第55話 星覇のメイド


 俺とキヌが宿屋に戻ってから1時間ほどで他の3人も戻ってきた。


「シンク、変形巨斧はどうだ? 使えそうか?」


「はい。まだ十分に使いこなせてはいませんが、感覚は掴めました。

 明日の試合、先鋒を務めさせていただきたいとお思っております」


「兄貴、シンクねぇさんすげーっすよ! 俺なんかどう組み替えてるのか意味が分かんないっすもん!」


「変形自体はそんなに苦労いたしません。頭で考えずに流れで組み替えれば良いだけですので。ただ、変形するのに時間がかかっておりますので、咄嗟の防御にまだ不安が残ります。

 ですが、攻撃力や防御力に関しては素晴らしい武具でございます。落札していただき、本当にありがとうございました」


「そうなんだな! なら、明日の試合の先鋒は任せた」


「はいっ、お任せください!」


◇  ◇  ◇  ◇


 翌日、俺たちは朝から闘技場に来ていた。今日の第一試合が俺達【星覇】と対戦クラン【三日月】の3回戦準々決勝となる試合だ。

 【三日月】は序列4位のクラン。いよいよ強敵と当たり出してきた感じがする。


 賭けの倍率は【星覇】が1.5倍。

 序列4位に対して1.5倍は結構期待されているのか?


「シンク、昨日は晩飯が終わってからも、ずっと武器触ってたみたいだけど……寝れたか?」


「はい、体調は万全でございます。片手での武器の変形速度も上がってきておりますので、今日の試合で披露できればと」


「おう、楽しみにしてるぞ。っと、そろそろ時間だな」


 係員が控室に入ってきたため、俺たちはシンクを先頭にして試合会場に入った。


 会場は昨日までとは違い、俺たちの応援をしてくれる声がかなり聞こえてくる。

 『2試合連続で完封勝利』というのはやはり話題性も高かったようだ。


 すると突然、試合会場に運営委員会のマイクパフォーマンスが流れた。


『皆様、お待たせいたしましたぁぁ!! 本日の試合より、実況が入ります!! 司会、実況を務めさせていただきます、マイケルです!! どうぞ、よろしくぅぅぅ!!』


「実況なんてモンも入るんか。いや、確かにここからは、一般人では何が起こっているのかさっぱり分からない試合にもなりそうだしな……。てことは実況のマイケルって結構強いんじゃ……」


『さぁーて! ベスト8が出揃った本日の試合、一試合目は【星覇】VS【三日月】!

 現在すでに会場に姿を現している【星覇】は、今年開設されたクランではありますが、レクリアに現れたS級魔獣のドラゴンを3人で撃退した功績を称えられ、特別に参加が認められたクランです!!

 その実力は未知数!! 2試合を全て先鋒が倒してしまうという規格外っぷり!!

 さらに! メンバー全員が和装とよばれる装備で統一されており、ファッションでも今大会で一番注目されているクランでもあります!!

 私は、このクランがいったいどこまで上り詰めるのか、楽しみだぁぁぁ!!』


 うん、なかなか盛り上げ上手な司会だ! これはマイケルファンも多く居る事だろう。

 亜人や獣人という事を全く気にせず、公平に司会と実況をしてくれそうだ。


『続いて入場してきたのは、序列4位の【三日月】!

 昨年は惜しくも準決勝で敗退しましたが、その実力は本物!

 S級冒険者が4名、A級冒険者が1名の精鋭ぞろいなメンバー構成であります!

 特に大将のミックは水の魔剣を扱う魔法剣士! S級冒険者の中でも一目置かれている存在です!』


「それでは、行って参ります」


「おう! 目立ってこい!」


 そう言うと、シンクはリングの中央へ向かって歩いていく。相手の先鋒はドダイド。バスタードソードを持った重戦士のようだ。


「よろしくお願いいたします」


「おう、俺たちはお前らを侮ってなどいないぞ。先の試合を見させてもらったが、二人の実力は本物だった。本気で行かせてもらう!」


 そして両者が開始位置に移動し、試合開始のゴングが鳴り響いた。


 まずシンクがマジックバッグから変形巨斧へんけいきょふ怒簾虎威どすこい 】を取り出し、アイアンバレットで魔法攻撃をしながら直進する。

 ドダイドもシンクの魔法をサイドステップで躱すと、シンクの振り下ろした巨斧をバスタードソードの振り上げで鍔迫つばぜり合いに持ち込んだ。


 シンクの筋力と張り合えるとなると、ドダイドも相当筋力が高いと見える。しかし徐々にシンクが力押しをしていき、たまらずドダイドはバックステップで距離を取った。


 すかさずシンクが前進し、巨斧の横薙ぎ攻撃を仕掛ける。

 とっさに防御を行なったドダイドだが、少なくないダメージが入ったようだ。


『うぉぉぉぉーー!! いきなり高レベルな攻防!! 両者共に筋力のステータスが非常に高いようです! さらにシンク選手は魔法も使用しており、相手にすると厄介そうだぁぁぁ!』


「やりますわね」


「痛ぇー。おいおい、これでも俺はSランクだぜ? 普通こんな一方的になるかよ。嬢ちゃん何者だ?」


「【星覇】のメイドでございます。それに、わたくしもSランク冒険者でございますので」


「世の中広いって事だな! とは言っても俺は負けられん、いくぞ!」


 そう言いながらドダイドは防御を捨て、大振りの振り下ろしで早期決着を付けに来た。

 それを見たシンクは巨斧を盾に変形させ上に構える。この大振りを待っていたようだ。

 変形速度も速く、変形完了までに1秒もかかっていない。

 ドダイドは、その変形に驚愕しながらも、振り下ろされたバスタードソードはもう引くことができない。


 シンクは振り下ろされたバスタードソードに対して盾をタイミングよく合わせ、【ガードインパクト】でドダイドにダメージと衝撃を与える。


 そして再び巨斧に変形させ、両腕を弾き上げられたドダイドの腹部目掛け横薙ぎ攻撃を振り切った。


『ぬぉぉーー!? なんだあの武器はぁぁ!! 突然盾に変形し、ドダイド選手の攻撃をはじき返した! そしてすかさず巨大な斧での横薙ぎ攻撃、ドダイド選手の腹部を大きく切り裂いたぁぁ!!!』


 プレートメイルで固められた防具でもシンクの攻撃には耐えられず、ドダイドは腹部から大量の血を噴出させる。

 そして、ゆっくりとうつ伏せに地面へ突っ伏し、先鋒戦の勝負がついた。


『勝負ありぃぃ!! 【星覇】シンク選手の勝利だぁぁぁ!!!!』

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