第119話 第二回非公式会合⑤


 話が一段落付いたタイミングで念話にて【星覇】のメンバーには今回の話の流れは説明をしておいた。

 その後、ルザルク、レジェンダ、禅、ルナ皇女と主従契約を行い、全員でフォレノワールダンジョンへと転移する。


「おかえりなさいませ、阿吽様」


 コアルームへと転移すると15名の執事服やメイド服を着たエルフ達がずらりと整列し出迎えてくれた。

 いや、頼んでないぞ? ルザルク達へのパフォーマンスか?


「お申しつけ通り、2階層のフロアを会議室に改装してあります」


「お、おう」


「会場準備が整いましたらお呼びいたしますので、しばらくこちらでお待ちください」


「ありがとう……」


 え? なんだ? 急にどうした?

 今まで執事やメイドとして雇ってはいたし給金も払っていたが……あ、アルラインのクランハウス使ってなかったけど、もしかしてずっとこういう練習していたのか?

 確か以前、シンクがエルフたちに研修をするって言っていた気がする……


「おぉ、帰ったのじゃな阿吽」


「アルス、このエルフたちは急にどうしたんだ?」


「急ではないぞ? クエレブレとの特訓の時もそうしておったであろう。……まさか気付いておらんかったか?」


「え? あー、ずっと魔法障壁の事ばっかり考えてたから……マジか……」


「何というか、阿吽のマイペースは変わらぬのぉ……まぁ良い。エルフ達も阿吽のサポートがしたいと気合いを入れておったのじゃ。好きにさせてやると良いのではないか?」


「まぁ好きでやってる事なら……あ、そういえば2階を改装してくれたって?」


「うむ、完璧にしておいたのじゃ。ゆっくりと話し合いをするとよい」


「あぁ、ありがとな」


「阿吽様、お部屋の準備が整いましたので、ご移動をお願いいたします。後程お飲み物をご用意いたします」


「わかった。んじゃ、みんな移動しようか」


 コアルームの景色やエルフ達の対応に唖然としていたルザルク達を連れ、2階層へと転移する。

 そこは大きなホールに円卓と豪華な椅子が並べられており、王城にも劣らないような豪華な造りである。四方の壁と天井には大きな窓が取り付けられており、外からの光が部屋の中に差し込んでいた。多分、外の時間が分かるように時間ごとに夕方や夜なども再現されている事だろう。


 これから俺は、俺達にとって一番の秘密を話そうとしている。これくらいインパクトを与えておいた方が衝撃も分散するだろう。そういう意味では、さすがアルスというべきだな。俺の考えている事はバッチリ伝わっていたようだ。

 ってか、これダンジョンポイントどんだけ使ったんだよ……まぁいいけどさ。


「よし、んならここからはいつも通りルザルクに進行役を任せていいか?」


「あ、あぁ。というか、色々と衝撃的な事が多すぎて、未だに頭の整理がついていないんだけど……」


「んー、なら要点だけ俺から説明するか。それと話せていなかったもう一つの秘密についても伝えておくよ」


「阿吽には何か秘密があるとは思っていたが、ここまでの事とは思っていなかったよ……というかもっと衝撃的な秘密があるって事なんだね?」


「まぁ、そうだな。多分理解できる範疇はんちゅうを超えると思うから、順を追って説明していく。相当長い話になると思うし、飲み物を飲みながら話そうか。あと、質問は最後に纏めてくれると助かる」


 そして、俺が魔剣フラムをダンジョンで得たところから順を追って説明していった。

 【赤銀の月】のマーダスに殺されてゾンビという魔物になった事、進化しながらこのフォレノワールダンジョンを攻略しダンジョンマスターになった事、バルバルとの出会いやスタンピードの真実、キヌやシンクとの出会い、ドレイクがブライドによって暴走させられていたこと、奴隷商襲撃の裏側とネルフィーや奴隷として捕らえられていた亜人達との出会い、そのうちのエルフ達が現在給仕してくれている執事やメイドたちである事、フォレノワールだけでなく、プレンヌヴェルトやアルラインのダンジョンも攻略しダンジョンマスターとなっている事……。


 ルザルク・レジェンダ・禅・ルナ皇女は、その都度驚愕しながらも黙って話を聞いてくれていた。


「一気に話しちまったけど、こんなところだな。まぁ俺達の一番の秘密ってのは、俺とキヌ、シンクの3人が元は魔物だって事だ。もちろん理性も知性もあるし、ほとんど人間や亜人と変わらねぇ。けどさ、これを公にするわけにもいかねぇだろ?」


「その通りだね……でも阿吽に関してはそもそも人間だったわけだし、その時の記憶も知識もある。

 個人的には今更魔物として見る方が難しいくらいだよ。それに阿吽が何者であったとしても僕の友達って事には変わりはないからね」


「そうですよ。私は阿吽やキヌさんのお陰で今の自分になれたんです。魔物だとか人種だとか、そんな事は関係ありません」


「ありがとな。二人ならそう言ってくれるって信じてた。

 まぁでも、正直不安ではあったんだ……。だって魔物だぜ? 基本的には知性や理性はないものだと思われているだろ? それに、そもそも討伐対象だしな」


「でも阿吽やシンクさんは、今は鬼人種なんですよね? それはもう亜人ということなのではないのですか?」


「まぁ多分そうなんだろうな。ってか、俺達も分からないことが多すぎるんだよ。種族の事に関してもそうだけど、そもそも俺は一回死んだはずなのにゾンビって魔物になったのかとか、何で俺はダンジョンコアを吸収できたのか、とかな」


「それで阿吽はお爺様のことについて調べていたのですね……」


「そうだな。爺ちゃんなら何か知ってるかもしれないって思ったし、自分の事を知りたいってのもある。そもそも俺は自分の出自もよく分かってねぇんだよ。両親の事なんか顔も知らねぇしな」


「一旦纏めようか。阿吽たちの秘密に関しては理解した。その上で、不利益を被らないように協力もする。今まで阿吽達はこの国のために、命を懸けてくれていたんだからね。信用も信頼もしているよ。

 そこまでは共通認識で良いかい?」


 周囲を見渡すとレジェンダやルナ皇女も頷いてくれている。ルナ皇女に関しては流石の胆力って感じだな。レジェンダはまだ困惑しているように見えるが、俺達の事は信用してくれていると言っていた。ルザルクの意見に逆らうはずもないし、安心して良いだろう。


「なら、今日は一旦ここまでにしよう。明日からはスフィン7ヶ国協議会の事についての話に戻ろうか」


 こうして新たに俺達の秘密を知る人物が4人増えた。でも話して良かったと思っている。友達ダチに対して隠し事をしていたのは心苦しいところもあったのだ。


 その翌日から数日かけてスフィン7ヶ国協議会の予定や提案する議題、魔族への対策などの大筋を決め、イブルディア帝国の帝都イブランドへは2週間後に出発するということとなった。

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