第63話 【次鋒戦】ネルフィーVSダリアス

~ネルフィー視点~


 リングに上がると独特な緊張感に襲われる。

 しかし、今の私はこの緊張感が心地良い。

 “仲間に信頼されている”。これがこんなにも気持ちを高揚させるものだったとは知らなかった。


 ダメだな。少しうわついているかもしれない。


『――試合開始ぃぃ!!』


 ゴングが鳴ると反射的にマジックバッグから『アーブルアーク』を取り出し、矢を一本放つ。

 未装備状態からの高速射撃はもう何十年も使い続けているため身体が無意識に動く。

 ただ、2回戦で見せているため相手も対策は考えているだろう。

 そして予想通り【アースウォール】で防がれる。


 魔法でできた土の壁を利用し視界から外れ、隠密で近付く。ここまではいつも使っている手だ。おおよそ魔術師は、今までもこのような防御策を取ってきた。


(ただし、仕留めることができなかった場合、その後どのような対応をしてくるかで攻撃パターンを変える必要があるな)


 そんなに簡単に勝てる相手ではないことくらいは分かっているつもりだ。


 すると、ダリアスは予想を上回る対応をしてきた。

 高出力の【ライト】で一瞬だが私の視界を奪い、隠密の効果も解かれてしまったのだ。


「【アースバレット】」


 視界がまだ戻らない中、ダリアスの詠唱に合わせできるだけ横に飛び退くが、わずかにダメージは入ってしまった。

 今の対応方法は初めてだ。よく私のことを分析している。


「あなたの戦闘方法は僕とは相性が悪いようだね。対策さえしてしまえば楽に倒せそうだよ」


「フッ……では、そのまま油断していてくれ」


「次は僕から行かせてもらおうかな」


 そういうとマジックバッグから新たな杖を取り出す。そして使えないはずの水属性魔法【ウォーターランス】を放ってきた。

 あれは所謂いわゆる魔杖まじょうと呼ばれるものだろう。さすがに3属性扱える魔導士は見たことが無い。


 リーフカッターでウォーターランスの威力を殺し、避けながら【観察眼】で相手の隙を探る。


(……なるほど、これだけ対応されるとなると私の攻撃を当てるのには準備が必要だな。状態異常も回復される可能性が高い。挑発しつつ気を逸らしてみるとしよう……)


「ダリアス、そんな程度か? 疲れてきているようだが、魔力量が足りないのではないか?」


「フンッ、あなたを倒すのにそんなに魔力は必要ありません」


 会話の最中ではあるが今度は矢を2本高速射撃する。


「その手はさっき潰しましたよ! 【アースウォール】」


 最初と同じ展開を作り出したのは私の思惑通りだ。油断してくれている今のうちに、一気に決着を付けるとしよう。


 私は最初とまったく同様の展開にするため、すかさず壁の陰に隠れつつ【隠密】を発動。しかし今回は先ほどとは違い相手が【ライト】を使用してくるタイミングで上空に向け5本の矢を高速射撃しておき、ライトは目を閉じることで回避した。


(矢の着弾はおよそ15秒後、落下予測地点に誘導開始)


「【至妙】、【リーフカッター】」


「ふん、無駄だよ、【アースウォール】」


(いけるっ!)


 今度は隠密を使用せず、バフで敏捷値を上げ、土の壁に張り付く。再びライトを発動したタイミングを見計らい、高速で相手の後方へ移動した。


「【フラワーポイズン】、【ポイズンエンチャント】」


 少しでも相手の思考力を低下させるため、パラライズダガーに睡眠のエンチャントを付与し、背中に切り傷と状態異常を与えた。


「それも対策済みだ! 【ヒーリング】【キュア】」


 ダリアスは一歩下がりながら回復をする。


(あと一歩後ろ、残り2秒……)


 すかさずパラライズダガーを足元に向けて投げると、ダリアスがさらに一歩後ろに下がった。


「ハッ! 万策尽きたか? そろそ……グフッ!」


 上空から同時に5本の矢が降り注ぎダグラスを射抜く。


 投げたパラライズダガーを回収しポイズンエンチャントで麻痺を付与、ダグラスの身体を5回斬りつける。


「油断してくれて、ありがとう」


 最後に側頭部にダガーを刺し込むとうつ伏せにダリアスは倒れ、動かなくなった。


『そこまでぇぇ! 次鋒戦勝者は……【星覇】ネルフィー・ガーデン!!!』



 自陣を振り向くと、喜んでくれている仲間たちの顔が見えた。


 今まで戦闘しかできない自分が嫌いだった。

 「もっと他にできることがあれば良いのに」とずっと考えていた。

 別の人生もあったのではないかと考えた日もある。

 だが、これまで戦闘や諜報の技術を磨き上げてきて本当に良かった。


 大好きな仲間たちの笑顔が見られる、信頼できる仲間たちの力になれるのだから……

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