第117話 第二回非公式会合③


 誰も居ないはずの壁際に向かって白鵺丸で斬りつけると、金属同士がぶつかる音が響いた。


「よく見破ったな。いや、一瞬気を抜いた俺のミスか……」


 今まで何もなかった場所には、深々とフードを被り不気味な仮面を付けた人物が、白鵺丸を剣で受け止めていた。体格や声から性別は男だと分かる。

 ほぼ完全に気配や姿を消していただけでなく、俺の一撃を受け止めることができる程の実力……


「テメェは誰だ?」


「帝国では結構有名なのだがな」


「帝国? 有名? いや、変な仮面付けてて有名もクソもねぇだろ」


 すると、ルナ皇女が震えているのが横目で分かった。


「ノー……フェイス……」


「あ? ノーフェイス??」


 確かにルナ皇女の様子を見れば、この仮面男が自分で言うように帝国で有名なことが分かる。しかも悪い方に……


「な、なぜあなたがここに居るのですか!? 目的を言いなさい!」


「別に、目的なんかない。強いて言えば、面白い事になりそうだと思っただけだ」


「この部屋はそんな簡単に入る事なんかできないはず……いやそれよりも、いつから聞いていたんだ?」


 ルザルクの言う通り、この部屋には特殊な結界が魔道具によって張ってある。事前に忍び込むこともできないだろうし、ここで非公式会合が行われる情報も俺たち以外知らないはず。

 それに“ノーフェイス”って何者なんだ? 本名ということは、さすがにないだろう。

 分からないことが多すぎる……


 一旦、こいつが何者なのかは置いておこう。後でルナ皇女に聞けば詳しい事は分かる。今はコイツを対処するのが先決だな。


「俺がここに入ってきたのはルナ皇女と同時だ。だから、ここでの話はすべて聞いている」


「やけに素直に答えるじゃねぇか」


「まぁ、面白い事を聞かせてくれた礼だ。それに、教えたほうがもっと面白くなりそうだろ?」


「余裕だな。ここから逃げられると思ってんのか?」


「クックック……ここから逃げられるかどうか? そんなこと造作もない。

お前等の中には非戦闘員もいる。しかもそれは要人だ。守りながら戦えるか?」


「それこそ余裕だろ。試してみるか?」


 さっきの一撃を防いだのを考えると、潜入や隠密行動だけじゃなく戦闘もイケるんだろう。

 話を引き伸ばしている間に、【鑑定】が完了した。


<ステータス>

【名前】隠蔽されています

【種族】ハイダークエルフ

【状態】

【レベル】72

【属性】闇・風

【HP(体力)】6200/6200

【MP(魔力)】880/880

【STR(筋力)】110

【VIT(耐久)】60

【DEX(器用)】隠蔽されています

【INT(知力)】隠蔽されています

【AGI(敏捷)】隠蔽されています

【LUK(幸運)】5

【称号】顔無

    闇帝

    殺戮者

【スキル】

暗香阻影あんこうそえい:隠蔽されいています

風雲月露ふううんげつろ:隠蔽されいています

・風属性魔法(Lv.6)

・闇属性魔法(Lv.6)

・鑑定眼

・隠密

・認識阻害:周囲の対象から視覚・嗅覚・聴覚による自己の認識を阻害する。一度看破されると一定距離以上離れなければ再使用不可。

・探知

・空舞

・剣技(Lv.6)




 こいつ、思った以上にヤバいな……レベル72って俺よりもかなり高い。しかも【鑑定眼】のスキルをもってやがる。

 ということは俺が鑑定したように俺達の事も鑑定されていると考えたほうがいいだろう。

 魔法のレベルも高いとなると、タイマンで互角くらいか……大口を叩くだけの事はある。


「阿吽と言ったか? お前はなかなか興味深い男だな……」


「鑑定か。俺のステータス見たんなら……まぁ分かるだろ?」


 ……

 ……

 互いに無言で牽制し、少しの時間この空間を沈黙が支配する。

 それを破ったのはルナ皇女だった。


「ノーフェイス、わたくしはあなたと敵対するつもりはありません。あなたが今の帝国の利になるように動いているとは考えられないからです。

 ここに来た目的を言い、スフィン7ヶ国協議会で我々が不利とならないようにして頂ければ、この場での事は無かった事にさせていただきます」


「さっきも言っただろ? 目的なんか無い。

 ただ面白い話を聞いたから興味本位で調べていただけだ」


「どのような内容の話を?」


「たった5人で戦争をひっくり返したパーティーがいる、とな。どんなヤツらなのか興味を持った。

 まぁそのうちの一人が阿吽、お前だってことが分かったのはこの場でだがな……」


「喧嘩なら買ってやるぞ。それとも売ってやろうか?」


「それはまた今度、ゆっくりやろうか。今は俺が“利用されたこと”に対して無性に腹が立っている」


「それはどういうことでしょうか?」


「お前らの話の中で、魔族や皇帝がコソコソ画策していると話してただろう。しかも、俺が殺した宰相をダシに使っている。これは遠回しに俺を利用したって事だ。俺は誰かに利用されたり、縛られるのが一番嫌いなんだよ」


「私たちとは敵対する気はない、と?」


「今はな……お前らがやろうとしている事は、面白い事になりそうだ」


 この話の流れから言って、ルナ皇女はどうしてもこの男と敵対したくないという事が伝わってくる。

 俺としても、敵対しないなら別にどうこうしようとは思わない。

 だが、それはルザルクが決める事だろう。


「ルザルク、どうするか決めてくれ」


「……そうだね。僕としては君がどういう存在なのか、それは気になるけど……今優先すべきは僕たちの計画が外部に漏れない事だ」


「俺が情報を漏らすと?」


「あぁ、信用できない」


「舐めるな。俺が誰かの下に付くようことは、死んでもあり得ない。それに約束は守るたちだ」


「ルザルク殿下! ここはわたくしに免じて無かったことにして頂けませんでしょうか。この男については私から知っている事を後程お伝えさせて頂きます」


「…………仕方がないですね、わかりました」


「なら、俺は好きにさせてもらう。阿吽、お前との喧嘩は、またいずれな……」


 そう言うとノーフェイスは自分の影に溶け込んでいき、その姿を完全に消した。

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