第46話 ゴリ押し隠蔽工作


 奴隷商の付近まで来ると、店主が俺に近づいてきた。

 さっき起きたばかりなんだろう。顔色が悪く、足がフラフラしている。


「お客様、その……申し訳ございません。奴隷たちに逃げられまして……」


「そうだな。俺も現場に居たから知っている」


「あれ? そういえば、お客様は今までどこに……?」


「侵入者と戦闘になったからな。攻撃を避けながら店から脱出していた。それより、どうしてくれるんだ?」


「そ……そうでございましたか。すぐに別の奴隷を用意いたします!

 あの、非常に申し上げにくいのですが、上にこの事を報告したいのです。証人として一緒に付いてきてもらう事は可能でしょうか?」


 あー、これ俺を疑っているパターンか? さすがにタイミングが良すぎたかな。


「……お前は何を言っているんだ? 俺が付いていく理由がないだろ。それに、俺の事を上に報告するのもナシだ。面倒事になりたくはない」


「それは、その……襲撃時の状況を報告しなくてはならず……現場にいた証人も必要かと……」


 これはかなりキツめに脅しておいた方が良さそうだ。

 でも気絶させないようにしなきゃな……殺気は抑え目にしてっと。


「お前は立場を分かっているのか? なぁ? ふざけた事言ってると、全身砕いてゾンビの餌にしちまうぞ。

 あと……路地裏に隠れて俺を狙ってる奴らは、全員死んでも良いって事だな?」


 そう言って周囲を見渡すと咄嗟にバレないよう隠れる4つの影が見えた。


「ああぁああ、あの……どうかご勘弁を! 言いません、言いませんから! 部下にも必ず言い含めておきます!」


「当然だろ。上に俺の事を報告したら潰す、俺の周囲を探っても潰す、俺の仲間に手を出したら……普通の死に方が出来ると思うなよ? それに、もともと俺は被害者なんだ。そうだよな?」


「そそそ、そうでございます! お客様の仰る通りでございます! 疑うような事言って申し訳ありませんでした。路地裏に居る部下には罰を与えておきます!」


「選択を……間違えるなよ?」


「はいぃぃ!!」


 まぁ、こんなもんかな?


 俺は殺気をそのままに奴隷商を後にした。宿に戻る道中は周囲を探ってみたが付けてきている輩は居ない。

 うん、上々だな! かなーり強引だったけど、これで面倒事はなさそうだ。



◇  ◇  ◇  ◇



 その後、3日間は奴隷商たちの様子を窺いながらミラルダで買い物や食事を楽しみ、実害が無さそうなのを確認できたため、王都アルラインに向けて移動を開始した。


 アルラインへの移動は、あえて馬車と御者を雇った。

 今は馬車に揺られている最中なのだが……俺の過去を話してからキヌとの距離が近い。というか、常にどこかを掴まれている。宿屋でもキヌがドレイクに言って俺との2人部屋になっているし、今も馬車の中で隣に座り左腕を抱きしめられている状態だ。

 【黒の霹靂】メンバーはそれが普通の事のようにしてくれているが、それ以外の周囲からの視線がちょっと痛い……。


「キヌ、俺は逃げないから捕まえてなくても大丈夫だぞ?」


「阿吽は……イヤ?」


「決して嫌じゃない。むしろ嬉しい。ただ、周囲の視線が痛いっていうか……」


「……私は気にしない。阿吽も気にしちゃ……ダメ」


 あー、俺を見上げる表情が最高にカワイイ……なんだろう、幸せだ。

 うん。周囲は気にしちゃダメなんだな! キヌが言うならそうなんだ! むしろ周りがおかしいんだろう。


「阿吽様、キヌ様とはずっと引っ付いていてくださいませ。わたくしの目の保養のためにも……」


「兄貴達はお似合いっすからね! 俺たちは全く気にしないっすよ。むしろ変な目で見てる奴が居たら俺が全員シメてきます!」


「阿吽とキヌは本当に仲が良いな。私もそんなパートナーが欲しいよ」


 まぁ、コイツらが気にしないなら良いか。

 恥ずかしいから、俺から引っ付きに行く事はしないが……しないと思う。ただし、狐状態のモフモフは別だ!!


 王都アルラインへは馬車なら2日ほどで到着する。昨日の夜は野営をしたが、モンスターにも盗賊にも襲われることはなかった。予定通りであれば、もう少しでアルラインに到着するだろう。


「あ、そういえばネルフィーに渡しておくものがあるんだ」


 そう言って俺は一着の服を取り出した。


≪忍装束【くノ一】:防御力10 隠密効果、器用値・敏捷値に補正効果あり≫


「これは和装といって和の国で着られている装備だ。

 俺達全員この和装を装備してる。アルス、イルス、バルバルからのプレゼントだ。受け取ってくれ」


「いいのか!? これ相当希少な装備だろ?」


「ん。ネルフィーもお揃い……」


「そうっすね! 序列戦バシッとキメるっす!」


「ありがとう。王都で着替えておくよ。お揃いか……なんだか嬉しいな」


 全員が和装で登場したら相当目立ちそうだが、それはそれでアリだ。力を見せつけるにはちょうどいい。そんな話をしていると遠くの方には王都アルラインの王城や街の外壁が見えだしてきている。

 この街に帰ってくることは、二度とないと思っていたが……人生何が起こるか分からないもんだな。


 序列戦は明日からの予定となっており、見物客も多く見に来る。そのせいか、外門には長い行列が出来ており、入るまで半日はかかりそうだ。ただ、俺たちは序列戦の参加者であるため、並ぶ必要もないし宿もすでに決まっているそうだ。


今日の予定は、闘技場でルールが貼りだされているから、その確認を行う。その後、冒険者ギルドで到着の報告と大会登録をしてから宿で作戦会議の予定だ。

 明日から忙しくなりそうだし、今日の夜はゆっくりと休む事にしよう。そんなことを考えていると馬車は門をくぐり俺たちは王都アルラインに入場した。


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