第120話 匪賊
スフィン7ヶ国協議会の開催まで残りおよそ1カ月。ルザルク達との話し合いの結果、開催場所である帝都イブランドへ向けて出発するまで準備期間として2週間必要という事になったのだが、そうなると移動にかけられる期間が2週間しかない。
これは“陸路”で向かった場合は確実に間に合わない計算になる。
では、なぜそんな予定にしているのか……皆が疑問に思うだろう。
まぁ結果から言うと、今回は“空路”を使うという事になったのだ。戦争で帝国軍が使用していた魔導飛空戦艇は大半が修復不可能なレベルで破壊されていたのだが、数隻は修復が可能であった。しかも捕虜の中には整備士も多くおり、墜落した8隻の部品をかき集め、1隻は安全に飛行できる状態になっているらしい。
もともと協議会中の安全性を確保する必要があるため、協議会に関わる給仕係などの裏方をアルト王国の人員で補うことにしたのだが、100人規模で数週間かけて陸路を進むのは移動時間や食料問題、安全性など色々な問題が発生した。
だが、飛空艇であれば150名は乗船可能であり、移動時間も約9時間で済むことからこれらの問題を一気に解決できる。
ただし飛空艇を動かすための課題が1つあった。エネルギー不足である。
飛空艇を飛ばすには大量のエネルギーが必要。そのエネルギーは魔晶石という鉱石を使用しているのだが、これに補充する魔力が通常の方法では間に合わなさそうだという。
ここで白羽の矢が立ったのが俺達である。俺や
その間戦闘は行えないだろうが、この3人はそこまで大量の魔力を消費する事は少ないため2週間くらいならまぁ問題は無いだろう。
キヌ達にも先ほど念話で出発日を伝えておいた。
その時の報告では、シンクとドレイクに関してはもう60レベルに到達し、シンクは無事進化して【夜叉姫】という鬼人種に進化したらしい。進化の際に気絶してしまったようだが、危険な事は無かったと言っていた。
ドレイクも60レベルになり、進化はしなかったもののステータスは大きく向上したと喜んでいた。
キヌとネルフィーは現在59レベルだが、出発前に余裕をもって目標である60レベルに到達できそうだ。
ステータスはみんなが帰ってきてからのお楽しみだな!
あ、そういえばシンクから気になる報告が一つあった。
ゾンビ先輩が1階層の属性ゴーレムの背中に乗って暴れ回っていたと。そして、周りのゴーレム達をなぎ倒しながらダンジョンの外に向かって消えていったそうだ。
まぁ、先輩の事だし、きっと深い意味があるに違いない。だが、沈黙の遺跡で先輩に会えなくなったのはちょっと寂しい……。
その後、キヌ達との念話を終えるとバルバルがコアルームへと入ってきた。
「あ、阿吽さんちょうどいい所に。相談があるんですがいいですか?」
「おー、バルバル! 久しぶりだな! ってかちょっと顔色悪そうだけど大丈夫か?」
「めちゃくちゃ忙しくてヤバいんですよ! 多忙すぎて自慢の毛並みもバサバサです……幸いルザルク殿下が送ってくれた文官の方たちが優秀なので、最近はだいぶマシになってきましたけど」
「マジでスマン……街の開発関係とか全部任せてるもんな。お陰で俺たちは武力面の強化ができてるから本当にありがたいよ。バルバルが居なかったらここまで順調に事が運ばなかったと思う」
「いやまぁ、私も好きでやってる事なんで良いんですけどね? あ、それよりも、冒険者関係の事で相談があるんです」
「何かトラブルがあったのか?」
「そうですね。あったというか現在調査中なんですが、最近プレンヌヴェルトダンジョンで行方不明者や死亡する新人や中堅の冒険者が増えてるんです」
「そうなのか? 一応低層は冒険者が死亡しないように罠も設置していないし、魔物達にも極力殺さないように命令してあるんだが……」
