第115話 第二回非公式会合①


~黄金の葡萄亭206号室 阿吽視点~


 アークキメラとタイマンを張った翌朝、俺は王都アルラインにある黄金の葡萄亭へと向かった。

 ルザルクが得た情報が気になる……会合を3日前倒さなければならないのはあまりこちらにとって良くない情報だったということなのだろう。


 色々と考え事をしながら206号室のドアを開けると、禅が座って待っていた。


「っと、禅も予定通り帰って来れたんだな。禅が一番乗りか?」


「はい。そろそろ時間ですし、ルザルク殿下たちも来る頃ではないでしょうか。

 そういえば、今回の帰郷ではあまり大獄様の行方を詳しく調べる事はできませんでした。街の噂では、数年前に武京国で見かけたという話は数人から聞くことが出来ましたが……」


「おー、マジか。それだけでも十分ありがたい情報だよ」


「将軍様であれば知っているとは思いますが、謁見している場では同席している人数が多く、どうしても阿吽の出自に関わる事を聞かれそうだったので聞けておりません。

 阿吽はスフィン7ヶ国協議会が終わったら武京に行くのですか?」


「んー、まだ決めてないけど、それも選択肢の一つだな。爺ちゃんに会って聞かなきゃいけないこともあるし、いずれは武京国へ行くつもりではあるけど」


「そうですか。ではその時は同行させていただきます。その方が入国や国内での移動も楽にできるでしょう」


「おっ、助かる! ありがとな!」


――コンコンッ


 ちょうど話しが途切れたタイミングでドアがノックされた。ルザルク達が到着したようだ。

 ドアを開錠するとルザルク、レジェンダ、ルナ皇女が連れ立って入ってきた。久しぶりに会ったが、ルザルクはちょっと疲れてる感じだな。この準備期間休みなく働いていたのだろう。


「阿吽、禅君お待たせ。ちょっと遅れちゃったかな?」


「いや、俺もさっき来たところだ」


「それなら良かった」


 ルザルクとルナ皇女が連れ立って部屋へと入り、最後にレジェンダが入室しドアに向けて何かしらの魔導具を使用する。盗聴や外部からの侵入を防止する結界型の魔導具って話だが、詳しい機構は聞いてもよく分からん。


「じゃあ、さっそく情報共有としようか」


「そうだな。まずは俺達の現状報告からでいいか?」


 周囲を見渡すと全員が頷いているため、そのまま話を進める。

 内容としては、沈黙の遺跡がダンジョンであったこと、そのダンジョンをこの期間中に周回してレベルを上げていた事、ボスがアークキメラというSランクの上位~SSランクの魔物であった事、そのアークキメラを俺が何とかタイマンで倒したこと、最後に俺以外の4人はギリギリまでレベル上げを行うため、まだ沈黙の遺跡に潜っているということを伝えた。


「阿吽……淡々と話していますが、あなたの伝えている内容がどれ程の事か理解していますか?」


「ん? なんか問題あったか? レベルも上げられたし戦闘力も上がったから“問題なし”って報告なんだが」


 隣を見ると禅も唖然とした表情を浮かべている。


「SSランクの魔物となると、Sランクパーティーが最低でも5チームは必要、つまりSランク冒険者20人で戦って勝てるかどうかの敵ですよ? それを単独撃破って……しかも【黒の霹靂】の他の4人はその阿吽なしでも撃破できる可能性があるっていう事ですよね?」


「あぁ。あいつらなら間違いなく勝つだろうな。だから俺も1人でここに来ているわけだし」


「はぁ……規格外だということは分かってたけど、まさかここまでとは……でも良い意味で予想外だね。これで魔族と戦闘になったとしても勝算が高くなった」


「俺達以外の進捗はどんな感じだ?」


「では私から武京国での話をしましょう。

 師匠である父の協力の元、将軍様や閣僚である大老、老中の方々と直接話をする機会を得ました。そこでルザルク殿下からの書簡を渡し、個人的な見解を聞かれた感じです。

 結果としてはスフィン7ヶ国協議会での協力を取り付ける事ができました。将軍様からはルザルク殿下に『貸し一つ』ということらしいですが、これもルザルク殿下の事を認めている証かと考えます」


「そうだね。禅君から受け取った書状にも同様の旨が記載されてたよ。友好的な関係を築くことができて、禅君には本当に感謝してる」


 禅は相当優秀だな。ルザルクからかなり難しい依頼を受けていたのにそれを短い期間で達成して、俺からお願いした事まで調べてくれていた。

 今度何かしらでちゃんと礼をしないとな。


「お力になれて良かったです。私からは以上ですね」


「あとはルザルクの進捗だな」


「うん。じゃあ前回話してた移住者に関してから話そうか。

 この2か月で希望者の移住が順次行われ出したって感じだね。プレンヌヴェルトの拡張工事と街化の方も順調みたい。

 阿吽達は一度もプレンヌヴェルトに帰ってないのかな?」


「あぁ、沈黙の遺跡近くに拠点を建築して、寝泊まりしてたからな」


「それなら次に街を見た時は驚くと思うよ。周囲が平原ってこともあって開拓は行いやすいみたいで土地自体はかなり広がってきてる。

 それにバルバル君が男爵位を叙爵されてプレンヌベルトも街としての認定を受けたよ。文官も優秀な者を送っておいたし、街の管理運営体制も早々にできたみたいだね」


「マジか。この騒動が終わったらしっかり時間を取って街造りに協力しないとな」


「そうだね。というか、バルバル君が相当優秀なようでね、送った文官たちからの報告でも『バルバル様はとんでもない仕事量を爆速処理していて驚いた』って旨が書いてあったよ。

 だからこそ文官たちのモチベーションが高く維持できているんだろうね」


「良い人材送ってくれてありがとうな!」


 思った以上にプレンヌヴェルトの開拓が進んでいるようだな。

 それだけ人口も増えているということはプレンヌヴェルトダンジョンのダンジョンポイントもかなり増えていそうだ。


 スタンピードの後にアルス達と画策していた『迷宮魔改造計画』が当初の目的通りに事が運んでいるのはかなり嬉しい。

 ダンジョンの増築はまだまだやっていきたいし、今回の件が落ち着いたらそっちに力を入れても良いかもしれない。


 バルバルに次会った時、何言われるかは心配だけど……それは甘んじて受け入れよう。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

<あとがき>

 しばらく会議の話が続きますので、明日・明後日は8時頃と20時頃の2回投稿します♪

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