第53話 序列戦第2回戦


 翌日、俺達は昼頃に出場者控室へ入った。午前中は2回戦の賭けにベットしたくらいで、後は試合を観戦していた。


 次の試合、俺たちの配当倍率は1.8倍。初戦でドレイクが圧倒的な強さを見せたものの、やはり亜人に賭けたくないという心理が働いたのか予想よりは高めだ。

 俺は、当り前のように金貨5000枚を自分たちに賭けてきたのだが、係員がかなり引いていた。


 今日の先鋒はネルフィーだ。シンクがやりたがるかと思ったんだが、変形巨斧へんけいきょふの練習中であるという事で3回戦での先鋒を希望した。

 ネルフィーに関してはやる気が満ちあふれており、無言ながらも闘志がみなぎっているのが分かる。


「さて、そろそろかな?」


「私はいつでも戦えるぞ!」


「おう、期待してるよ」


 係員に促され試合会場へと入ると、昨日の野次とは違い、観客は応援してくれる人もチラホラ見受けられる。しかし、大多数は無言だ。

 応援しているのは俺たちに賭けた奴らだろうな……。おい、儲けさせてやるからもっと腹から声出せよ!


 俺達が入場し、しばらくすると対戦相手も5人が揃って会場に入ってきた。【フォルテシモ】というクランであり、男1人に女4人のパーティーだ。エントリーシートの名前からすると、大将が男でルーカスというらしい。


 相手の様子を窺ってみると、所謂いわゆる『ハーレムパーティー』というやつであり、ルーカスが4人の女性を囲っているのだろう……。あからさまに4人の女性とベタベタしている。


 いや、ハーレムが悪いというわけではないんだ……。 男なら一度は考えた事があるし、貴族ともなれば逆に普通だ。


 しかし、ルーカスは顔が整っているのに、表情が圧倒的にキモいのだ。優越感に浸り、周囲に自慢しているのが誰から見ても分かる。まるで「お前ら、羨ましいだろ?」そんなセリフが聞こえてきそうな表情だ。

 ただ、なんだろう……凄く引っかかる。あの顔、誰かに似てるような……。


 ネルフィーは【フォルテシモ】の方と見ると顔を歪ませ、嫌悪感を隠しきれていない。


 そんな表情のままネルフィーはリングへと向かっていくと、相手の先鋒もルーカスの頬に軽くキスをしてからリングに上がってきた。先鋒の名前はオリヴィア、装備を見る限りでは前衛職だ。手にはレイピアを持っているため、おそらく手数で勝負してくるのだろう。

 両者がリングの中央で睨み合う。


「へぇ、アンタんトコの大将も、かなりイケてるじゃないの。今晩、なぐさめてやろうかねぇ」


「男ばかり見ていると、一瞬で試合が終わるぞ?」


「舐めた口利いてくれるじゃないの? 私はそんなに弱くはないよ」


「楽しみにしている」


 会話が終わると二人は中央から離れていく。開始位置から少し距離を離して立つと、オリヴィアはレイピアを構えた。だが、ネルフィーは武器すら持っていない。

 そのまま試合開始のゴングが鳴り、ネルフィーが微かに動くと、そのままクルっと後ろを向いて歩き出した。


 「へぇ……ネルフィーめちゃくちゃ強いじゃん」


 会場内で今の動作が分かったのは何人居るだろうか。少なくとも対戦したオリヴィアは何が起きたのか全く分からなかっただろう。

 オリヴィアの額には1本の矢が刺さっており、すでに勝負はついた後だった。これ、決着最速タイムじゃねぇか? 俺計測だと0.9秒でオリヴィアの額に矢が刺さったぞ。審判が判定をするまでに7秒ほど困惑していたが……。


 先鋒がこの程度のレベルとなると、それ以降もほぼ同様の試合展開だった。


 次鋒戦は、相手が魔法を放とうとするが、その前にネルフィーの放った矢が額に刺さり終了。

 中堅戦では相手も弓を装備しており、ネルフィーに狙いを定めた状態でゴングが鳴ったが、放たれた矢をパラライズダガーで切り落とし、お返しにネルフィーが相手の額に矢をプレゼントして終わった。


 副将戦の相手は大盾を装備しており、弓での高速射撃をかなり警戒していたものの、ネルフィーは相手の大盾を利用し視界から外れたところで【隠密】を発動。そのまま敵の後方に回り込むとパラライズダガーで首筋を掻っ切って決着となった。


 そして現在、最後に残された大将のルーカスは会話で何とかしようと試みている。


「ねぇ、君強いね! 良かったら僕のクランに来ないか? 優遇するよ! 君を一番にする!」


「いや、遠慮しておく。私は今最高のクランに在籍しているのでな」


「そんな事言わずにさぁ」


 ルーカスは何とか試合開始を引き延ばして弱点を探っているのだろう。それにしても本当に苛立つ顔してるなぁ。初対面のはずなのに、俺はコイツをすぐにでも殴りたいほどムカついている。なんでだ……?


 ……あ!! 分かった!!  似ているんだ……『マーダス』に。


 マーダス……ルーカス……名前の響きも少し似ているが、もしかして血縁者か?


≪ネルフィー、ちょっと頼みたいことがあるんだがいいか?≫


≪阿吽か? 念話で話しかけてくるなんてどうしたんだ≫


≪いや、こいつに「マーダスは元気か?」って聞いてみてくれないか?≫


≪……わかった。そういうことか≫


 念話を終えるとネルフィーの雰囲気が少し柔らかくなった感じがした。そういうこともできるんだな。さすが諜報に長けているだけある。


「ねぇルーカス、マーダスは元気にやっている?」


「は? あいつは3か月前に死んだだろ?」


「……そうなのか。王都を少し離れていたから知らなかったんだが、何があった?」


「あのクソ野郎、この街の冒険者ギルドで、暴走して大量殺人をしやがったんだ! 一応『豪炎のブライド』がその場で斬り殺したからそれ以上の被害は出なかったが……おかげで俺の家の爵位が降格させられちまった! 全く、最後までクソみたいな事してくれやがったぜ」


「そうか。済まなかったな、嫌なこと思い出させて」


「君たち、話はそれくらいにしたまえ! 試合を始めますよ!」


 審判に促され、両者は試合開始の位置に着いた。ルーカスに関しては渋々という感じではあったが。


 ルーカスはロングソードを持っており、前衛タイプのようだ。

 試合開始のゴングが鳴るとルーカスが即座に行動に移した。

 矢が当てにくいように左右にステップを踏みながら徐々にネルフィーに近付いている。


 ネルフィーはパラライズダガーを取り出すと【フラワーポイズン】で痺れ毒を作成し、パラライズダガーにエンチャント。そのままルーカスの背後に高速で回り込み、3回ダガーを振った。

 ルーカスも即座に振り返り一度は弾くものの、右腕と左の太ももに浅い傷を負っている。


 追加効果を付与されているパラライズダガーの強力な麻痺効果により、ルーカスの動きは徐々に悪くなっていき、ついには両手足にダガーを受け、両膝立ちの状態で動けなくなってしまう。


 最後は、泣きそうな表情をしているルーカスの首にダガーを刺し込んで決着を付け、2回戦も【星覇】の圧倒的勝利という結果となった。


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