第64話 急展開


~阿吽視点~


『次鋒戦勝者は……【星覇】ネルフィー・ガーデン!!!』


 よし、2連勝だ! あと1勝で優勝が決まる。


 ネルフィーが戻ってくると、シンクは興奮した様子でネルフィーに話しかけていた。


「ネルフィーさん! 素晴らしい戦術でした! 今度わたくしにもご教授いただけませんでしょうか!」


「あぁ、かまわない。 だが、シンクの方が私よりも強いだろう」


「いえ、あの計算された芸術的な戦い方は、わたくしにはできません!」


「ネルフィーお疲れ! 最後は計算通りって感じか? すごいな!」


「相手が油断してくれていたから上手くハマったよ」


 話をしているとダリアスが運び出されていった。

 次は中堅戦だ。シンクなら勝ち星をしっかり取ってくるだろう。


 ……だが、なんだろう。凄く違和感がある。

 ブライドだけでなく、【デイトナ】のメンバー全員の表情が変わらない。それどころかブライドに関しては余裕さえあるように見える。

 自分の試合が行われず負けが確定する状況を、昔のままならアイツが許容するはずがない。


 明確には分からないが、何かが……変だ。

 優勝することが目的ではないような……


「阿吽……嫌な予感がする」


「……キヌもか? なんだこの違和感は……」


「!? 阿吽、【危険察知】が反応してる! ……闘技場の外、大きな魔力を感じる」


「なに!? いったいなんだ……」


 キヌの危険察知が反応するということはキヌでも大怪我を負うレベルの何かが出現した、もしくは力を発動しようとしたことになる……


 どう対応すべきか思考を巡らせていると、突然バルバルから念話が入ってきた。


≪みなさん! 聞こえますか!?≫


≪ん? どうしたバルバル、聞こえてるぞ? ただ、ちょっと今立て込んで……≫


≪大変です! 常闇の森に突然Sランクの魔獣ナイトメアが現れました! 進行方向はレクリアです!≫


≪え!? このタイミングでか!?≫


 ヤバい……序列戦が行われている今、レクリアやミラルダからはSランクの冒険者は出払っているはず。

 今すぐに対応できる冒険者が居ないとなれば、防衛戦力は街の衛兵とAランク以下の冒険者のみ。レクリアだけでなくプレンヌヴェルトにも少なくない被害が出る可能性が非常に高い。


「兄貴、俺とネルフィーねぇさんが先に帰還して対応してくるっす! 試合は結果が出てますし、居なくなっても覆らないはずなんで」


 落ち着け。一旦冷静になれ。


 今、俺達は同時に3つ事案に対応しなければならなくなった。

 一つはこの試合の優勝。これは断罪のためにも必須だ。あと一勝は確実にもぎ取る必要がある。


 次に常闇の森のSランク魔獣……ドレイクとネルフィーならば対応は可能であると思うが、決して弱いことはないだろう。最悪時間稼ぎをしてもらうしかない。


 最後にキヌが察知した闘技場の外の大きな魔力。

 これに関しては、タイミング的にブライドが絡んでいる可能性も高い。無視するというのは愚策か……


 クソっ! どうすりゃいい!

 どれかを捨てる選択は……俺にはできない!


「阿吽……外のことは私たちに任せて。阿吽はブライドに勝つことだけ考えて」


 ……それしかない。

 分かってる。全てを同時に対応しようと思ったら、その方法しかない。


 だが……


「……信じて。私たちは強い」


 ……そうだな。

 俺一人での対応は確実に無理だ。

 それに、キヌの言う通り、俺の仲間は強い。

 ……信じよう。


「……わかった。ドレイクとネルフィーは控室からフォレノワールに帰還転移、常闇の森に出現したナイトメアの対応を任せる。危ないと思ったらすぐに帰還転移しろ。これは絶対だ! 最悪の場合はダンジョンの機能でなんとかできるか、アルス達と相談してくれ」


「了解っす!」 「わかった」


「キヌとシンクは闘技場の外の対応を頼む。二人も危ないと思ったら即帰還するんだ。最優先はお前らの命だってことを忘れるな」


「ん。私たちは阿吽が優勝を決めてくれるって信じてる」


「そうでございます! 外に何が居るかは分かりませんが、キヌ様とわたくしで必ず対応しきってみせます」


「おう、ここは俺に任せろ!」


 4人は笑顔で頷くと控室の方へ向かっていった。


 さて、じゃあここは俺が全てキッチリ決めてやる!


『おーっと!? 【星覇】はどうしたのでしょうか!? 阿吽選手を残して全員が控室に向かっていったぞ!?』


 まずは俺に注目を集めないとな。とりあえずリングに上がるか。


「おいマイケル! ちょっとマイク貸せ!」


 マイケルに大声で呼びかけると、係員が一本のマイクをもってきた。

 せっかくだ。どうせやるなら、派手にいこうか!


『あー、あー。俺は【星覇】の阿吽だ。

 おいデイトナ! 正直ガッカリだぜ……こんな簡単に勝てちまいそうだとなぁ!

 だから、お前らにチャンスをやることにしたんだ。中堅・副将戦は俺たちの棄権でいい。

 大将戦でケリつけようや!』


『おーっと!! なんということだ! 大将戦が優勝決定戦となることになりました!!

 ちなみに、ルール上は阿吽選手が提案していることは全く問題ありません!』


 これでいい。もしブライド達が考えていることが、俺の中での最悪なシナリオだとするのなら、序列戦の間だけでも【デイトナ】のメンバーをこの場に留めておくことができるのは大きい。

 その証拠に今まで全くの無表情だったブライドの表情が少し歪みだしている。

 もともとコイツらはプライドが高く、貴族で序列1位クラン。さらに相手に2連敗してから情けをかけられている状態。

 これだけ揃っていたら、ここから外には出られないはずだ。


「わかった。その提案を受ける」


 よし、乗ってきた! あとはブライドを叩きのめすのが、俺の仕事だ!

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