第47話 王都アルライン
王都に到着してすぐに俺たちは闘技場に向かった。
闘技場の入口付近にはクラン対抗武闘大会、通称“序列戦”の大会要綱やルール説明などが貼りだされている。その周りには参加者と思われる冒険者達が集まっているが、それを想定し後ろの方からでも見えるようになっているのは親切だと感じた。
〈大会要綱〉
・本大会はアルト王国内クランの序列を決める大会です。
・優勝クランは1年間序列1位となり、国王陛下より
・本大会はトーナメント方式を採用しております。
・昨年の序列によるトーナメントシード権があります。
・1クラン5人の出場枠があり、「5対5の勝ち抜き戦方式」で勝敗を決定します。
・ただし、決勝戦に関しては各将同士が対戦し、勝ち星の多い方が勝利となる特別マッチです。
(尚、途中で勝敗が決した場合でも大将戦まで行います)
・闘技場には大型の
(※昨年の事故を受け、本年より新設いたしました。存分に力を発揮してください)
・詳細は本大会運営委員会までご質問ください。
〈ルール〉
・1クラン5人までの参加となります。4人以下での参加も可能ですが全滅により敗退となります。
・ポーション等のアイテムの使用は禁止です。
・精神攻撃系魔法の使用は禁止となっております。使用が発覚した場合、即失格となります。
・相手が降参をした場合、それ以上の攻撃にはペナルティが発生いたします。
・意図的な観客席等への場外攻撃は禁止です。場外攻撃を行なったクランは失格、クランの解体となります。
(攻撃の余波が出ないよう最大限の配慮はしております)
「なかなか凄いな。特にこの大型魔導具って大規模戦争とかに使われる伝説級とかそんなレベルだろ……」
「ん。でも私たちには有利。火力の加減は苦手」
「そうっすね! 思いっきり叩きのめす事ができますね!」
「あなた達の戦闘能力ってどれだけ高いのよ……」
「まぁ確かに有利だな! 思いっきり暴れてやろう!」
そんな話をしていると後ろから3人のゲスな笑い声が聞こえてきた。
「ぎゃーっはっは! おいおい、見てみろよ! 亜人と獣人のクランだぞ!」
「オーッホッホッホ! 変な
「“ちっさい獣女”もいるじゃねぇか! ガハハハ! 人数合わせかよ!」
あ?……今、誰の事を笑った?
俺は『ちっさい獣女』と言った奴に肉薄し、顔面を鷲掴んで身体を持ち上げた。
俺達をバカにしていた残り2人は、シンクとドレイクが首や腕を掴んでいる。
「おいテメェ、さっきのセリフは“俺の”キヌに言ったのか? どうなんだゴルァ!」
「兄貴、序列戦前っすけどコイツ等、
「わたくしならまだしも、阿吽様やキヌ様を笑ったのです。これは万死に値します。温情を与えるとしても両手足を千切るくらいは必要かと……」
俺達が全力で殺気をぶつけているためか、数秒で3人とも気絶した。近くに居たゲス野郎どもの仲間らしき男女2人も一緒になって笑ってはいたが、コイツ等には“まだ”何も言われていない。
持ち上げていた男を横に投げ捨てるとその二人に“優しく”質問をした。
「なぁ、お前ら。コイツは誰を笑ったんだ? 教えてくれよ」
「ヒ、ヒィ……」
「あぁぁ、あの、それは……申し訳ありません! 私からよく言って聞かせますので!」
「はぁ? それは“俺の大事な”キヌを笑ったって言ってるんだな? てめぇらも死刑だ」
「阿吽……嬉しすぎるから、それ以上は……やめて」
ん? キヌがそう言うなら許してやるかっ!
「おい、お前ら……今日は俺たちの天使に免じて許してやるよ。ただしクラン名を教えろ。大会で
「いや、あのえっと……」
「今、死ぬか?」
「……【レッドネイル】です……」
「ネルフィー、トーナメント表見てきてくれるか?」
「もう確認してある。喜べ、初戦の相手だ」
「マジ? よし、レッドネイル。棄権なんかすんじゃねぇぞ?」
周囲はかなりザワついているが、誰も止めには来ない。例年こんな感じなんだろう。
その後は、俺もトーナメント表を確認し、冒険者ギルドで大会登録をした後、ギルド職員に案内され宿屋『歌う小犬亭』へと向かった。
移動の途中でネルフィーが居なくなっていたが、どこへ行ったんだろう? まぁ念話もできるし、夜には帰ってくるはずだ。
宿屋へと入り一時間ほど部屋でくつろいでいるとネルフィーが戻ってきた。どこかで着替えたのか、戻ってきたときには【忍和装(くノ一)】を装備しており少し恥ずかしそうにしている。
何をしていたのか聞くと、【レッドネイル】を監視していたらしい。
奴らは目が覚めてから、周囲の目が気になったのか近くにあった看板を壊すなど大暴れをし、亜人や獣人がどうのと
王都アルラインでは特に『人間至上主義』の貴族や冒険者達が多く、人間以外の種族を亜人、獣人と言って差別的な発言をしている。
もちろんそうは思っていない奴らも居るが、それを否定することは誰もしない。
だが、俺はそういう差別が昔から大嫌いだ。
ネルフィーが合流してからみんなで食事をとり、再び部屋に戻ってきてから作戦会議となった。
キヌは闘技場前での一件後、目に見えて上機嫌であり、いつも以上に距離も近い。今は俺の膝の上に座っている状態だ。シンクとドレイクは明日のレッドネイル戦はどちらが先鋒をやるかで議論している。先程の事もあり、お互い譲る気はなさそうだ。結局じゃんけんの結果、ドレイクが先鋒を務める事になったのだが、シンクはとても悔しそうにしている。
ネルフィーが監視ついでに大会に関しての情報を集めてきてくれたが、明日は開会式もなくそのまま試合の流れになる。俺たちは第4試合目にあるとの事だ。だが、それ以上に気になる情報があった。
この大会は一般客も楽しめるようにと“公的に”賭けが認められているそうだ。
試合毎に賭ける事ができるため、ネルフィーに俺の所持金の半分を渡し、その全額と増えた金額も上乗せして全て賭け続けるように依頼しておいた。
その後はすぐに解散となり、大会初日の朝を迎えた。
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