵とも情報共有するって事は、俺達だけでは対処しきれないほどの事案なのだろう。

 あの二人にはまだ俺がダンジョンマスターだということは伝えてはいない。信用はしているが、どんな反応をされるかも分からないし、今はまだ隠しておいた方が良いだろう。その辺を踏まえて考えながら喋らなきゃいけないのは正直めんどくさいが……まぁ仕方ない。

 すぐに念話でパーティーメンバーにそれらのことを伝え、キヌと共に一旦プレンヌヴェルトのコアルームへと転移する。それから10分もすると他の3人もコアルームに転移してきた。とりあえず急いでバルバルの執務室がある行政区まで行くとしよう。



◇  ◇  ◇  ◇


~プレンヌヴェルト街行政区 執務室~


「おまたせ、俺達が最後か?」


「はい。ではすぐに会議を始めましょう。スパルズさんとステッドリウス伯爵は通話型魔導具で繋がっています」


『おう! こっちにも情報は入ってきてる……が、この場の仕切りはバルバルに任せた方が良さそうだな』


『そうですね。我々の持っている情報も事前に渡してありますから、バルバル氏にお任せいたしましょう。それにその方が【黒の霹靂】との連携もスムーズでしょうしね』


 スパルズがサラッと言っていたが、先日バルバルはプレンヌヴェルト街の発展とその功績を認められ、爵位が子爵へと上がった。だが、今はそれどころではなさそうな雰囲気が二人の声色からも伝わってきている。

 俺からもバルバルに目配せをすると軽く頷きながらまとめた情報の説明をしだした。


「わかりました。では私から現在分かっている情報を纏めて報告させていただきます。まず、にわかには信じられませんが……昨日、王都アルラインでクーデターが起きました。首謀者はフェルナンド第一王子とその派閥の貴族たちです」


「……それ、マジなのか?」


「そうですね。今朝早く王都ギルドから緊急情報として各支部のギルドに救援要請がきました」


『レクリアにも同様の内容で救援要請が来たな。それに、その情報が確かなら……王都はもう敵方の手に落ちていることになる』


「……ルザルクは、今イブルディアの帝都に行ってるんだったよな?」


「そうですね。ルザルク殿下の留守を狙ってクーデターを起こしたのでしょう。それまでに水面下でかなりの準備をしていたようですが……」


「ルザルクはこの情報を知っているのか?」


「いえ、まだ知らないと思います。なにせ、つい先日までイブルディアとは冷戦状態でしたし、これから各国間の連絡方法の確立をしていくという流れでしたので……現在はまだ即時連絡できる手段がありません」


「なら俺からルザルクには伝えておく。実はイブルディア侵攻の時にルザルクから連絡用の魔導具を渡されているからな。それなら使えるはずだ」


『おいおい! 阿吽、お前そんなすげぇもん渡されてたのか!? 普通殿下とは簡単に連絡なんか取れないんだぞ!?』


「まぁ、ダチだからな! それで、現状のアルラインはどうなってる? ある程度情報はあるんだろ?」


「そうですね。正確な情報ではありませんが、王都のギルドの職員が通信用魔導具を持って隠れつつ連絡をくれています。そのおかげでだいぶ情報は集まってきました。これまでに分かっている事を簡単にまとめると、王都アルラインは完全にフェルナンド派の軍隊に抑えられ、王城も占拠されています。国王や王族の安否は不明。正規兵も完全に不意を突かれ指揮系統もままならず再編成もされる見込みは低いです」


「ぐちゃぐちゃだな……。ってか、たった一日でクーデターを成功させるなんて一体どれだけの準備をしてたんだ? それにルザルクにバレないようにそれを進めるって……第一王子のフェルナンドは無能じゃなかったのか?」


「そう言う事になりますね……。腐っても王族ですし、かなり高い教育は受けていたはずです。それにルザルク殿下と同家系と考えれば知能の高さは察して余りあります」


『だな。ただ、ここまで派手にやるなんて誰も想像していなかったし、フェルナンド派の貴族が第一王子とまだ懇意にしていたのも知らなかった』


『そうですね。先の序列戦以降、フェルナンド派の貴族は軒並み力を失っていました。私兵を集めるにもそれなりの私財が必要なはず……この数カ月でどうやってこの状況を作り上げたのか想像もつきませんね』


「すみません、話を戻します。とにかく現在のアルラインは、イブルディア侵攻の際に受けた打撃で復興途中という事や深夜帯での襲撃というもあり、まともな抵抗もできず陥落したようです。そして、現状市民は闘技場に集められ半ば監禁されているような状態。つまり、完全にアルラインはフェルナンド派が占領していると言っても過言ではありません」


 だんだん状況は分かってきたな。というか想像以上にこれはヤバい状況かもしれん。一刻も早く動く必要があるってことだろうし、何がどうなっても俺達が王都に行くというのは確定事項だろう。

 となれば、細かい情報はバルバルからもらいつつ、俺達はアルラインに急いだ方が良さそうだ。


「んなら、俺達【黒の霹靂】はすぐに王都へ向かう。それとルザルクへの連絡もしておくよ」


「はい。では阿吽さん達への連絡は私の持っている魔導具で取らせていただきますね」


『俺達も戦力をかき集めておく。……ここから先は、内戦待ったなしの状況だしな』


「おう。んじゃ行ってくる!」


 バルバルとの連絡も念話で行えるが、スパルズやステッドリウス伯爵の手前、上手くごまかしてくれたな。


 まだまだ情報は少ないし様々な懸念事項もある。それに、正直国のために俺達が動く義理はそこまでない。

 だが、俺達は自分たちにできる事を全力でやろう。ルザルクダチのために。

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