第48話 序列戦開幕!


 序列戦の初日、俺達【星覇】は朝から闘技場に来ていた。昨日の【レッドネイル】との騒動で闘技場内部を見るのを忘れていた為、試合開始よりかなり早く到着することにしたのだ。


 周囲には人が溢れかえっており、観客席も満員となっている。さらに入場チケットを購入できなかった人のために、闘技場の外にも大型魔導具による試合会場の映像と音声が流れていた。こんな魔導具まで開発されているとは知らなかった。王都には凄い魔導具師がいるようだ。


 闘技場内は出場者用フロアと観客用フロアに分かれており、出場者用のフロアへ入ると、そこでは屈強な冒険者達がピリついた雰囲気を醸し出している。

 今回の出場クランは30クランあり、その中でも和装を着ているのは俺たちくらいだ。見た目が亜人や獣人という事もあってかなり目立っており、出場者たちに威圧する視線を向けられていた。まぁ俺達の一番後ろを歩いているドレイクがその都度つど睨み返し、その上を行く威圧をぶつけていたんだが……。この視線も初戦が終われば少しは変わってくるだろう。


 出場者用のフロアを見終わる頃、大会運営委員会のマイクパフォーマンスが始まり、闘技場全体が割れんばかりの歓声に包まれた。


 【星覇】は今年新設のクランであるため、現在の序列は一番下だ。当然シード権があるわけもなく、全行程で優勝までに5試合を行うことになる。

 今日の出番は4試合目であり、参加者用フロアで待っていると大会運営委員に呼ばれ控室へと誘導された。控室にも映像が映されており試合の様子が確認できる。


「ドレイク、準備できてるか?」


「うっす! 問題ないっすよ! 早くあいつ等を叩きのめしたいっす!」


「わたくしに少し残してくれても良いのですよ?」


「全員シンクねぇさんの分までキッチリとブチのめしとくっす!」


「仕方がないですね……今回は譲ります。その代わり二度と口が開けない程度には、ってきなさい」


「了解っす!!」


 話しているうちに第1試合は終わっていた。

 チラッと試合を見ていたが、今の試合は両クランとも全員レベルが低かった。正直人間だった時の俺の方がまだ強いほどだ。

 第2、3試合も同様のレベルであり、試合観戦を楽しめるのはかなり先になりそうだ。


 そして【星覇】の出番が回ってきて試合会場に入ると、観客席からの凄まじい野次やじとブーイングの嵐が起こった。やはり亜人や獣人というだけで、この街の住人は下に見ているようだ。まぁ、これくらい嫌われていた方が賭けのオッズは上がるから気にしないでおこう。


 反対の入場口からは【レッドネイル】のメンバーが入場してくるが1人足りない。

 よく見てみると最後に謝っていた女性冒険者が居ないようだ。ちょっと脅しすぎちゃったか?


「兄貴、行ってくるっす!」


 トントンと軽い足取りでドレイクがリングに上がると、対戦相手もリングに上がってきた。あれは最初に俺たちを笑った奴だな。エントリーシートを見ると『グズーリオ』という名前らしい。


「おい、亜人! てめぇらのせいでメンバーが1人クランから抜けちまったじゃねぇか! どうしてくれるんだ!」


「あ? そんなん知らねぇよ。お前らがアホ過ぎたから嫌になったんじゃねぇの?」


「クソ舐めた口をききやがって! 昨日は不意打ちで油断してただけだ! 覚悟しとけよ!」


「不意打ちか……じゃあ1分だけ攻撃しないでやるよ。思う存分攻撃してきたらいい」


「ふざけやがって! その言葉、後悔させてやる!」


 ドレイクが鼻で笑うと試合開始のゴングが鳴り響いた。挑発されたグズーリオは、ミスリルのロングソードをマジックバッグから取り出し、ドレイク目掛けて斬りかかるがドレイクは振り下ろされた剣を二本の指でつまんだ。


「おい、早く攻撃してこいよ」


「ぐぐぐぐっ!!」


 グズーリオは思い切り力を入れているが剣先はピクリとも動かない。

 ドレイクが摘んでいた剣を離すと、グズーリオが後退する。そしてまた斬りかかり、また剣を摘まれる。

 1分間そんなことが数回続いた後、


「そろそろ1分経ったか? じゃあ俺からも攻撃するぞ」


 そう言って赤鬼の金棒をマジックバッグから取り出す。

 次にグズーリオが斬りかかった後は結果が違っていた。


――パキィィン


 グズーリオのミスリルロングソードに赤鬼の金棒を軽く当て、武器を破壊した。

 その後、グズーリオは5本の剣をマジックバッグから取り出すが同じようにすべて破壊されている。


「なんなんだよ、お前らなんなんだよぉぉぉー!!」


 プライドがズタズタにされたグズーリオは涙を流し、鼻水を垂らしながら素手で殴りかかっていくが、ドレイクはその拳を左手で掴み、そのまま握り潰した。


「ギャアァァァ!! グボェ!」


 叫んでいるグズーリオの腹に、気絶しない程度に加減したドレイクの膝蹴りが入る。その後、20発程度往復ビンタをされ顔がパンパンに膨れ上がり鼻血をだしているが、グズーリオが何かを喋ろうとするとすかさずドレイクに顔を叩かれる。

 ビンタでは試合が決定付けにくいためか審判にも止められない。


「お前ら、誰の事をバカにしたのか、分かってるのか? 対戦相手が俺で良かったな。兄貴やシンクねぇさんだったら、こんなモンじゃ済まねぇよ?」


 観客席は既に静まり返っている。

 あまりの戦闘力の違いに全員が呆然としているようだ。


 最後は四つ這いでリングの外に向かって地面を這いずっていくグズーリオの背中に、ドレイクが赤鬼の金棒を叩きつけると、声にもならない声を張り上げながらグズーリオは気絶し、先鋒戦の勝負が決定した。

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