第51話 オークション


 宿屋を出た俺達は、シンクとネルフィーの武器や盾を探すために、武器・防具屋が立ち並ぶ地区へと向かった。

 アルラインでは武器屋と防具屋を兼ねている所も多くあり、レアリティが青の品物もチラホラ見かける。さすがに赤武器となると滅多に見られるものではないため、今見ている店舗でも置かれてはいない。

 

 この店では弓が多く取り揃えられており、ネルフィーが真剣な眼差しで品定めしている。そして数あるものの中から3本の弓を選び、俺のところまで持ってきた。


「この3つが使いやすそうではあるのだが、どれがいいだろうか?」


 俺は鑑定をしてみると一本だけ特殊効果が付いているのに気が付いた。


≪アーブルアーク:攻撃力10 樹属性のエンチャント効果を高める≫


「お? これなんかどうだ? 樹属性のエンチャント効果が上がるらしいぞ」


「なに? 阿吽は鑑定スキル持ちか?」


「あ、すまん。言い忘れてた」


「構わんよ。それではこの弓にする」


 そう言うと店主の方まで進み、アーブルアークを購入して戻ってきた。ちなみに値段は金貨20枚であったが、費用は昨日稼いだものから出している。

 今後も使う武器であるため、金に糸目は付けていないし、金貨20枚程度は全く減っていないのと同じだ。


 続いて短剣と槍が多く置かれている店舗にきた。ここでもネルフィーは麻痺効果のある武器を選んできており、鑑定眼が無くても見る目は確かなようだ。


≪パラライズダガー:攻撃力5 軽く扱いやすいダガー。敵に麻痺の状態異常効果≫


「それも良い武器だ。麻痺の状態異常効果が付いてる」


「ふむ。ならスキルでエンチャントすれば麻痺の追加効果がより入りやすくなりそうだな。これも買っていいか?」


「あぁ、もちろんだ」


 シンクの方を見てみると、あまりピンとくる武器は見当たらないようだ。

 今までハルバードっていう特殊な武器を使っていたからな。普通の槍では何かが違うらしい。


 その後4店舗を回ったがシンクが気に入る武器は見つからなかった。今度は防具屋へ行こうと考えていた時、ふと思い出した。


「そういえば、アルラインにはオークションをやってる場所があるけど、行ってみるか? 今日も序列戦があって街に人が集まっているから、オークションも開催されてるはずだ」


「オークションでございますか? どんなものか興味があります」


「ん。行きたい」


「んじゃ、みんなで行ってみるか」


 街のおよそ中心部にオークションを開催しているホールがある。

 15分ほど大通りを歩き、オークションホールへ入ると“82番”という番号を受付で渡された。オークションではこの番号を用いるようだ。

 会場内へ入ると、主催者が値段を引き上げようと客を煽っている声が聞こえてくる。今競られている商品は【天使の羽根ペン】という魔導具みたいだ。


 入場口から少し進み、端の方に5人分の空いている席を見つけ、並んで座った。


『さぁーて! 次の商品は、書籍でございます! 出品者はレクリア書店の店主! 本のタイトルは【夢見る乙女日記】。この本を読んだ複数の女性達が、数日後に婚約したという話がございます。

 しかし、この本の著者は不明! 現在、王都の女性達の中で話題になっている “幻の恋愛攻略本”! 最低落札価格は金貨50枚となっております!』


「!? あ、あれは、わたくしが書いた本でございます! そうなのですね……迷える子羊たちの助けになっているようで良かった……」


「……は? あれ著者不明って言ってなかったか?」


「えぇ、わたくしの名前は書かずレクリアの書店にこっそり置いてきたものでございます……。その直後に阿吽様とキヌ様との運命的な出会いを……」


「マジか……実はお前凄い才能の持ち主だったんじゃ……」


『おめでとうございます! 金貨98枚で9番のご婦人が落札されました!』


 嬉しそうにステージ上へ上がる20代の女性を見て、シンクは微笑みながら「がんばって」と小声で呟いていた。


 そして女性がステージから降りると次の商品が運び込まれてきた。


『続いての商品は、なんと王都で伝説となっている鍛冶職人と魔導具師が共同作成したと言われている武器でございます! この武器は一点物であり、この世に同じ武器は二つとございません!

 なお、出品者の情報は伏せさせていただきます』


「ん? 気になる商品が出てきたな! 鑑定してみるか」


変形巨斧へんけいきょふ怒簾虎威どすこい】:攻撃力15 防御力20 巨大な斧と盾に変形が可能な武器、扱いが非常に難しく、大型であるため取り回しも利きにくい。しかし、高い攻撃力と防御力を兼ね備えた幻の一品≫


「なかなか無骨ぶこつな武器だな。あの巨大な斧が変形して盾にもなるのか。しかも赤武器じゃねぇか」


「あ、阿吽様……! わたくし、どうしてもあの武器が使いたいです!」


 シンクは瞳を輝かせながら巨大な斧を見つめている。こんなにキラキラした表情を表に出すのは珍しい。

 これは本気出して落札してやるか。


「シンク、俺に任せとけ」


『最低落札価格は金貨300枚! さぁ、いかがでしょうか!』


 俺はスッと自分の番号が書かれたプレートを上げ、値段を口にした。


「金貨5000枚」


『…………へ?』


 会場がシーンと静まり返り、一斉にこちらに注目をしてくる。


「なんだ、もう買えるのか?」


『ほ、他にございませんか!? 現在金貨5000! 他にいらっしゃいませんか!!』


 客席は静まり返ったままだ。シンクのためならまだ出せるんだが……もう終わり?


『おめでとうございます! 82番の殿方、落札です!』



 落札が決まった直後、会場全体が揺れるほどの歓声に包まれた。


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