第52話 お忍び
しばらくの間、オークション会場の喧騒は静まらなかった。
「……さすが阿吽。一撃で仕留めた」
「ありがとうございます、阿吽様! 必ず、使いこなしてみせます!!」
落札後、シンクはステージに上がり、俺から渡された金貨5000枚をマジックバッグから取り出し、机の上に置いた。
そして、ガラスケースに入れられている
本来は会場を出るタイミングで支払いを行い、落札した品物を受け取って帰るのだが、シンクはそんなことお構いなしだった。すぐにでも手元に欲しかったのだろう。
変形巨斧を落札した後もオークション会場には居たのだが、特に欲しい物は出品されず3時間ほど後に会場を出た。
外へ出るともう夕刻になっている。
結構時間はあったんだが、対戦相手の情報を集めてもいないどころか、明日の試合は誰が先鋒なのかも決めていない。
でもまぁ、昨日の大会の様子からすると大丈夫だろ。
ご機嫌なシンクとネルフィーを先頭にして5人で宿へ帰ろうとした時、後ろから声を掛けられた。
「あなた方はクラン【星覇】のメンバーで間違いありませんか?」
振り向くと20歳くらいの男性がニコやかに微笑みながらこちらを見ている。高級そうな身なりで、一見商人に思えるが
……敵意は無さそうだな。
その男性の一歩後ろには冒険者の格好をした女性が居るが、立ち姿勢が妙に綺麗だ。それに、あの腰に下げている剣は……そういう事か。
「そうだが……何か用か?」
「っ! 貴様! 殿下にむか「レジェンダ」……申し訳ありません」
「やはりそうでしたか。ご無礼を失礼しました、殿下」
「今の一瞬で違和感に気付いてカマをかけるか。武力だけでなく、観察力や知力も優れているのだな」
へぇ……わざと
予想だと……この男性はアルト王国の第二王子、『ルザルク・アルト殿下』だろう。
殿下と呼ばれる人間はこの国に3人居るが、第一王子はもっと年上のはずだ。そして、俺が王都に居た14年前に第三王子が生まれたというのが記事になっていた。年齢から推測するだけでも候補は絞れる。
「いえ、そうでもございません。それで、どうして殿下がこのような場所に?」
「今は非公式で街に来ているのだ。済まないが、砕けた口調で話をしてくれると助かる」
「分かりました。それでは失礼して…………で? なんか用か?」
「フハハハハ! 君は面白い男だな!
あー、用件についてなんだが、昨日の試合やさっきのオークションを見て、君と話がしてみたくなっただけなんだ。申し訳ない」
心底楽しそうに笑っている。身分を隠したいのか隠す必要がないのか、どっちなんだ?
「いや、別に話すぐらいは全く構わない」
「殿下、そろそろお時間が……」
「分かったよ、レジェンダ。あ、そうだ阿吽君、ひとつ頼まれてくれないかな?」
「内容によるが……」
「いや、変な意味じゃないから勘ぐらないでほしいんだが……今回の序列戦、何としてでも優勝してくれ」
「それは当然だ。俺たちはそれを目指している。……それにしても含みがありそうな言い方だな」
「優勝したら教えてあげるよ。あー、ダメだ。君と喋っていると素が出てしまう。それじゃあ失礼させていただく。次に会った時も非公式なら、口調はそのままにしてくれ。こうやって話をしてくれる同年代は、今まで居なかったんだ。それじゃあ序列戦楽しみに見させてもらうよ」
「あぁ。今まで見たことない強さを見せてやるよ」
ルザルク第二王子は微笑みながら後ろを向くと、レジェンダと共に王城の方へ向かって歩いていった。
あのレジェンダって奴も本気で怒っているわけではなかったな。多分、あれもルザルク王子に言われての演技なんだろう。
それにあの剣……王国騎士団の紋章が付いていた。本当に身分を隠したいのなら、武器はマジックバッグに入れておけばいいだけだし、あえて帯剣しておき俺たちに身分を悟らせるのって何の意図があるんだろうか。
まぁ厄介な事を頼まれたわけでもない。序列戦で優勝するのに変わりはないし、優勝すれば第二王子の意図も分かるだろう。それに、こちらも奴隷商や貴族の事で色々世話にもなりそうだしな。
うん、気にしない事にしよう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます