第49話 破壊帝の片鱗


 審判の勝利宣言によりドレイクの勝利が決定されると、大会の運営部員がグズーリオを担架で運び出したのだが、結界外に出たグズーリオは目を覚ますと、その場で頭を抱えてうずくまりブルブルと震え出した。


 まぁ、降参したくてもさせてもらえず、死と隣り合わせの時間を強要させられていたんだから、そうなるわな。ドレイクは、精神攻撃の魔法も使わずに精神的にトラウマを植え付けてしまったようだ。


 今の試合のせいで、来年はまた大会ルールが追加されることになりそうだな。頑張れ、大会運営委員会。


 次の試合、勝ち残り戦のため【星覇】はドレイクのまま。【レッドネイル】の次鋒はサバナントという、“キヌを笑った奴”だ。

 コイツは少しビビりながらリングの中央まで歩いてきた。


「おぉぉおお、おい! てめぇ、ただで済むとお、思うなよ」


「なにって? 聞こえないんだが? 昨日みたいに大きい声で喋れよ」


 もうこれだけ見ても勝負はついているようだが、ドレイクは全く容赦をする気はなさそうだ。

 試合開始のゴングが鳴ると同時に、ドレイクはサバナントに向かって一直線に走り、“優しく”腹を殴った。それはもう、『ギリギリ嘔吐しないぐらい』の優しさだ。


 サバナントは顔を青くし悶えているが、ドレイクは構わずサバナントの首根っこを掴み、上空に飛んでいった。……その7秒後、空からサバナントが降ってきた。


 それを地面ギリギリでドレイクが服をつかみ、助ける……かと思ったらまた空高く飛び上がり、10秒後に再びサバナントが降ってきた。

 サバナントはすでに泡を吹いているが、一撃しかダメージを受けていないため、審判も止められない。


 そして、ドレイクは3回目の空中拉致を行い、今度はサバナントの頭部を鷲掴みにしたドレイクが高速でリングに突っ込み、サバナントの顔面をリングにめり込ませ、試合終了となった。


 落下したリングには大きな亀裂が入っており、割れ目を境に段差ができている。結界内でなかったらサバナントは死んでいただろう。


 順調に処刑を続けていくドレイクに、シンクも満足げな表情だ。


「わたくしなら、もっとこう……」


 と小声でつぶやいているが、俺には聞こえない……。


 相手の3人目は昨日ビビって「ヒィ……」しか言っていなかった重戦士の男だ。

 もう名前も見る気にもなれないコイツは、ドレイクが赤鬼の金棒で横薙ぎ攻撃をすると、相手の持っていた大盾ごと防具と両腕を破壊し、追撃に赤鬼の金棒を鎧の上からボディーに叩きつけ勝負を決めた。


 そして最後に出てきたお嬢様口調の女性冒険者アントリアは、なんとかリングには上がれたものの、顔面は蒼白しており足は子鹿のように震えている。到底試合なんか行えるような様子ではなかった。


「なぁ、お前等は昨日俺の大切な人をバカにしたんだよな? 理由は亜人や獣人ってだけで、お前等にしてみれば普通のことだったかもしれねぇがよぉ……俺にとってはこの世界で何よりも大切な人達なんだよ。

 それに、俺は自分の大切な人をバカにされて黙っててやれるほど大人でもお人好しでもねぇんだわ……。いくらお前に戦う意思が無くても、俺は昨日兄貴が言ってた通りお前を挽肉にしてやる。覚悟しとけ」


 そして、試合のゴングが鳴ると同時に、全力の殺気をぶつけられたアントリアは泡を吹いて失禁し、気絶した。

 ドレイクは、口ではああ言っていたが本当に優しいな。絶妙に殺気をコントロールしていた。もし本気でボコるつもりなら、あんな事を言わず殺気も抑えて戦えたはずだ。


 そうして試合が終わってみると観客席からブーイングが出る事は無くなり、ドレイクは『試合会場』と『対戦相手の武器・防具・肉体・メンタル・プライド』を破壊するという大会史上初めての快挙?……を達成したのだった。


「おつかれさん! さすがだな」


「あざっす! でも、ちょっと甘かったっすかね?」


 ドレイクはそう言ってシンクの方を見るが、「よくやりました」とシンクからもお褒めの言葉をもらっていた。

 ネルフィーだけは少し驚いた表情をしていたが。


「ん。みんな……怒ってくれて嬉しかった。ありがと」


 キヌがそう言うと、全員に心からの笑顔が戻った。やっぱりキヌは俺達の天使だな!

 そして俺達が出場者用ロビーに戻ると全員から目を逸らされるようになっていた。

 【星覇】の強さを示すには最高の形であったが、それ以上に悪い噂が立たないか心配だ……。

 でもまぁ、そんな悪い噂も全部ぶち壊せばいいだけだな!


 その後、大会はリングの修復を行い、再開されたようだ。

 俺たちは試合の賭けの配当をもらい宿屋へと戻った。ちなみにオッズは20倍。金貨500枚がいきなり1万枚に膨れ上がっていた。


 明日は俺たちの試合がないため、シンクやネルフィーの装備などを見に行く予定に決め、午後は食べ歩きと街の観光を行いつつ、ゆっくりとした時間を過ごしていった。


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