第159話 幻影城第四階層


――ドガーーン!!


 幻影城4階層へ転移した直後、突然何かが弾ける爆発音とともに凄まじい爆風に襲われ思わず目を細めた。


「何だっ!?」


 目に映る景色は序列戦を行ったアルラインにあるような闘技場。ただサイズが桁違いにデカい。それに所々が崩れ落ち、さながら廃墟の様相を呈している。

 その中心では銀色に輝くドラゴン状態のクエレブレが強烈なブレスを放ち、それを【無支奇】に進化したヤオウが魔法障壁で受け止め、弾き飛ばしたところだった。

 チェリーとメアの模擬戦とは違う圧倒的な力のぶつかり合い。にしても……、


「喧嘩……か?」


 それにしてはピリついた感じがしない。むしろ対峙している二人からは、じゃれ合っている猫のような雰囲気さえ感じる。何だ、この状況……?


「おぉ! 主ではないか!」


「“おぉ!”じゃねぇよ。どういう状況だよコレ」


「ぬ? 二人で軽く力試しをしていたところだが……」


「それにしてはフロアボロボロになってるじゃねぇか。てかクエレブレが居て何でこんな状況になんだ?」


「フォッフォッフォ。ここはダンジョンなのじゃから、壁や地面は壊れてもすぐ修復されるであろう?」


「いやまぁそうなんだけど……。とりあえず色々説明してくれよ」


「実はのぉ、最近儂の魔力が少しずつ戻ってきておるのじゃよ」


「マジか!?」


「うむ。じゃから今はどれくらいの魔力が戻っているか試すついでに、ヤオウの魔法障壁の特訓をしていたところだったのじゃ」


「それは嬉しい報告だな! ちなみに今はどれくらいまで戻ってるんだ?」


「氷の魔核を継承する前のおよそ7割、全盛期の半分程度の力ってところじゃな」


「ふむふむ……」


 いったん情報を整理するか。

 氷の魔核をドレイクに継承したクエレブレは、元来持っていた魔力総量が激減した。しかも、もともと2000年以上生きているクエレブレは霊獣の類になっており、魔素の濃い場所でなければ数年と生きられないような状況だったと認識している。だが俺と従属契約をし、魔素が充満しているダンジョン内で暮らすようになったことで徐々に力が戻ってきていると……。


「それってどれくらいまで戻りそうなんだ? 氷の魔核はもうないんだろ?」


「阿吽は勘違いしておるようじゃが、氷の魔核はそもそも儂が体内で作ったものじゃ。このダンジョン内であれば、時間をかけて再び作り直す事も可能じゃよ。それにこれだけ濃密な魔素が満ちておれば、全盛期の力すらも取り戻す事ができるやもしれぬ」


「マ、マジかよ。それは嬉しい誤算だ」


「阿吽の期待に応えられるよう儂も尽力させてもらおう」


「おう! あ、そういえばフロア作成途中だろ? どんな感じにする予定なんだ?」


「主、それはもう完成しているぞ」


「うん? まだこの闘技場しかできてないし、魔物も召喚してない……あっ!」


「フォッフォッフォ。このフロア、第四階層のボスは儂とヤオウじゃよ」


「うわぉ……」


 それでこの巨大な闘技場フロアって事か!

 まだ力が戻り切っていないとはいえ、元々はこの世界でも屈指の強さを誇っていたであろう銀龍クエレブレ。その全盛期ともなれば魔物のランクで言うSSかそれ以上である可能性も考えられる。

 さらにSSランクのヤオウも共闘するとなれば、いよいよこのフロアが陥落する未来は見えねぇな。ただ油断は禁物だ。ここまでの1階層から3階層も攻略難易度がアホみたいに高い。それを突破してくるような猛者たちであれば、あるいは……。

 まぁ最悪の事態に備えてキヌの階層と俺が作る最高階層はこれ以上のフロアにしなきゃだな!


「ということじゃから、阿吽から預かったダンジョンポイントはほとんど残っておる。一旦返しておくぞぃ」


「おう、また必要になったら言ってくれ。この後二人はどうするんだ?」


「せっかく思う存分暴れる事ができる場所と、力をぶつけられる相手ができたのじゃ。魔力を戻しつつヤオウや後輩たちに闘い方の指南でもさせてもらうことにするわぃ」


「ヤオウは?」


「我の行動は、主の命令のままに」


「そっか、まぁ何かあったら頼むからしばらく自由にしてていいぞ」


「承知した」


 んじゃ、ここでの確認は以上かな。次はキヌとウルスのフロアだが、一旦ここまでの階層を整理しよう。

 まず1階層の管轄はドレイクとイルス、フロア環境は浮遊諸島だ。ここでは地空からの同時攻撃に加え、遠近の攻撃手段を併せ持つ魔物や状態異常を与えてくる魔物が徘徊している。ここを突破しようと思ったらパーティー自体の練度と倒す優先順位を明確にしながらも臨機応変な対応をしなければならない。


 ネルフィーとバルバルの管轄する2階層はトラップ地帯。ここの攻略は斥候が鍵となるだろう。さらにボスフロアでは蜘蛛型魔物が作るトラップに気を配りながらもSランク上位のアラクネを倒さなければならない。このフロアも1階層同様少しのミスが命取りとなり、肉体だけでなく精神的にも負荷をかけていく階層だ。


 3階層であるシンク・メア・チェリーの管轄階層は一言で言うならば『数の暴力』。統率の取れた高ランクの魔物部隊が物理的に侵入者を圧殺する。このフロアに関しては、正直普通の冒険者では突破できる未来が見えない。

 ワンチャン狙うとするならパーティー全員が隠密行動を行い、戦闘を回避しながらボスに辿り着くことだが……これもボスエリアで圧殺されて終わりだろう。そもそも攻略させる気のないダンジョンと言い換えることもできてしまうほど絶望的な戦力差が侵入者を襲うわけだ。突破できるとなれば広範囲を高火力で一気に殲滅できるキヌのような存在が必要不可欠だが、そんなヤツがポンポン居るわけもない。


 そしてここ第四階層。銀龍クエレブレとSSランク上位の無支奇ヤオウが共闘するエリア。ここは単純な戦闘能力を求められるフロアだ。

 ボスである二人がそれぞれ高火力の攻撃を相手に押し付けるタイプではあるが、攻撃手段が異なっており得意とする距離も近・中・遠距離すべてカバーできている。そう考えたらこの二人って地味に相性が良いんだよなぁ。


 と、ここまでのフロアは俺が想定していた以上にコンセプトがバラバラであり、予想をはるかに超える難易度のダンジョンとなりそうだ。

 ただ問題点があるとすれば、ダンジョンポイントが全然足らないこと。俺も調子に乗って幻影城をバカデカくしてダンジョンポイントを使ってしまったのもあるが、4階層以外は完成させるために全て渡したダンジョンポイントのおよそ倍近くを必要とする。それにプレンヌヴェルトダンジョンをこれから20階層分増築することを優先するなら幻影城ダンジョンが完成するのは1年以上先の事なのかもしれない……。まぁ、そんなすぐここまで来れる奴がいるとは思えないからゆっくり作っていけばいいか!


 っと、次は第5階層キヌとウルスのフロアだな。キヌたちがどんなフロアを作るのか楽しみだ!

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