第116話 第二回非公式会合②

 

「じゃあ、次はアルラインの復旧具合と捕虜の話かな。これはまぁ予定通りって感じで破壊された街の半分程度は復旧できているよ。移住しなかった者もほぼ全員が避難所である闘技場から自宅に戻る事ができている。空いた闘技場に関しては、捕虜となった帝国軍人の居住スペースになっているね」


「反乱の意思はなさそうなのか?」


「そうだね。軍の指揮になったジェフ・ベック大佐が上手くまとめてくれているお陰かな。ただ、捕虜の解放に関してはちょっと問題というか、予想していなかった事が起きてね……」


「ん? そうなのか? 確か半年を目処に帝国に送り返す感じだったよな。帝国の対応次第で早まるかもって前回の会合で言ってたけど」


「そうだね。ここからが今回早めに皆に集まってもらった理由なんだけど、帝国から書状が届いたんだ。皇帝名義でね。しかも内容が意図を計りかねるようなものなんだ……」


「どんな内容だったんだ?」


「重要な点は大きく分けて3つ。

 1つ目は停戦協定。敗戦を認め、賠償金を支払うから捕虜を返還してくれってこと。ただ、『この先、何年間の停戦』みたいな期間についての言及は一切記載されていないから、また急に宣戦布告をされて侵略行為に及ぶ可能性がある」


「これに関しては慎重に話を進める必要がありそうだな。少なくとも書状だけで取り決めていい内容じゃないだろ。それに色んな情報が捕虜から漏れる事は確定だろうし……」


「そうですわね。イブルディア皇帝とアルト国王が実際に会って条約を結ぶべき案件です。何かしらの罠と考えるのが妥当でしょう。ただ、魔族が指示してやっていることと考えても、かなりお粗末なものと言わざるを得ませんね」


「書状自体を魔族が監修して書いているなら、他の2つの要点もろくなモンじゃなさそうだな」


「その通りだね。2つ目は、皇帝はスフィン7ヶ国協議会を欠席し、代理の者を派遣するといった旨だ。理由としては、帝国の宰相が何者かに暗殺され、戦争で大将クラスが多数死亡、皇女は行方不明であり、帝国内の政治が滞っていることと、その何者かによる皇帝暗殺を警戒してとのこと。

 最後に3つ目、スフィン7ヶ国協議会の司会進行は主催の皇帝が不在となるため、代わりにアルト王国の代表者が担って欲しいということだね。これに関しては僕が出席するから僕が司会進行役を務める事になる」


「それはまた、めちゃくちゃな内容だな……そんなモンがまかり通るのか?」


「それができなくもないんだよ。僕は国王の代理として出席するしね。ただ、侵略をして敗戦した国となると他国からの印象は最悪になるだろうし、停戦条約に関してもこちらの言い分が全て通る事になる。

 それ自体は王国にとって都合が良いんだけど、罠の可能性を考えるとどう立ち回るべきかと思ってね……」


 そりゃそうだろうな。というかこんな見え見えの罠を仕掛けてくるものなのか? 魔族って思った以上にバカなのだろうか。もしくはすべてをひっくり返す策があるのか……


「とりあえず捕虜の件は後回しか? どちらにせよ協議会が終わってからにするんだろうし」


「そうだね。ソコに関しては置いとこう。

ここからの議題は、協議会には予定通り出席するならどんな作戦を立てるか、魔族の対応はどうするのかを考える必要がある」


 それに関して、俺は全く分からないんだよな……どうやって魔族と対峙するか、被害を最小限に抑えるためにはどうするのがいいのか。このへんを考える必要があるんだろうけど、向こうがどんな策を講じてくるかが分からない以上、出席者を守る事を優先せざるを得なくなる。


「あの……わたくしからよろしいでしょうか?」


「はい。どうぞ、遠慮は必要ありませんよ」


「スフィン7ヶ国協議会で達成すべき目標は、3つあると考えます」


「伺いましょう」


「1つ目はスフィン7ヶ国協議会の安全な開催です。

 魔族の目的が、人間や亜人の支配領域であるスフィン大陸を混乱させる事や国同士の戦争を起こし大量虐殺にあるのだとすれば、各国の要人が集まるこの協議会に襲撃するのが一番手っ取り早いです。

 それに今回の開催国はイブルディア帝国。罠を仕掛けるにも魔族にとっては好都合。アルト王国への侵攻を行った時期や書状を送ってきたタイミングも、今年の協議会に合わせた可能性すらあるのではないでしょうか」


「確かに……そう考えると色々と辻褄が合ってきますね。皇帝が不参加な理由も襲撃で命を落とさないようにするためと考えれば納得がいきます」


「はい。その上でわたくし達の達成目標としましては、魔族の打倒もしくは排除と皇帝の暗殺となります。

 魔族が皇帝を守ろうとしている事が明らかであるため、皇帝には何かしらの役割がまだ残されていると考えるのが妥当でしょう」


「なるほど、そうなるとイブルディア皇帝の暗殺の成功と、スフィン7ヶ国協議会での安全確保がこちらの最低勝利条件となるわけですね」


「はい。魔族がどう動くかは分かりかねますが、ほぼ確実に協議会の開催地へ襲撃が来るでしょう」


 確かに、各国の要人がこの協議会に出席するとなれば、その護衛も相当な手練れが随伴してくるはず。イブルディア帝国以外の6ヶ国の強者が集まる場で騒動を起こすには、直接魔族が出てくる必要はありそうだな。


「となれば、協議会中は皇帝の周囲が手薄になるはず。そこで、別部隊が城へと潜入し皇帝暗殺を行うのが最も成功率の高い作戦ではないでしょうか?」


「別動隊か……潜入となると人数は少数だな。誰がそっちに向かうか……」


「わたくしは、城の構造や皇族にしか教えられていない隠し通路などを把握しております」


「危険ですが、よろしいのですか?」


「皆さまが命を懸けているのです。わたくしも命を懸けて役割を全うするのは当然の事でございます」


 こうなると必然的に別動隊のメンバーは限られてくる。斥候や暗殺を得意とする人物……ネルフィー以上の適任は居ないだろう。


「うちのパーティーに斥候や暗殺が得意な仲間が居る。もちろん実力も確かだ」


「あ、確かにダークエルフのネルフィーさんなら適任だね」


 すると一瞬【探知】スキルにこのメンバー以外の誰かの気配が引っかかった……。

 会議の開始前にレジェンダが魔導具を発動しているのは確認しているし、この状況で隠れているというのは間違いなく敵だろう。魔族という可能性もある……。


「みんな、動くな…………、そこか……」


 集中して探知を発動させると、部屋の隅に違和感が生じる。

 俺は有無を言わさず白鵺丸を引き抜き、その違和感に向かって斬りつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る