第54話 大切な事
ネルフィーはルーカスの首に刺し込んだパラライズダガーを引き抜き、マジックバッグに収納してリングから戻ってきた。
「お疲れさん! ネルフィーめちゃくちゃ強いじゃん」
「これでもそれなりに戦闘経験は積んでいるからな。だが、このパーティーの中では私が一番弱いのだろう。
それよりも、マーダスの事だが……」
「あぁ、聞こえてたよ。魔剣フラムに乗っ取られて暴走したって考えるのが自然だろうな。
それで、マーダスが持っていた魔剣をブライドが回収し、ドレイクに刺した。
ただ、その目的が分からないんだよな。ドラゴン状態のドレイクを暴走させ何をさせたかったのか……」
「それは俺も分からないっすね。単純に周囲を破壊するのが目的なんっすかね?」
「まぁ、それは今考えても分からないな。その時が来たら直接本人にでも聞いてみるとするか」
その後、俺達は賭けの配当を受け取り、大通りへと出た。
配当金は金貨9000枚となったが、帰り際に係員から「大会運営委員会で次回からベットできる上限が決められた」と言われ、次回から金貨2000枚が上限となったようだ。ちょっと稼ぎ過ぎたか?
まぁ次回からも上限いっぱい賭け続けるんだけどな!
獣人村を発展させるためには、やはりダンジョンポイントだけではなく金も必要だ。
今回みたいに武器や防具、装飾品がオークションで出る事も考えると、金はできるだけたくさんあった方がいい。
だが正直、俺は金や社会的地位や名誉に全く執着がない。
大切なのは仲間たちだ。
その仲間たちと楽しく毎日を過ごしていたい。
仲間が困っている姿を見たくない。
今の幸せを壊されたくない。
だから俺は最強を目指す!
必要な金も集めるし、必要な地位も手に入れる!
矛盾しているようだが、金や地位は“目的”ではなく“手段”でしかない。
多分、【星覇】の皆も同じ考え方なんだろうな。
おっと、考えすぎちゃうのが俺の悪い癖だな!
よし、これからの予定は……どうしよう、何も決めてなかった。
「阿吽様、少しよろしいですか?」
「ん? シンクどうした?」
「変形巨斧の練習を行いたいのですが、夕方まで自由時間を頂けないでしょうか? 冒険者ギルドに訓練所があると聞いたので行ってみようと思っているのですが」
「あぁ、全然かまわないぞ? 他のみんなはどうする?」
「俺もシンクねぇさんと一緒に訓練所行ってくるっす!」
「私も同行しよう」
シンク、ドレイク、ネルフィーは訓練所か。
「キヌはどうしたい?」
「キヌ様は、以前に『ケーキが食べてみたい』と仰っておりませんでしたか?」
シンクがそう言うと、キヌはハッとした表情を浮かべる。
「……ケーキ、食べたことない。食べてみたい」
「そういえばそうだったな! んじゃ、俺とキヌはカフェに行って食ってくるか! 時間が余ったらその辺を散歩しよう」
「ん。ありがとう、阿吽」
「よし、決まりだな! 晩飯は19時として、それまで自由行動だ」
そうして俺は、久しぶりにキヌと二人で街を歩くことになった。
キヌは表情が緩んでおり、かなり嬉しそうだ。
そんなにケーキが食いたかったんだな……言ってくれれば良かったのに。
キヌと二人で大通りを歩き、見付けたお洒落なカフェに入って窓際の席に腰掛けた。
紅茶とケーキの良い香りが鼻孔をくすぐり、俺も腹が減ってくる。
ケーキなんか何年ぶりに食べるだろう。
「キヌ、紅茶とケーキのセットで良いか?」
「ん。楽しみ……」
「俺もそうしよっかな。お? キヌ、ケーキの種類が多いぞ! どれにする? うーん悩む……」
「初めて食べるから……普通のにする」
「んー、じゃあ俺は5種のベリーが乗ってるタルトにしてみよ!」
店員がタイミング良く来てくれたので、注文をする。
5分ほどで注文したケーキと紅茶を店員が持ってきた。
キヌはジーっとケーキを見つめ、匂いを嗅ぎ……
――パクッ
「!! 阿吽っ、美味しい! こんなにおいしいもの、初めて食べた……」
めっちゃ驚いてるな。こんな表情をするキヌは初めて見た。
喜んでくれたなら良かった!
「キヌ、こっちのケーキもうまいぞ? ほれ、一口食ってみ」
そう言ってベリータルトを切り分け、キヌの口元に差し出す。
――……パクッ
「んんんんんー!! 甘くて、酸っぱくて、サクサク……一番がまた増えた!」
めちゃくちゃ可愛いんですけど!! すげぇ喜んでくれるじゃん!
ケーキを食べ終わり、ゆっくりと紅茶を飲みながら窓の外を眺める。
こんなゆっくりとした時間も良いもんだな。
それに、寝るとき以外でキヌと二人きりって久しぶりな気がする。プレンヌヴェルトダンジョンを開けてからずっと忙しくしてたし……。
そういえば、キヌの好きな食べ物……は今日ケーキになっただろうけど、好きな物とかやりたい事とか聞いたことが無かったな。
「キヌってさ、あんまり自分の事って話さないよな? してみたい事とかってないのか?」
「……してみたいこと……阿吽と一緒なら何でも楽しい。阿吽を助けられるように、強くなりたい」
「十分助けてもらってるよ。頼りにしてる。んー、じゃあ好きなのって何かあるか?」
「……一番好きなのは、阿吽」
ブフッ! キヌさん……それは反則ですよ!
可愛すぎるし、嬉しすぎる! やべぇ、俺絶対顔赤くなってるわ……。
「あ、いや、そうじゃなくて……何か照れるな。嬉しいよ。ありがとな」
「あとは……花や草が好き。可愛くて良い匂いがする」
「そっか! なら、フォレノワールにも花をいっぱい増やそうか! キヌの大好きなもので埋め尽くす部屋を作るのも良いな!」
「ん。楽しそう」
俺達の会話は、本当に
しかし、その会話は川のように自然と流れ、
いつもと一緒の距離。でもいつもとは違う空気感。
いつも一緒に居たとしても、いつでも信頼し合っているとしても、お互いの事をよく知ろうとする気持ちは、とても大切な事なんだな……。
カフェを出た俺たちは、話をしながら夕暮れの王都を宿屋に向かって歩いていった。
自然と手を繋ぎながら。
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