第172話 光芒一閃
王都アルラインでクーデターが起きた。
現状、俺達が早急にやらなければならないことは2つ。
ひとつは王都まで出来るだけ早く移動すること。
俺達の場合、プレンヌヴェルトからアルラインへ移動する最速はアルラインダンジョンに転移し、そこから王都へと移動するという方法だ。正直この方法であれば、ものの十分で王都まで行くことができる。
だが、この方法には大きな問題点がある。到着までの時間が
さすがにそれだけで俺がダンジョンマスターであるという事実に気付かれないとは思うが、何らかの秘密があるのではないかと勘繰る輩が出てくる可能性は大いにある。今後何かしらの手段でカモフラージュをすることは考えているのだが、今の時点で変に詮索されるのは避けたい。
『急を要するのに最速で移動できない』というのは色々と思うところはあるのだが、アルラインの状況が膠着化している今は、バレるリスクを取るよりも、わざと目立つようにドレイクに乗って飛んで行くのが正解だろう。
「ってことで、とりあえずドレイクは竜化して俺達を乗せて飛んでくれ。移動している間に俺はルザルクと念話で情報共有を行っておく」
「うっす! 最高速度で移動すれば良いっすよね?」
「そうだな。ちなみに、今のドレイクだとどれくらいの時間でアルラインまで到着しそうだ?」
「恐らく2~3時間程度ってトコっす」
「マジか! 思ってたより速いな!」
「序列戦の記念式典の時と比べたら進化もしてますし、ステータスも上がってるっすからね!」
「よし、あとは向こうに着いてからだが、諜報はネルフィーに任せる。出来るだけ情報を集めて念話で共有してくれ」
「任された。諜報は私の得意分野だからな」
「とりあえず今決められるのはこれくらいか。あとは出たとこ勝負って感じだな……。んじゃルザルクと連絡を取ってみる。その間何かあったら対応はキヌとシンクに任せる」
「ん、わかった」 「了解いたしました」
竜化したドレイクに乗りながらみんなに指示を出し、脳内ではルザルクへの報告内容を纏める。
スフィン7ヶ国協議会の開催前、俺とルザルクや禅、王国騎士団の団長となったレジェンダとも『主従契約』を交わしている。禅とは魔族襲撃が解決したタイミングで主従契約を解除しているが、他の二人はそれを望まなかった。
さすがに一国の次期国王を“仮に”とはいえ
今となってはルザルクのその判断は正しかったと言わざるを得ないんだが……。
現在ルザルクはスフィン7ヶ国協議会の補填のために、イブルディア帝国で各国の首脳陣と話し合いをしているところだ。当然レジェンダもルザルクに同行している。
その首脳会議の開催日程が今夜までとなっていることを考えれば、今の時間は会議を行っている最中であることも容易に想像がつく。
となればクーデターの事を伝える事で、各国の首脳陣に“念話”という特殊な連絡方法を有しているという事がバレてしまう可能性は少なからずある。なにせルザルクの周りにいるのは各国のトップであり、“切れ者”の集まりなのだから。ただ、今はそんな事を言っていられない……。
≪ルザルク、聞こえるか?≫
≪阿吽!? ごめん、いまちょっと……≫
≪すまん。会議中って事は分かるが、緊急事態だ。とりあえず周囲に動揺は見せず、早急に時間を作ってくれ≫
≪……わかった。3分待って≫
今の会話で緊急性は伝わっただろう。
ってか、各国が集まる首脳会議の中3分で時間を作る事ができるってことは今回の会議もルザルクが会話の中心になっているということ。さすがルザルクってとこだな。
≪阿吽、お待たせ。20分の休憩時間を作ってきた≫
≪今は周囲に誰も居ないか?≫
≪レジェンダだけだね。今なら話せるよ。というか緊急事態って何があったの?≫
≪落ち着いて聞いてくれ。実は、王都アルラインでフェルナンド第一王子が主導するクーデターが起きた。既に王都は完全に制圧されているらしい≫
≪っ!? 陛下は……≫
≪それも含めて情報があまりないんだ。今俺達も王都に向かってるから新しい情報が分かり次第共有する≫
≪わかった……。僕もこっちを早急に切り上げてアルラインに戻るよ≫
≪無理はすんなよ。俺達でできる限りのことはすっから≫
≪やっぱり阿吽は優しいね。でも、これでもアルト王国の次期国王なんだ。僕は僕なりにやれるだけの事はやってみせる≫
そういって念話は途切れた。アイツのことだ……無理をしてでも会議を早めにまとめ上げ、どんな手段を使っても戻ってくる気なんだろう。
――ゴロゴロゴロ……
遠くから聞こえてきた音に気付き視線を前方に移すと、曇天の隙間からピカピカと光が漏れている。
それは、これから先の未来を暗示するかのような雲行きにも思える。
ポツリポツリと降り出した雨を肌に感じつつ、気を引き締める。
ここから向かう先は……戦場だ。
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