第118話 第二回非公式会合④


 ノーフェイスが去った後、しばらく場には沈黙が流れた。

 入念に【探知】スキルで部屋内を探るが、怪しげな気配は感じられない。


「あいつ何者なんだ?」


「ルナ皇女殿下、知っている事を教えて頂けませんか?」


「……先ほどは、勝手に話を進めてしまい申し訳ありませんでした。あの男に関して知っている事を全てお話させていただきます。

 あの仮面の男は帝国でノーフェイスと呼ばれており――――」


 ルナ皇女の話では、ノーフェイスは過去に貴族の暗殺や奴隷商の大量虐殺、帝国の宝物庫から大量の金品窃盗など数十件に及ぶ犯罪歴がありながら唯の一度も捕まった事はなく、素顔や年齢すらも知られていない。

 さらに活動期間から見ても長命種であるのか、複数人が同一人物を名乗っているのかも分かっておらず、不気味な仮面と神出鬼没さ、犯行目的の不明瞭さから『顔無ノーフェイス』という異名は帝国に於いて恐怖や不気味さの象徴となっているらしい。

 一部では英雄視するヤツ等もいるらしいが……


「んで、そのノーフェイスが何の目的でこの部屋に忍び込んでいたのかってのは、結局のところ分からず仕舞いってことか?」


「はい。しかし、誰も殺されずあの場面を切り抜ける事ができたのは運が良かったと考えます」


「うーん、まぁそうなんだろうけどな……何か納得いかねぇな」


「阿吽から見てあの男はどんなふうに映ったの?」


「いやまぁ、確かに強いぞ? 鑑定してみたけどレベルも俺よりかなり高かった。ただ、多分タイマンなら互角くらいだろ」


「鑑定……できたのですか!?」


「まぁ一部秘匿されていたが、種族もレベルもスキルもある程度は見る事ができた。ただ、俺のステータスも鑑定されてただろうけどな」


「私たちが助かったのは、阿吽さんのお陰でございますね……力の差が歴然であった場合、交渉もできずに全員殺されていたでしょう……」


 ノーフェイスか……一応覚えておこう。あの根暗野郎とはいずれ決着つけなきゃモヤモヤした気持ちが収まりそうにない。

 というかヤツのせいで話が大きく逸れちまったな……この場所が安全じゃないっていうことになっちまったし。安全な場所を別で確保するのにも時間がかかるだろう。


「んで、ここが安全じゃないっていうことになっちまったんだが、このまま話を続けるか?」


「……話している内容が内容だけに、このまま話を続けるのは得策とは言えません。しかし、ここ以上に安全な場所となるとなかなか確保するのに時間がかかってしまいます。今現在で言えば、この場は安全であるとは思いますが、今後は別の場所を用意しなければならなくなりましたね」


「ただ、スフィン7ヶ国協議会の出発までに作戦を決定しなければならない以上、そんな時間があるとも思えません」

 

 まぁ、仕方ないか。コイツ等になら俺の秘密を打ち明けても良いとは思っていた。

 というかルザルクと禅に関しては俺が普通ではない事も気付いていそうだ。この二人は俺も信用できるし、何よりも友達ダチだ。打ち明けるには今がちょうどいいタイミングだろう。


「絶対に話が漏れない場所はあるぞ」


「本当ですか!?」


「あぁ。ただ、これは俺の秘密をここにいるメンバーに話さなきゃいけない。もちろん信用はしているが、他言しないと誓って欲しい」


「やはり何か秘密があるんですね。私は絶対に他言しません。阿吽とは同志ですからね!」


「僕も他言しないと誓おう。阿吽はこの国を救ってくれた救世主であり、友達ですから」


「私も王国騎士団の名誉に懸けて」


「この場に居る方々とは一蓮托生。わたくしも命を懸けてその秘密を他言しないと誓います」


 そうだよな。ここに居る奴らは、自分の命を懸けて何かを成そうをしている奴らだ。

 俺も腹を括ろう。

 一呼吸置き、一度周囲を見渡してから口を開いた。


「まず、俺は2つの秘密を持っている。これは【星覇】のメンバーにしか明かしていないことだ、そのうち1つをこの場で打ち明ける」


 全員が真剣な眼差しを向けてきている。何か緊張するな……

 本来であれば荒唐無稽こうとうむけいに聞こえる事なんだろうが、このメンバーなら俺の言葉を信じるはずだ。


「俺は、王国内にある3つのダンジョンを管理・運営するダンジョンマスターだ」


「ダンジョン……マスター?」


「あぁ。ルザルクは、ダンジョンにはボスを制圧した後に入る事ができるコアルームがあるのは知っているだろう? ニャハル村近くのダンジョンでスタンピードの時にSランクパーティー【銀砂の風】がそのコアを破壊してスタンピードを止めたのが報告に上がっているはずだ」


「あぁ、それは知っている」


「俺はそのダンジョンコアをどういうわけか吸収する事ができる。そして、コアを吸収したダンジョンを管理運営するマスターになるってわけだ」


「ちょっと、にわかには信じられないけど……」


「それで……それと安全な場所と、どのような話のつながりが?」


「んー、まぁ簡単に説明すると、そのうちの1つのダンジョンは完全に入口を閉じていて、仲間以外は入る事ができないようにしてある。中に入るには、俺と『主従契約』という契約をしてそのダンジョンに転移するしかない」


「なるほど……」


「あと俺と契約するメリットは、それだけじゃない。

 念話が出来るようになるから離れている時にも連絡を取れるし、他者に気付かれず意思疎通をとることができるようにもなる。まぁ基本的にデメリットは無いと思ってくれていい」


「すみません、よろしいでしょうか?」


「おう、何でも聞いてくれ」


「その主従関係は永続的なものなのでしょうか?」


 まぁレジェンダの言いたい事は分かる。ルザルクは一国の王子だからな。

 この国の事やルザルクの立場を考えると主従契約を結ぶのはどうかってことだろう。


「いや、永続的じゃない。望めば契約を解除することも可能だ。ただ知った秘密に関しては、墓場まで持って行ってもらうことにはなる」


「僕は構いませんよ。この転移に関しては、今考えるだけでもいくつもの利点があります。これから敵地へと赴くことを考えれば、阿吽と契約しておくことが身の安全にもつながるでしょう」


「その通りだ。いわば転移ができる魔導具を手に入れたと思ってくれていい。まぁこのメンバーに関しては今回の一件が終わったら契約を解除しようとは思ってる」


「阿吽さんのもう一つの秘密は、これ以上の事なのですか?」


「あぁ、俺達の根幹にかかわる内容だ。だから、この場ではなく契約後にダンジョン内で話がしたい」


「わかりました。わたくしはそもそも協力をして頂いている身……それに命を懸けてアルト王国へと亡命しました。

 そして阿吽様はそんなわたくしを信用し、大切な秘密を打ち明けてくださいました。であれば、その契約お受けする以外に選択肢はございません」


「僕も阿吽を信用しているよ。契約も僕たちの不利になるようなことはなさそうだし、いつでも解除できるならしない理由はないよね」


「私はルザルク殿下の決定に従います」


「そうか。禅はどうだ? どこかに属するというのには抵抗があるとか、少しでも嫌だと思ったら断ってくれても良い」


「そうですね……私とも契約をしてください。ただ、今回の件が終わったら解除してもらうことになると思います」


「あぁ、それで構わない。禅はやりたい事が明確にあるって言ってたし、それでいいと思う」


 こうしてこの場に居る全員が了承し、契約を結ぶことが決まった。

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