「ですよね。今までプレンヌヴェルトダンジョンでの死亡被害は他のダンジョンに比べると極めて軽微なものでした。でも、ここ1カ月の死亡率はちょっと異常だったんです。
それで、調べてみたら怪しいお金の動きがある冒険者パーティ―を見つけました」
「それって、ダンジョン内で何かしらの盗賊行為をしている奴らがいるってことか?」
「可能性としてはそれが一番高いですね。騙すなり不意打ちするなりして武具やアイテムを奪い、それを売り払ってお金にしていると考えるのが妥当でしょう。また憶測通りであれば、その証拠が残らないようにダンジョン内で殺害までしていることになります」
ダンジョンであれば死亡した者は吸収される。
一応、街部分である1階層は怪しまれないようにその機能を外してあるが、2階層以降は全て他のダンジョン同様、死体はダンジョンに吸収されるようになっている。これを悪用するとダンジョン内での犯行は事故に見せかける事が容易い。
この手の奴らに対しての心象は、俺自身が騙されて殺された過去があるため、聞いただけでも相当ムカつく。『騙される方が悪い』という犯人側の意見はあるだろうが、そもそも騙す奴が悪いに決まっているのだ。
だが、その犯人を同じように殺すってのも何か違う気がする。
相応の報いは受けてもらうがな……。
「ちょっと俺の方でも調べてみる。その怪しい動きをしている冒険者パーティーの情報を教えてくれ」
「はい、そう言われると思って情報は纏めてきました。これがその資料なので目を通しておいてください」
「さすがバルバルだ、仕事が早いな! んじゃ、何か分かったら念話で連絡するよ」
「はい、よろしくお願い致します」
その後、プレンヌヴェルトダンジョンのコアルームへと転移し、イルスとともに情報を共有した。
容疑がかけられている冒険者パーティーは【紅の噴煙】、Aランクの戦士・剣士・シーフ・魔術師の男性4人組パーティーである。
そして、プレンヌヴェルトに来たのは、死亡率が上がり始めた時期と重なる。しかもダンジョンに入った後は、高確率で青ランクの武具を売却しているようだ。決めてかかるのは悪いが、さすがにこれはかなり怪しい……
「イルス、こいつらが次にダンジョンに入ってきた時ってすぐに分かるか?」
「分かるでござるよ。というか現在8階層に居るでござる」
「マジか、ちょっと地図と映像出してくれ」
目の前に映る映像には赤、青、黄色のマークが点在している大小の2つの地図と、むさ苦しい4人のおっさんが映っていた。
この地図上にある赤色の点はダンジョン内のモンスター、青色は冒険者、黄色は特定の人物を示しており、現在この黄色は【紅の噴煙】に照準を合わせてあるようだ。このあたりの操作に関しては俺には難しすぎてできないが、コアたちであればお手の物らしい。
【紅の噴煙】の3人は通路の2箇所に袋小路がある十字路から動かず、残りの1人は偵察のために少し離れた位置に陣取っているようだ。
この動きはどうみても探索している様子ではなく、獲物を待ち構えているようにしか見えない。
「こりゃ、確定かなー」
「他の冒険者とは明らかに違う動きをしているでござるな」
「あとは現場を押さえた時にどうやって対応するかだが……あ、そうだ! 良いこと思いついた! ちょっとヤオウに連絡するから、その間にバルバルに念話で状況伝えておいてくれ」
「分かったでござる」
Sランクの魔物であるヤオウは30階層のボスとして召還したのは良いものの、そこまで到達する冒険者はまだおらず、毎日クエレブレと話をしながら最近ではチェスを嗜んでいるらしい。
そろそろ戦闘もしたいだろうし、Aランクパーティーくらいなら手加減しながらでも余裕で勝てそうだ。しかも今回の場合は軽くトラウマを植え付けるように恐怖心を煽る必要がある。そのへんもヤオウであれば得意分野だろう。
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